こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
今回は話題からは少し時間が経ちましたが、すき家の異物混入問題を取り上げます。
すき家は2025年3月22日、「すき家に関する一部報道について」と題するお知らせを自社サイトにて公表し、同社が運営する店舗で提供した「みそ汁」に異物(ネズミ)が混入していたことを明らかにしました。
1月下旬にGoogle Mapsの口コミに投稿されていた写真が、3月21日からSNSで拡散され話題になり、メディアで取り上げられたことがきっかけです。
すき家の危機管理広報の初動は決して遅くない
このケースについては、異物が混入してから公表まで2か月を要していることから「杜撰な対応」と批判する報道も見られます。
しかし、食品業界の危機管理としては、今回の公表のタイミングは決して遅くはありません。
すき家は食品を提供する会社として、食の安心・安全を第一に優先することが求められます。
そのため、提供した食品に異物(ネズミ)が混入するような、すき家を利用する消費者に衛生面に対する不安感を与える事態は、あってはならないことです。
もちろん、小林製薬の紅麹製品のように健康を害するほどの結果を生じさせている場合や、この1件に限らず他に提供している食品にも拡大・拡散する可能性があったりするなら、異物が混入していた1月下旬に公表すべきだったでしょう。
しかし、すき家の場合は、数多ある店舗で何食も提供しているその中の1回だけに異物が混入しただけです。おそらくppm(百万分率)に換算しても相当、レアケースのはずです。
また、消費者が口にする前に気がついたため、健康危害も発生していません。
工場で製造された食材に混入していたわけでもなく、健康危害が拡大する可能性もありません。
そうすると、その時点ですき家が個別事象として対応することは決して間違ってはいません。
おそらく同業他社も同じだと思います。
この時点での公表、ましてや記者会見を求めるなど、あまりにも非現実的な指摘であるように思います。
まるか食品ペヤング事件との比較
すき家と同様に異物混入があった事例としては、2014年12月に発生したペヤング異物混入事件があります。
2014年12月2日にカップ焼きそばのペヤングにゴキブリが入っていたとの写真がTwitter(当時)にアップ・拡散され、ペヤングは12月4日に混入の可能性が低いとしつつも4万6000個の自主回収を発表し、12月11日以降2015年5月まで全工場でのペヤングの生産を停止するなどに至ったケースです。
今回のすき家も最終的には2025年3月29日に、「ショッピングセンター内などの一部店舗を除く全店を、3月31日(月)午前9時から4月4日(金)午前9時までの間、害虫・害獣の外部侵入、および内部生息発生撲滅のための対策を行わせていただくため、一時閉店」することを決定しています。
ただし、すき家が全店を一時閉店した原因は、異物(ネズミ)混入が話題になった直後の3月29日に別店舗でも異物(害虫)の混入が発覚したからです。
当初は、すき家も異物(ネズミ)が混入していた店舗だけを一時閉店し、地元保健所の確認のもと営業を再開していました。
1件だけでも全工場で生産停止をしたペヤング事件と、2件立て続けに発生したので全店舗を一時閉店することにしたすき家事件とは、停止・閉店の至った経緯が若干異なります。
どちらの会社の判断が正しいという答えはありません。
ただ、どちらも生産停止・一時閉店の間に、店舗内の消毒・再発防止をするなどして、会社が求められている食の安全・安心を確保しようとする姿勢を示せたことが、再開後に消費者や世の中の人たちからの信頼を回復することに繋がっています。
すき家の危機管理対応のよかったところ
タイミングと内容が適切だった第2報
すき家の危機管理の良かった点は、3月22日の第1報の発表に続けて、3月27日に第2報を発表したことです。
第2報は
3月22日の本件に関する公表以後、1月21日に事案が発生してから公表に至るまでの間の当社の対応や異物が混入した具体的な状況につき多くのご質問をいただいていることから、第2報として以下の通りご報告いたします。
と記載されているとおり、SNSの反応や会社への問い合わせの内容を踏まえたもので、お客さまや世の中の人たちの気になっている関心事に答える(かゆいところに手が届く)対応になっています。
危機管理広報は、往々にして形式的に発表して終わりとして、発表する企業側の満足で終わってしまっていることが少なくありません。
しかし、広報の目的は消費者や世の中の人たちからの信頼を取り戻すことにあるのですから、消費者や世の中の人たちが不安に思っていることに誠実に答えることが必要です。
その意味で、すき家の第2報は、タイミングと内容の両方において、信頼を取り戻すためには非常に効果的であったように思います。
カタラーゼ検査への言及
すき家が信頼を取り戻す要因の一つになったのが、カタラーゼ検査への言及でした。
カタラーゼ検査は、食品内にあるたんぱく質の変化を見る検査で、加熱されるとたんぱく質が分解される特徴を踏まえて検査です。
食品への異物混入事案では、異物が混入したタイミングを判断するためによく行われます。
すき家の第2報では、
当社の専門部署(グループ食品安全基準本部)が、混入した異物が加熱されていたかどうかを調べる検査(カタラーゼ検査)を実施した結果、加熱されていないことを示す反応が出たことから、科学的な視点からも異物が鍋に混入した可能性は著しく低いと考えております。
とあり加熱されていないこと、すなわち調理過程で混入したものではないことが説明されていました。
すき家は「皆まで言うな」との武士の情けから、「加熱されていないことを示す反応が出た」との事実を指摘するに留めましたが、この部分を読んだ世の中の人たちは「すき家には問題がない」と判断し、すき家に対する批判的な声はほとんど見られなくなりました。
危機管理広報の成功と言ってよいでしょう。
それどころか、3月29日に別店舗でも異物(害虫)混入が発生したことをきっかけに、すき家が迅速に全店舗の一時閉店と消毒等の対応を発表したことが、すき家を応援する声を加速させることになりました。
ネットには、「メディアがすき家がガラガラな様子を報道するだろうから、すき家の再開のタイミングに合わせて並ぶぞ」などという声もありました。
偶然のようにも見えますが、でも、日頃からの食の安全・安心に対する誠実な姿勢があったからこそ、すき家のファンに支持されたように思います。
ちなみに、私もすき家にはよく行きます。裏メニューでもある「キング牛丼」をたまに食べて、お腹いっぱいになってます。
危機管理はテクニックではなく、日頃からの企業姿勢、企業価値が成否に影響することが分かった事案でした。