日本郵政がSNSで公開した「絶対にすっぴんを見られたくない女 VS なんとかサインをもらわなければならない配達員」のショート動画が批判を浴び削除される。広告を審査するための社内体制のあり方。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

日本郵政が2025年3月5日にSNSで公開した「絶対にすっぴんを見られたくない女 VS なんとかサインをもらわなければならない配達員」のショート動画が批判を浴び、6日に動画を削除しました。

日本郵政の動画の何が問題だったのか

J−CASTニュースの報道によると、日本郵政は、「手紙や郵便を始めとした郵便局ネットワークをより身近に感じてもらうことを目的」に動画を作成し、2024年10月17日にTikTokで投稿した動画を再投稿したようです。

10月に投稿したときに批判の声が挙がらなかったから、再度投稿しても問題がないという判断だったのかもしれません。

しかし、つい先日、東洋水産の「赤いきつね」の演出に対するクレーム問題があったばかりで、ジェンダーやフェミニズムの観点から指摘されやすいタイミングだったとも言えます。

動画の内容に対しては実際に配達の現場であり得そうな話しであるとの声もありましたが、しかし、「女性はすっぴんでは人前に出られない」とのステレオタイプの性差を前提にしているので、ジェンダー平等の観点から問題のある動画であると指摘されてもやむを得ない内容でもありました。

男女の役割や性差を決めつけたジェンダー平等に反する広告かどうかの判断は、イギリスの広告慣行委員会(CAP)が出しているガイドラインが参考になります。

社内での広告審査体制のあり方

「炎上ビジネス」の妥当性

ジェンダーを含め広告・宣伝の内容が炎上することは少なくありません。

企業は炎上することをも予期して「炎上ビジネス」を仕掛ける会社もあります。

「炎上ビジネス」は認知度の向上になり一時的な売上には繋がるかもしれませんが、しかし、企業姿勢、特にコンプライアンスに対する距離感としては信頼を失うだけなように思います。

長期的な目線、特に持続的な成長を求められる上場会社にはオススメできません。

そうすると、信頼を獲得するためは、企業は広告を世に出す前の社内審査で企業価値を低下させる広告を除外する審査をすることが不可欠です。

広告審査のあり方

社内で広告を審査する際に「炎上しないこと」を目標にすると、つまらない広告ばかりを世に出すことになります。

それではつまらない広告になり、誰も話題にせず、広告の意味がありません。

ここで審査によって除外する対象とすべき広告は、企業価値を低下させる広告です。

話題になって、多少賛否両論あったとしても企業価値を低下させないなら、チャレンジすることはあって良いと思います。

「ビジネスと人権」が強く問われている2025年現在、企業価値の低下を招く広告として最も注意すべきものは、「人種差別・人権侵害しているか、それを助長・促進する広告」です。

「人種差別」と指摘された広告の例は、2024年に話題になったMrs. GREEN APPLEのコロンブスの動画広告です。

「人権侵害」と指摘される、あるいは人権侵害を助長・促進していると指摘される広告の例は、特にステレオタイプの男女の違いを前面に押し出した広告です。

日本郵政の「絶対にすっぴんを見せられない女性」の動画広告は、この観点から問題のある広告として、本来だったら社内審査で除外すべきでした。

2016年7月に話題になった資生堂の化粧品インテグレートの「25歳からは女の子じゃない」などのフレーズを使った広告も、その類と言ってもいいでしょう。

広告を作成する業務を委託する時の注意点

動画広告を作成するときには、自社で作成するのではなく、専門の業者に依頼するはずです。

専門の業者に依頼するときにも、単に「バズりたい」「話題になるようなおもしろいものを」と発注するだけではなく、同時に「人種差別と誤解されるものは止めて欲しい」「ジェンダーをはじめ人権侵害している、人権侵害の助長・促進をしていると誤解されるものは止めて欲しい」との留意点も伝えることも忘れないようにして下さい。

専門の業者が「ビジネスと人権」について意識を持っているかどうかはわからないのですから、発注する側がそこまで配慮して発注することが必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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