東京ラヂエーター製造、愛知機械工業、中央発條、荏原製作所の各社が下請事業者に金型を無償保管させていた下請法違反によって公正取引委員会から勧告。2024年に引き続き金型の無償保管には厳しい行政の動向。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

公正取引委員会は、下請事業者に金型を無償保管させていた下請法違反(「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」違反)に基づき、東京ラヂエーター製造には2025年1月27日付け、愛知機械工業中央発條にはいずれも2月18日付け、荏原製作所には2月20日付けで勧告をしました。

本記事では4件まとめて扱いますが、同時期に勧告されただけで、各別の案件です。

下請事業者に金型を無償保管させていたことが下請法違反として勧告された同種のケースとしては、以前にトヨタカスタマイジング&ディベロップメントの件を取り上げ、また同ブログ記事の中で2024年に勧告された他の案件も紹介しました。

下請法違反の対象となった金型の無償保管

今回4社が下請法違反と判断された金型の無償保管は、大枠では共通しているのですが、細部まで見ると若干の違いがあります。

東京ラヂエーター製造と荏原製作所は長期間発注しないにもかかわらず貸与した金型の無償保管を継続させたのに対し、愛知機械工業と中央発條は大量発注期を終えたにもかかわらず貸与した金型の無償保管を継続したという違いです。

とはいえ、いずれも、本来なら自社が保管料を支払って倉庫などに保管すべき金型を下請事業者に継続して保管させ続け、自社のための保管料を下請事業者に負担させていたことに変わりはありません。

東京ラヂエーター製造の金型保管

東京ラヂエーター製造は、下請事業者に金型を貸与していたのですが、遅くとも2022年12月1日以降、その金型を用いた製品・部品の製造を長期間発注しないにもかかわらず、下請事業者30名に対し、合計2,389個の金型を無償で保管させていました。

なお、東京ラヂエーター製造は、2024年12月までに、2389個の金型の一部を下請事業者が廃棄することを承認しており、また、その保管費用の支払に関する手続を下請事業者との間で進めているようです。

愛知機械工業の金型保管

愛知機械工業は、下請事業者5名に対して金型のほか、治具、機械設備を貸与していたのですが、遅くとも2023年8月1日から2024年12月30日まで、その金型等を用いた自動車用部品の大量発注期を終えた後、合計415個の金型等を無償で保管させていました。

なお、愛知機械工業は、2024年7月末日までに下請事業者4名から415個のうち261個を廃棄または回収し、かつ、下請事業者と協議の末、過去の保管費用相当額1925万5498円を支払い済みです。

中央発條の金型保管

中央発條は、下請事業者24名に対して金型を貸与していたのですが、遅くとも2023年4月1日から2024年10月25日まで、その金型を用いた自動車用部品の大量発注期を終えた後、合計608個の金型等を無償で保管させていました。

なお、中央発條は、2024年9月までに下請事業者7名から608個のうち146個を廃棄し、かつ、下請事業者と協議の末、2024年10月25日に、過去の保管費用相当額572万5260円を支払い済みです。

荏原製作所の金型保管

荏原製作所は、下請事業者176名に対して木型、金型、治具、工具等を貸与していたのですが、2023年2月1日以降、その木型等を用いた商品の製造を長期間発注しないにもかかわらず、合計8,900個の木型等を無償で保管させていました。

なお、荏原製作所は、下請事業者に貸与している木型等について、保管費用支払等の手続きを進めているようです。

親事業者となるメーカーと下請事業者との留意点

2024年、2025年とこうも勧告事案が相次ぐとなると、金型を下請事業者に保管させている他のメーカーも対策を講じることが不可欠です。

大きく分けると4点あります。

  1. 現在、発注していないのに下請事業者に無償保管させている金型がないかを確認する。
    • 取締役が内部統制を機能させていると言えるためには、今回の勧告案件を見て自社で同種の金型保管が行われて否かを緊急に点検することが必要です。
  2. 下請事業者に金型保管料を支払っている場合でも保管料の額が相当かどうかを確認・検討し、物価・人件費の変動によって保管料が見合っていない場合には保管料を値上げする。
  3. 現在下請事業者に発注している業務委託契約・製造委託契約に、取引終了後の金型の取扱いが定められているかを確認する。
    • 親事業者が回収するのか、下請事業者が廃棄してよいのか、その時の回収・廃棄費用の負担が親事業者になっているかなどを契約書で確認し、必要に応じて契約書のひな型を修正するのです。
    • 最近は、AIを用いた契約書のチェックサービスなどが増えてきましたが、リーガルチェックには長けていても、他社事例をもとにリスク管理の観点から契約書の文面修正することまで提案するサービスはないように思います(あったら、すみません)。
  4. 現在下請事業者に発注している契約・取引が終了した後、金型の回収・廃棄が必要であることを現場の担当者(親事業者と下請事業者の両方)に理解させておく。
    • 法務部門・管理部門は下請法を理解していても、あるいは現場の担当者まで下請法の一般論をコンプライアンス研修等を通じて勉強させていたとしても、金型の無償保管が違法であるという具体例にあてはめた形では理解できていない人は少なくありません。

現在下請法の改正の動きもあり、今後、ますます下請法違反に対して行政が厳しく動くことが予想できます。

今のうちにできる対策はやっておくべきでしょう。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
error: 右クリックは利用できません