ビックカメラが製造委託先の下請事業者51名に支払うべき下請代金から拡売費、リベート等の名目で総額約5億5746万円を「減額」し、公正取引委員会が下請法違反に基づく勧告。下請事業者との合意があっても違法であることに要注意。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

公正取引委員会は2025年2月28日、ビックカメラに対し、下請法違反の「減額」を理由に勧告をしました。

ビックカメラが行った下請法違反の「減額」

ビックカメラが、自店舗で販売する家電の製造を委託している下請事業者51名に支払うべき下請代金から、「拡売費」の名目で約2億2406万円、「実売助成費」の名目で約2億1242万円など総額約5億5746万円を「減額」したというものです。

事案の概要は、公正取引委員会の公表資料の図がわかりやすいので、そちらを引用します。

なお、ビックカメラは2025年2月14日までに下請事業者に減額分を支払っています。

2024年3月には同様のケースで、日産自動車が下請事業者に支払うべき下請代金から「割戻金」の名目で総額30億円超の「減額」をしたとして勧告を受けています。

最近の公正取引委員会の動向を見ていると、「減額」以外の人件費等の「買いたたき」案件、金型の無償保管による「不当な経済上の利益の提供要請」も含め、下請事業者に支払うべき額は、支払条件どおりに全額支払うという当然のことを厳しく処分する傾向にあります。

下請事業者にお金が流れないという事態を防ぎたい強い意向を看取できますので、下請法が適用される取引において親事業者になる会社は「減額」「買いたたき」「不当な経済上の利益の提供要請」には特に注意が必要です。

下請法が適用されない取引でも独禁法の優越的地位の濫用が適用される可能性はあるので、下請法が適用されないからといって減額等を安易に行うことは避けなければなりません。

「下請事業者の合意があれば減額できる」との誤解

「下請事業者から合意を得られれば下請代金をリベート等の名目で減額することができる」と誤解している親事業者は少なくありません。

また、「合意してしまったら、後から下請法に違反すると主張して差額(減額分)を支払ってもらうことができない」と誤解している下請事業者も少なくないはずです。

どちらも間違っています。

下請事業者に非がない(帰責事由がない)場合には、契約締結時に合意した取引条件である下請代金を減額することはできません。

フジオフードシステム事件(大阪地判2010年5月25日)

下請法が適用されない取引に関して、「減額」の合意の無効が認められた裁判例があります。

フジオフードシステムが経営する飲食店の内装工事等を継続して請け負っていた富士設備工業が破産した後、破産管財人が請負代金の減額合意が公序良俗に反し無効などと主張して、適正な請負代金額と減額合意後の金額の差額を不当利得として返還請求したケースです。

裁判所は、以下のように公序良俗に反し無効であることを認めました。

本件各減額合意は、被告会社(※フジオフードシステム)が、富士設備に対し、自己の優越的地位を利用し、富士設備が被告会社の査定金額に応じざるを得ない状況下において、必ずしも個別具体的な工事内容を反映しているわけではない合理性に欠ける減額に応ぜしめたものというべきである。そして、被告会社は、富士設備が原価に30パーセント程度の粗利を上乗せして見積書を作成しており、CC部長においては、積算の結果算定された原価に、富士設備の利益として10パーセント程度を見込んでやるよう指示していた旨主張しているところ、仮に、それを前提とすれば、本件各店舗工事における原価は、別紙「不当な減額要求認否一覧表」の「見積金額」欄記載の金額から三割を減じた金額ということとなり、その合計は、約9億5000万円程度ということとなる一方、原価に10パーセントの粗利を上乗せしたCC部長による査定額の合計は、約10億9000万円であることとなる。そうすると、本件各減額合意のうち、少なくとも、積算の経験があり、合理性があると思料されるCC部長の査定額の8割を下回る部分については、富士設備が支出した原価にも満たない金額であるということができ、被告会社は、自らが優越的地位にあり、富士設備が従属的地位にあることを利用して不当に利益を取得するために本件各減額合意をなしたものといわざるを得ず、本件各減額合意は、独占禁止法2条9項5号に違反しているか否かはさておき、私法上においては、少なくとも上記の限度で、公序良俗に反し、無効であるというべき

判例は、「独占禁止法2条9項5号に違反しているか否かはさておき、私法上においては、……公序良俗に反し、無効である」と言及しているように、被告会社の行為が独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当する旨を積極的に認定したものではありません

すなわち、下請法が適用されない取引でも、独禁法の優越的地位の濫用には該当するとは認定できない取引であったとしても、請負代金の減額合意が公序良俗(民法90条)に違反し無効となることを認めた裁判例です。

下請事業者の合意を得て下請代金を減額することは、

  • 下請法が適用される場合には下請法違反となる
  • 下請法が適用されない場合でも独禁法の優越的地位の濫用に該当する場合がある
  • 優越的地位の濫用には該当するとは言い切れなくても公序良俗違反で減額合意が無効になる場合がある

という3つの観点で無効になるおそれがあるので、親事業者も下請事業者も認識を改める必要があります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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