カナデビア(旧日立造船)グループが、1980年代から続く船舶用エンジンの燃費の計測結果の改ざんなどに関する調査報告書を公表。他社の内部告発、内部通報を無視し、経営トップが認識した後も継続していた悪質さ。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

世間一般では2025年3月31日に発表されたフジ・メディアHD、フジテレビの調査報告書に書かれた事実の酷さが注目を集めています。

その一方で、あまり注目されていませんが、カナデビア(旧日立造船)が3月25日に調査報告書を発表した(3月27日に一部訂正したた)データ改ざん案件も、ガバナンスの機能不全という点ではかなり悪質です。

私も記者の方から教えられて初めて内容を知りました。

カナデビア(旧日立造船)グループ内でのデータ改ざんの概要

カナデビアグループで行われたデータ改ざん(不適切行為)の概要は、次のとおりです。

  • 日立造船の有明工場で行っていた船用エンジン事業(2023年4月1日からは今治造船との共同出資で設立した日立造船マリンエンジンに事業承継)にて、遅くとも 1980 年代から燃料消費量の改ざん(及びこれに伴う燃料消費率の改ざん)が行われていた
  • 有明工場では、遅くとも NOx 放出量における一次規制の適用が開始された 2000 年頃以降から 2024 年の本件不適切行為の公表までの期間、NOx 算定担当者は、算定される NOx 放出量 Max 値が規制値を超過することが判明した場合、排ガス成分濃度の改ざんも行っていた
  • カナデビアの子会社であるアイメックスでも、燃料消費量の改ざん、排ガス成分濃度の改ざん、水制動機荷重値(トルク)の調整及び一般性能値の改ざん等を行っていた

あくまで概要なので、詳細は調査報告書で確認してください。

なお、本件によって、日立造船マリンエンジンは2024年11月28日、品質マネジメントに関する規格 ISO9001 の認証が取り消されています。

カナデビアグループのガバナンスの機能不全

コンプライアンス意識の欠如

1980年代から40年もの長きに亘り燃料消費量・燃料消費率のデータ改ざんを続けていただけでも、カナデビア社内のコンプライアンス意識が欠如しているや、コンプライアンスを守らせようとするガバナンス体制が機能していなかったことが伺えます。

40年以上もデータ改ざんを続けていれば、コンプライアンスを守る意識がある会社なら、その間に誰かが「これはおかしくないか」と声を挙げる機会は何度もあります。

日立造船(当時)でも、以下のとおり、他社からの内部告発や内部通報がありました。

ところが、日立造船はこれらの告発や通報を無視しました。

なお一層、コンプライアンス意識の欠如やガバナンス体制が機能していなかったことが分かります。

他社からの内部告発を無視

コンプライアンス意識の欠如やガバナンスの機能不全が明らかになった1回目は、2009年8月です。

燃料消費率の偽装に関する他社の内部告発と思われる文書を当時の有明工場の品質保証部長が入手したにもかかわらず、燃料消費率の改ざんが是正されることはありませんでした(調査報告書37ページ)。

品質保証部長が偽装の告発を認識したのに、改ざんを是正しなかったのですから、コンプライアンス意識の欠如以前に「良いモノを作る」という物づくりをする組織としての心構えの根本的な部分が欠如していると言っても良いでしょう。

法務・コンプライアンス部門の担当取締役が改ざんの継続を容認

コンプライアンス意識の欠如やガバナンスの機能不全が明らかになった2回目は、2012 年7月23日、有明工場における舶用エンジンの燃費に関する不適切行為が社内の通報窓口専用メールを利用し顕名で通報されたときです(調査報告書37ページ)。

通報窓口を所管する当社の法務・知財部長らが社内調査を行い、その結果を、12月19日、法務・コンプライアンス部門の担当取締役 C 氏に提出したものの、C 氏は、直ちに不適切行為をやめて顧客に状況を説明して協議するよう指導することはなく、将来に向けて燃費計測精度の向上、燃費改善に向けたライセンサーとの協議等を行う方針を承認し、当面の燃料消費率の改ざんの継続を容認しました。

また、C 氏は、当社の代表取締役会長兼社長 B 氏を含む他の役員に対して情報共有を行わず、また、コンプライアンス委員会に不適切行為を報告することもありませんでした

法務・コンプライアンス部門の担当取締役が、燃費のデータ改ざんを認識したにもかかわらず、直ちに改ざんを止めるよう指導せず、かつ、改ざんの継続を容認したのでは、法務・コンプライアンス担当としての役割を放棄しているのと同じで、その部門を設置した意味がまったくありません。

しかも、他の役員への情報共有をせず、コンプライアンス委員会にも報告しなかったのですから、法務・コンプライアンス部門の担当取締役であるC氏が「隠ぺい」したのと変わりません。

