こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
日本郵政グループ各社は2025年3月18日、日本郵便が顧客から事前に同意を得ることなく、クロスセルの目的で貯金の非公開金融情報をリスト化していた件について調査結果を公表しました。
報道を見たときには、また日本郵政か・・と思いましたが、2024年9月に明らかになった件の続報です。

10月にこのブログでも取り上げました。
今回この件を取り上げるのは、情報発表の仕方に違和感があったからです。
危機管理広報の観点からの分析です。
発信方法から本音では情報発信をしたくない意思が読み取れる
この件に関し、日本郵政は「日本郵政グループにおける非公開金融情報の適切な取り扱いの確保に向けた取組等について」とのタイトルをつけたリリースをサイトに掲載しました。
該当のページにはPDFのリンクが貼ってありますが、PDFの内容もサイトに掲載された内容とほとんど同じです。
また、顧客の貯金の非公開金融情報をリスト化した当事者である日本郵便もまた同じタイトルのリリースをサイトに掲載しました。
そもそも「日本郵政グループにおける・・」とのタイトルをつけている時点で、当事者である意識が希薄なようにも思えます。

上記スクリーンショットを見るとわかるように、サイト上にはテキストでの情報発信は何もなく、詳細を見るためにはリンク先のPDFファイルを見る必要があります。
これだけでも情報を知りたい顧客に対して誠実な情報発信ではなく、かつ親切でもありません。
サイト上にテキストがなければGoogleをはじめ検索サイトにクロールされません(PDFファイル内の検索クロールを回避する設定がされているかまではわかりません)。
また、わざわざリンクをクリックさせる一手間を掛けさせる面倒くささを顧客に強いています。
さらには、上記サイトでは2つのPDFがリンクされていますが、調査結果、法令違反、発生原因、再発防止策など、今回の発表の肝になるべき内容が掲載されているファイルは「別紙」のタイトルがつけられているだけです。
顧客が「別紙」とのタイトルから「大した情報がないんだろうな」と思い込んで、クリックしないことを狙っているのかなとの邪推さえ働いてしまいます(あくまでも読み手側の感想です)。
本音では、調査結果、法令違反、発生原因、再発防止策などが多くの人の目に触れないようにしたいのだろうなとさえ思えてしまいます。
そもそもリリースのタイトルも内容も適切ではない
「別紙」とのタイトル
「別紙」とのタイトルが誠実な情報発信とは言えないことは上記のとおりです。
少なくとも、「調査結果の概要」などファイルの内容が推測できるタイトルをつけるべきでした。
そのうえで、その内容をテキストでも掲載すべきでした。
「別紙」の内容
別紙の「内容」も調査結果等が羅列されているだけで、発生原因も一般論が箇条書きされているだけです。
なぜこのような顛末に至ったのか、例えば、クロスセルの目的のために貯金の非公開金融情報をリスト化するきっかけ(誰の指示で、いつから始まったか、1店舗限りではなく全国で行われていたのか)など、再発防止のために本当に必要な内容は書かれていません。
ここからも、形式だけ取り繕って、本音では情報の細部までは明らかにしたくないのだろう、とさえ邪推できてしまいます。
日本郵便の本音はわかりませんが、読み手の目線ではそう見える、ということです。
もっとも、これがサイトで公表するためだけに要約したもので、監督官庁である金融庁と総務省にはより詳細な情報を発信しているのかもしれません。
しかし、そうだとすれば、監督官庁には詳細は説明する気はあっても、顧客をはじめ世の中の人たちには情報を発信する気がない顧客軽視の姿勢の現れと受け取れてしまいます。
「日本郵政グループにおける非公開金融情報の適切な取り扱いの確保に向けた取組等について」とのタイトル
日本郵政グループも日本郵便も一貫して「非公開金融情報の適切な取扱い」とのフレーズを使っています。
しかし、これも情報の受け手である顧客には何のことだか、その意味が伝わりにくいです。
「貯金の非公開金融情報をグループ内で利用するためにリスト化していた問題」や「顧客情報をグループ内で流用していた問題」「顧客情報の同意なき目的外利用の件」など、内容がイメージできるタイトルをつけようと思えばいくらでもつけられるにもかかわらず、「非公開金融情報」という一般に馴染みのない言葉を使っています。
このタイトルの付け方からも、情報を伝えたくない意思がうかがえます。
危機管理広報と企業価値の向上
危機管理広報は今や消極的姿勢で行うものではなく、「企業価値の向上」のために積極的に、かつ、戦略的に行うべきものです。
ちょっと時代遅れな印象が否めませんでした。
危機管理広報で抑えておきたいポイントについて、以前、AdverTimes.にて簡単な記事を書いていますのでそちらも参考にして欲しいです。