上場企業TOPIX構成銘柄の社外取締役の1割近く681人の在任期間が10年以上で、もはや「社外」とは言えない。社外取締役の在任期間が長期化しないための企業が講じるべき対策。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2025年3月15日付けの日経電子版「チャートは語る」にて「社外取締役すっかり身内 「在任10年」迫る1割、監視緩みも」との記事が掲載されていました(会員限定記事)。

社外取締役の現況

記事では、上場企業のうちTOPIX構成銘柄の社外取締役にフォーカスし、

  • 2024年時点で、TOPIX構成銘柄の社外取締役の1割近く(681人)が在任10年以上と長期化し、在任9年を含めると1094人に達すること。中には16年以上も社外取締役に在任している者もいること。
  • 国内の機関投資家はガバナンスへの懸念から、株主総会での社外取締役の選任議案への議決権行使基準を厳しくし、大手運用会社9社が在任12年、6社は10年を境に長期とみなし選任に反対する方針としていること。
  • 人材難で、TOPIX構成銘柄の社外取締役のうち23%が複数社を掛け持ちしていること。

などが紹介されていました。

社外取締役の在任期間が長期化してしまうことの問題点

社外取締役の在任期間が長期化してしまうことの問題点は3つ考えられます。

ガバナンスの機能不全

1つは、ガバナンスの機能不全が起きやすい点です。

在任期間が長期化すればするほど「社外」感はなくなり、社内化していきます。

いずれにせよ、それほど長期間在任していれば、もはや「社外」とは言えません。

役員間での馴れ合いが生じ、ガバナンスが機能しなくなるのは想像に難くありません。

社外取締役の在任期間が長期化することの問題点として一般的に懸念されているのはこちらでしょう。

社外取締役に求められている「社外」の着眼点が失われる

2つめは、「社外」取締役に期待している「社外」ならではの着眼点が失われる点です。

1つめの延長と言えるかもしれませんが、在任期間が長くなればなるほど、その会社の業界事情や会社固有の事情に詳しくなっていきます。

社外取締役には、業界事情や会社固有の事情に疎いからこそ出てくる着眼点を求められています。

しかし、社外取締役の言動が業界事情や会社固有の事情を踏まえたものになれば、そうした「社外」故の着眼点は失われ、結局、社内取締役との違いがなくなっていきます。

「社外」としての鮮度がなくなる、と言ってもいいかもしれません。

社外取締役の影響力(社内取締役との力関係の逆転)

3つめは、社外取締役の影響力が大きくなり、社内取締役と力関係が逆転する可能性があることです。

社外取締役の在任期間が10年以上にも及ぶとなると、オーナー系役員を除くその他の社内取締役の誰よりも長い期間在任しているということもあるでしょう。

そうすると、社内取締役は社外取締役に気を遣うことになり、社外取締役のほうが社内取締役よりも取締役会での意思決定に対して影響力を持つ事態に至っているかもしれません。

下手すると、社外取締役の意のままに意思決定されるなんていうこともあるかもしれません。

本来は、「社内」取締役が合理的ではない意思決定をしないように監視することが「社外」取締役の役割であるはずです。

ところが、社外取締役の影響力が強い状況では、社外取締役を社内取締役が監視する構図になり、本来求められている社外取締役の役割とはあべこべになってしまいます。

今後、企業が講じるべき対策

機関投資家や議決権行使助言会社の各社が、在任期間が長期化した社外取締役の選任(再任)議案に株主総会で反対票を投じる基準を明らかにしている以上、上場企業はこれに対応する必要があります。

社外取締役の在任期間の基準を定める

多くの上場企業では社内取締役に関して、役員定年、選任回数・任期の上限などを定めているはずです。

それと同様に、社外取締役にも役員定年、選任回数・任期の上限などを定めることが1つめの対策です。

社外取締役には、他の上場企業で社長・会長などを務めた人を選任することが多いので、役員定年を社内取締役と同様の年齢にすると、社外取締役としての資格を充たさなくなってしまうこともありえます。

だからといって、無制限にすれば、現に発生しているように10年以上、下手すると16年以上も在任する事態を招きます。

役員定年が65歳なら、社外取締役は70歳を定年にするなど、少しずらして定年を定めればよいだけです。

また、若くして社外取締役に選任した場合、定年を70歳にすると、結局、在任期間が長期化します。

そのため、社外取締役の鮮度を保つためには、一定期間で社外取締役を入れ替えられるように、選任回数・任期の上限を定めるべきだと思います。

社外取締役の候補者への声かけは早期に行う

記事では、社外取締役候補者の人材難とともに、候補者探しを1年前から行っている会社の例が紹介されていました。

しかし、1年前から候補者に声を掛けても遅すぎます。

例えば、「A社で社外取締役をしている人に、わが社の社外取締役も依頼してみよう」と考えたとしましょう。

しかし、A社で社外取締役をしていれば1年先まで取締役会のスケジュールは埋まっています。

その社外取締役が、自己のホームとなる会社の社内取締役をしていれば、そのホームとなる会社の取締役会のスケジュールも1年先まで埋まっています。

しかも、大抵、どこの会社も取締役会は月の中旬あたりで重なっています

もちろん、取締役会以外の仕事も入っているでしょう。

私の例で言えば、社外監査役をしている会社の監査役会・取締役会の日程が年間計画で先々まで決まっているのはもちろんですが、それ以外の企業研修の講師の依頼なども「2026年」の分まで入り始めています。

1年前に声を掛けられたところで、取締役会の日程の都合がつかずに「もうスケジュールは埋まっている」「物理的に出席できないのでウエブ参加でよければ・・」と拒絶されかねません。

来て欲しかった総会の1年前に候補者に声をかけたものの断られてしまい、次の候補者を見つけるには時間が足りなくて手が詰む。

その結果、「今の社外取締役に、もう1期お願いしようか」となっているのが現実なのではないでしょうか。

社外取締役の候補者の資質を見極める期間として短い

1年前から候補者選びを始めると言うことは、そこから候補者のデータ集めをすることを意味します。

公になっている実績を集めるだけなら1年はかからないかもしれません。

しかし、実績での本当の役割(名前を連ねただけなのか、主導者なのか、共同なのかなど)を調べたり、「人となり」を調べるには期間は短い気がします。

ENEOSが役員による女性問題を機に公表した「取締役選任プロセス」に書かれているような要素を社外の人材に対して審査するとなれば、その情報収集だけでも相当な時間を要すると思われます。

社内取締役の候補者ですら時間は要するので、社外の人材ならなおさらです。

もちろん、「社外取締役なんて名ばかりでいい」と適当に選任するなら、候補者として審査する期間が短くてもいいでしょう。

もっといえば、社外取締役の在任期間が長期化しようとガバナンスとして機能することを求めていない会社なら、それはそれでいいでしょう。

しかし、本気ならそれなりの時間を費やしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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