不祥事を起こした会社との取引を継続することはコンプライアンスに違反するのか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023/05/15、ジャニーズ事務所が謝罪動画を配信したことに関して危機管理広報の観点から取り上げました。

ジャニーズ事務所との取引継続に関する各社の動き

ジャニーズ事務所の性加害問題は、故・ジャニー喜多川氏が起こした問題ですが、今回の謝罪動画の配信を受け、今後のジャニーズ事務所との取引についての検討状況が報じられています。

時事通信の報道では

  • アサヒグループホールディングスや日清オイリオグループは、直ちにはCM放送を中止しない方針
  • 日産自動車は慎重に状況を見守る
  • 金融関係のスポンサー企業はジャニーズ事務所からのアクション待ち

だそうです。

現状ではジャニーズ事務所との取引を止めるとした会社はありません。

※2023/09/13追記

ジャニーズ事務所が調査報告書を公表した後の対応を踏まえて、別の角度から取引の継続、終了の是非についての記事を追加しました。

不正・不祥事を起こした会社と取引を継続することはコンプライアンスに違反するか?

時事通信の報道が問題としているのは「性加害問題を起こしたジャニーズ事務所と取引を継続することは、取引する会社のコンプライアンスに違反しないのか?」だと思います。

別の言い方をすると、性加害問題を起こしたジャニーズ事務所の今後の売上、利益に貢献することはコンプライアンスの点で問題がないか?ということでしょう。

今回のケースで取引を継続することは、取引する会社のコンプライアンスに違反するのでしょうか?

結論として、取引を継続してもコンプライアンスには違反しない、と思います(ただし、留保付き)。

その理由は、2つ考えられます。

  1. 現在のジャニーズ事務所は性加害の当事者ではないこと(ただし気になる部分はある)
  2. 取引の中でのコンプライアンス違反が生じたわけではないこと

です。

いずれの理由も、今回の性加害問題に限らず、コンプライアンス違反を起こした会社との取引の継続の是非を考える際に判断材料となる視点です。

それぞれ説明します。

現在のジャニーズ事務所は性加害の当事者ではないこと

1点目は、現在のジャニーズ事務所が性加害の当事者になったわけではないこと、です。

現在進行形で不正・不祥事を起こした会社が存在する。しかし、その会社は不正・不祥事を起こした当事者に対する処分を何もしない。役員も責任を一切とらない。

こんな場合に取引を継続すると、不正・不祥事を起こした当事者にコンプライアンス違反に対する制裁が何もないことになってしまいます。まるで、コンプライアンス違反をしたことが「ヤリ得」になってしまいます。コンプライアンス違反の助長・支援といってもいいでしょう。

しかし、今回のケースでは、性加害行為をしたのは、故・ジャニー喜多川氏と報じられています。既に亡くなっており、ジャニーズ事務所が現在進行形で性加害をしているわけではありません。

そうだとすれば、現在のジャニーズ事務所と取引を継続しても、性加害問題を助長・支援することにはなりません。

ただし、現在のジャニーズ事務所は性加害の当事者ではないからまったく問題がないかというと、気になる点はあります。

現在のジャニーズ事務所が過去の性加害問題との関係を断ちきっているか

気になる点の一つは、現在のジャニーズ事務所が過去の故・ジャニー喜多川氏の性加害問題との関係を断ちきっているか、です。

現在のジャニーズ事務所が過去に遡って調査を積極的にしないのとすれば、それは過去の性加害問題を放置するに等しくなります。これでは、過去の性加害問題を容認したのと変わりません

特に、故・ジャニー喜多川氏が社長だった当時から現在の社長が取締役だった場合には、故・ジャニー喜多川氏に対して取締役としての監視監督義務を負っていました。過去にも何度も報じられていた性加害問題を調査することなく終えたとすれば、取締役としての監視監督義務を果たしていない、要は、過去の性加害を問題視していないのと同じです。

この場合には、現在のジャニーズ事務所との取引を継続することは、性加害問題を容認する会社との取引をすることになるので、コンプライアンス違反の助長・支援と言ってもよいでしょう。

これに対して、ジャニーズ事務所が過去に遡ってキチンと原因を究明し再発を防止する会社であることを明らかにした。過去と縁を絶った。そのときには、取引を継続してもコンプライアンス違反の助長・支援にはならないでしょう。

タレントは被害者側であると同時に加害者側?

もう1つ気になるのは、ジャニーズ事務所の所属タレントの置かれた立場です。

性加害問題を起こしたのは、前社長である故・ジャニー喜多川氏です。そのため、残されたタレントたちは、性加害問題の被害者です。

その一方で、所属タレントも、性加害問題を知って故・ジャニー喜多川氏から性加害が行われることを放置していたのであれば、黙示に承諾していたことになり、加害者と同じ立場です。

一般の企業で不正が起きた場合に、不正が行われている現場でそれを止めさせずに黙認していた管理職や同僚も不正の片棒を担ぐと評されるのと同じです。

もしそうなれば、性加害問題を黙認していたタレント達が所属している事務所との取引を継続することになるので、コンプライアンス違反の助長・支援をすることと変わりません。

残されたタレント達がどのような立場だったのかは、ジャニーズ事務所がキチンと調査することによって判明するはずです。というか、そこまで調査しなければキチンと調査したことになりません。

取引を継続することがコンプライアンス違反の助長・支援になるかどうかは、調査結果を待ってから判断しても遅くはありません。

取引の中でコンプライアンス違反が行われたわけではないこと

話を元に戻しましょう。

性加害問題を起こした会社との取引を継続することがコンプライアンス違反にならないと考えられる理由の2点目は、取引の中でコンプライアンス違反が行われたわけではないことです。

一般の会社の取引でも、担当者にキックバックする業務上横領をした場合などは、その会社との取引を継続することはコンプライアンス違反になるとの理由で契約を解除することがあります。

それと同様に、ジャニーズ事務所が取引の中で不正をしたときには、取引を継続することはコンプライアンス違反であるとして、契約を終了するのが筋です。

しかし、今回の性加害問題はあくまでジャニーズ事務所の中での問題で、役員やタレントやマネージャーが取引先から不正に利益を得たとか、取引先に不正に損害を及ぼしたわけではありません。

そのため、過去に性加害問題を起こしたとしても、その後に取引を継続してもコンプライアンス違反にはならないと考えることができます。

まとめ

ジャニーズ事務所のケースを例にして説明しました。

一般の会社が不正・不祥事を起こした後に、その会社との取引を継続することがコンプライアンス違反になるかどうかを判断するときも同じ視座で良いと思います。

  • 1点目は、コンプライアンス違反をした当事者に対する調査、処分をして、コンプライアンス違反と縁を絶ったか
  • 2点目は、取引の中でコンプライアンス違反が行われたのか

の2点から考えて、取引を継続してもコンプライアンス違反にならないか、取引を継続することがコンプライアンスの助長・支援になってしまうか、によって判断してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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