「ガス料金のご提案」などと告げて勧誘した訪問販売業者3社と代表者に消費者庁が業務停止命令、業務禁止命令。訪問販売業者は2023年6月1日以降の新しい運用指針(ガイドライン)の内容を再確認を。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

5月10日、消費者庁は、「ガス料金のご提案」などと告げて勧誘行為をした訪問販売業者3社とその代表者に対して、特定商取引法に基づく業務停止命令・業務禁止命令を命じました。
2023年度では初めての特定商取引法に基づく行政処分です。


消費者庁は、6月1日以降は、特定商取引法に基づく規制については、新しい運用指針(ガイドライン)を適用することを明らかにしています。
そこで、今日は、訪問販売の勧誘方法のルールを再確認しておこうと思います。

「勧誘」に対する過去の処分例

消費者庁と都道府県は、訪問販売の「勧誘」の方法が特定商取引法のルールに違反しているときには、行政処分を命じます。

「あまり処分されないだろう」と甘く見ている会社もいるかもしれませんので、まずは行政処分件数と処分の理由について確認します。

特定商取引法違反に基づく行政処分件数の推移

例年100件前後の件数(2018年以降の3年間は131件、176件、141件と増加)が処分されています。
ただ、直近2年間は、行政処分事例が減っています。
おそらく、新型コロナ禍で訪問販売の数が減ったことが原因ではないかと推測しています。

この件数の推移から見ると、消費者庁と都道府県が特定商取引法に対して厳しい姿勢でいることが伺えます。

特定商取引法違反の具体的な理由

消費者庁のウェブサイトに過去の執行状況が掲載されています。
これを見ると、過去にどのような特定商取引法違反について行政処分を出しているのかがわかります。

2018年1月1日から2022年12月31日までの訪問販売に対する処分事例を分析すると

  • 訪問販売に対する処分事例は338件(法人の処分と代表者の処分は別にカウント)
  • 業種は屋根や外壁、上下水道の修理など住宅に関わるリフォーム業者が圧倒的多数
  • 処分理由は勧誘目的等不明示、契約書面の記載不備、不実の告知、不利益事実の不告知が圧倒的多数
  • 1つの処分で、複数の理由が重複して処分理由になっている
  • 「電力・ガスの値段が安くなります」系の行政処分は、2019年12月6日に1件だけ

という特徴があります。

今回のケースは、勧誘目的の不明示、再勧誘・不招請勧誘、不利益事実の不告知、消費者の判断力不足に乗した契約締結が処分理由になっています。

訪問販売での勧誘に関する様々なルール

訪問販売での勧誘は、特定商取引法によって規制されています。
しかし、具体的にどのような勧誘方法がNGなのかまでは書いていません。

規制される具体例は、消費者庁が出している通達と複数の運用指針(ガイドライン)で確認する必要があります。しかも、6月1日から新しい運用指針が適用されます。
この通達とガイドラインの存在について、あまり知らないのではないでしょうか。

ここでは、今回の処分理由に関わる勧誘目的の明示、再勧誘・不招請勧誘、不利益事実の不告知(不実の告知)についてのルールを確認します。

勧誘目的の明示

勧誘目的の明示については、2023年4月21日付の消費者庁の通達によって、6月1日以降の運用指針が明らかになっています。

詳細は下記リンク先で確認して欲しいです。
ここでは、勧誘目的を明示するタイミングと、「勧誘目的であること」の告げ方について説明します。

1.勧誘目的を明示するタイミング

社名や勧誘目的を明示するタイミングについて、ガイドラインでは「少なくとも勧誘があったといえる顧客の契約締結の意思の形成に影響を与える行為を開始する前」とされています。

具体的には、住居で行う訪問販売の場合には、基本的に、インターホンで開口一番に告げなければならない、とされています。

2.勧誘目的であることを告げる方法

勧誘目的での訪問であることを告げるためには、

  • 「本日は、弊社の健康布団をお勧めにまいりました。」
  • 「水道管の無料点検にまいりました。損傷等があった場合には、有料になりますが、修理工事をおすすめしております。」

などと、どんな商品であるか、無料の範囲と有料になる範囲についても告げる義務があります。

よくあるNG例は、住宅リフォームの訪問営業で、「無料点検です」とだけ告げて、どのような場合から有料になるかを黙ったまま点検を開始して、「屋根の修理が必要です」と修理に関する契約を結ぶ際に初めて有料になることを告げるケースです。