なお、C 氏は、その後、有明工場における燃料消費率の改ざんを認識しながら 2015 年6月から 2021 年 6 月まで当社の常勤監査役を務めたものの、燃料消費率の改ざんを内部監査や監査役監査の俎上に載せず、あえてデータ改ざん等の不適切行為を確認するような質問をしたり、そのような監査の要否について他の監査役と協議したりすることを避けていました(調査報告書38ページ)。

ここまで来ると、コンプライアンス意識の欠如を超えて危機意識の欠如さえ感じさせます。

その後も日立造船の有明工場では、燃費消費率の改善に向けて取り組みながらもデータ改ざんを継続しました。

経営トップへの報告後も改ざんを継続

コンプライアンス意識の欠如やガバナンスの機能不全が決定的になったのは、当時の代表取締役会長、社長、常務取締役らに報告があがった2015年6月以降です。

2015 年6月、法務・知財部長から改ざんに関する報告を受けたE氏(当社の法務・知財部等を管掌する業務管理本部長に就任した)が、社長への報告を指示したことから、内部通報から3年以上を経過した2015年11月10日頃、代表取締役会長兼 CEO であった B 氏、代表取締役社長兼 COO であった G 氏及び常務取締役兼機械事業本部長であった H 氏に初めて報告されました(調査報告書39〜40ページ)。

ところが、B 氏・G 氏は、直ちに燃料消費率の改ざんをやめるよう指示したり、顧客に説明するように指示したりすることはなく、H氏も異論を唱えなかったため、改ざんは継続されました。

その後に就任した役員の多数も、燃料消費率の改ざんを認識したものの、改ざんは継続されました。

会長、社長、常務にまで報告があがったにもかかわらず、改ざんを止めることを指示しなかったのですから、ガバナンスが機能していなかったことは明らかです。

しかも、2017年10月に神戸製鋼のデータ改ざんが明らかになったことを皮切りに、多くの大手メーカーでのデータ改ざんが発覚し、社会問題にもなりました。

そんな状況下でも、他社と同様にデータ改ざんの事実を明るみにすることなく、データ改ざんを継続している事実を隠し続け、かつ、他社の様子を見て危機感を持つこともなく、改ざんを止めずにその後も継続していたのです。

「魚は頭から腐る」と例えたりしますが、それに匹敵する経営トップのコンプライアンス意識の欠如、ガバナンスの機能不全と言えるでしょう。

未だにこのレベルのガバナンスなのかと驚きます。

「通常想定される不正行為を防止できる程度の体制」

過去にも何度も取り上げていますが、日本システム技術判決では、取締役はガバナンス体制の構築義務として、「通常想定される不正行為を防止できる程度の体制を整備する」義務があることが言及されています。

「通常想定される不正行為」とは、世の中の人たちが一般的に想定できる不正行為という意味です。

2017年の神戸製鋼のデータ改ざんを皮切りに多くのメーカーでのデータ改ざんが明らかになったのですから、この時点から、メーカーではデータ改ざんという不正行為が行われることは世の中の人たちは一般的に想定できるようになりました。

まして、メーカーの役員である日立造船の役員らは、想定どころか、データ改ざんを認識していました。

そうだすると、取締役らはガバナンス体制の整備・構築義務として、データ改ざんを止める体制を整備し、実際に現在進行形で行われているデータ改ざんを止めさせなければならなかったのです。

歴代役員の法的責任

任務懈怠と株主代表訴訟

日立造船の歴代役員らがガバナンスを整備・機能させていなかった任務懈怠を理由に株主代表訴訟で訴えられたとしたら、どの程度の法的責任が認められるのかは興味深いです。

品質誤認等惹起行為の過去の刑事事件

また、顧客にデータ改ざんしたエンジンを納めていたのですから、不正競争防止法の品質誤認等惹起行為を理由に刑事罰の対象になりえます。

かつては、食肉加工業者のミートホープが、鶏や豚を混ぜたミンチ肉を「牛100%」などと表示し、数十社に約138万トンを納入し、代金約3,900万円を得ていたケース(いわゆるミートホープ事件)では、社長は不正競争防止法違反(品質誤認)と刑法(詐欺)によって懲役4年に処せられています(札幌地判2008年3月19日)。

また、実際には「牛乳」ではなく生乳にクリーム、脱脂粉乳、水などを混入した「加工乳」を、「種類別生乳」「成分無調整」と表示したケース(いわゆる全酪農事件)では、法人が2,000万円の罰金を科せられています(仙台地判1997年3月27日)。

これらの事件と比較しても、日立造船の役員個人と法人の両方に刑事罰が課される可能性はないとは言い切れません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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