これは屋根の修理が有料であることを点検前に告げていないので、勧誘目的を明示していないと判断される可能性があります。

また、勧誘目的を告げるときには、モゴモゴ話すのではなく、勧誘している相手にキチンと伝わるようにすることが求められています。
ガイドラインでは、できる限り身分証明書等を携帯提示するように求められています。

3.ガイドラインが挙げるNG例

ガイドラインでは、消費者の家を訪問して開口一番に住宅リフォームの勧誘をする目的を告げる方法のNG例として

  • 「近くで工事をやっているので、ついでにお宅の屋根を点検してあげましょう」
  • 「排水管の点検に来ました」
  • 「以前施工をした業者からメンテナンスを引き継いだので、挨拶に伺いました」などと告げて点検等を行った後に住宅リフォームを勧誘する場合
  • 「排水管の清掃をしませんか」などと排水管の清掃のみ勧誘して清掃を行った後に「高圧で清掃を行ったため、排水管に亀裂等がないか点検するために床下を見せてほしい」などと告げて床下を点検し、その結果床下リフォームを勧誘する場合

を挙げています。

訪問販売での営業担当者の営業トークを見直してください。

再勧誘・不招請勧誘

特定商取引法は、消費者が断っているのに再度勧誘することを、再勧誘・不招請勧誘として禁止しています。

再勧誘についてもガイドライン(運用指針)が新しくなっています。

細かいルールはガイドラインで確認してください。
ここでは、以下のポイントだけ取り上げます。

1.相手が勧誘を受ける意思があるかを確認する義務

勧誘行為を始める前に、相手方に勧誘を受ける意思があることを確認する義務があります(努力義務)。

具体的には、飛び込みの訪問の場合は、商品説明等を行う前に「当社の販売する商品についてお話を聞いていただけますでしょうか。」などと口頭で伝えて、「いいですよ」との確認を得る。

相手からの反応をもらわないと、相手が勧誘を受ける意思があるかを確認したことになりません。

2.相手が契約を締結しない意思を表示した場合

相手が契約を締結しない意思を明示したときには勧誘することはできません(再勧誘・不招請勧誘の禁止)。

具体的には、相手が「いりません」「関心がありません」「お断りします」「結構です」などと答えた場合は、契約締結の意思がないことを表示した場合にあたるので、それ以上の勧誘をすることはできなくなります。

この場合、勧誘することができなくなるのは、訪問した営業担当者だけではありません。会社全体がその相手に対する勧誘をできなくなります

そのため、エリアで絨毯爆撃的に訪問営業をしているときには、NGを出された家に重複して訪問しないように情報共有する必要があります。

不利益事実の不告知

不利益事実の不告知については、消費者にとって不利益となる事実を故意・重過失で告げないことが規制されています。

詐欺との違い

特定商取引法が規制しているのは、故意に「告げないこと」です。
相手方が錯誤に陥り、契約を締結し又は解除を行わなかったことは必要とされていません。

詐欺の場合には、営業担当者が告げた内容や告げなかったことで、相手が騙されて錯誤に陥ることが必要です。
これに対して、特定商取引法は、あくまでも、営業担当者が言ったか、言わなかったかだけが違法かどうかの分かれ目です。

不告知とは

不利益事実の不告知としては、例えば、相手が現在契約している電気・ガスの料金が「うちに切り替えてもらえれば安くなります」などと勧誘するけれど、その時に、場合によっては現在の契約のほうが安い(切り替えた方が高くなる)可能性があることを、営業担当者がわかっているのに相手に告げない場合等です。

ガイドラインでは、1回目だけが低額で2回目以降は1回目に比して高くなる契約なのに、「1回○○円で試すことができる。」とだけ告げる場合や、容器や書面の送付を条件にクーリング・オフ後の解約を認めているにもかかわらず、「30日間全額返金保証」とのみ強調し、解約のための条件を告げない場合等も例として挙げられています。

不利益事実を告げると契約ができないと考えて、余計なことは言うまいと告知しないことがあるかもしれません。それは不利益事実の不告知として特定商取引法違反なので気をつけてください。

不実勧誘・誇大広告のガイドライン

なお、不実の告知による勧誘や誇大広告については別にガイドライン(運用指針)が存在します。こちらも確認してください。

まとめ

特定商取引法については、禁止される行為が法律と運用指針(ガイドライン)に具体的に挙げられています。

訪問販売だけではなく、通信販売や電話勧誘についても規制される内容が書かれているので、こうした業態の会社はガイドラインの内容を確認するようにしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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