東洋水産「赤いきつね」のCM演出に対するクレームへの対処を「昔ながらの危機管理」という観点から分析する。SNSの特性のほか、反ESG、反DEIという世の中の変化にも意識する。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

東洋水産は2025年2月6日、カップ麺「赤いきつね」のアニメCMを2025年2月6日、Xに投稿しました。

そうしたところ、若い女性が家でテレビを見ながら「赤いきつね」を食べて頰を赤くするという演出に対し、2月16日頃から一部のユーザーが「性的だ」などとの批判・非難し、その結果、SNSを中心に多くの人が知るところとなりました。

この状況について、「炎上」と報じネットメディア「LASISA」、実際には炎上していないのに炎上したかのように報じられようとしている「非実在型炎上」であると主張する専門家、「非実在型炎上」と指摘される前日の2月16日時点で1万近く拡散していたのだから「非実在型炎上」ではないと分析した学者など、様々な評価がされています。

一連の反応に対し東洋水産は特に反応することはなく、SNSのアカウントは何事もないように日々投稿をしています。

この東洋水産の対応を踏まえ、今回のケースから学べる点を「危機管理」の観点から考察したいと思います。

CM・広告の内容を批判・非難する声との距離感

今回のようなCMの演出や広告の内容、イベントの内容に対してフェミニズムの観点やジェンダー平等の観点から批判・非難する声が挙がることは、決して珍しいことではありません。

2023年6月にも日本共産党の申入れで「水着撮影会」が中止になったことを本ブログで取り上げました。

東洋水産も2020年11月にマルちゃん正麺のPR漫画をTwitterに掲載したところ、その内容に対してジェンダー平等の観点から批判・非難する声があがり、PR漫画の掲載を一時延期したことがありました。

当時、私も広報会議の連載で取り上げました。

しかし、こうした少数者による批判・非難の声を一々取り上げて対応していると、企業は自由な広告・表現活動ができなくなってしまいます。

だからといって、一切無視して言いかといえばそうではなく、例えば、人種差別や文化を馬鹿にした演出への指摘など傾聴に値する批判・非難には適切に対応する必要があります。

そこで大事になってくるのが、こうした批判・非難する声にどう向き合うのか、という企業のスタンスです。

消費者などからのクレームに対応する「昔ながらの危機管理」と同義と言ってもいいでしょう。

「昔ながらの危機管理」とSNS時代への順応

「昔ながらの危機管理」の意味は、上記に引用した水着撮影会に関するブログ記事で詳細したので、そちらを参考にしてください。

簡単に言えば、人権活動などを表向きの理由に反社会的勢力が作った書籍や新聞を会社に購入させたていたことへの対応や、消費者による不当なクレームにはどのように対応したらよいかが、「昔ながらの危機管理」です。

なお、カスタマーハラスメント対策と危機管理とは目的が別ですので誤解しないでください(これはカスタマーハラスメント対策を取り上げたときのブログ記事で解説しています)。

こうした「昔ながらの危機管理」には、よく「毅然とした対応をしましょう」などと言われます。

(個人的には、そんな抽象的なアドバイスに留まり、「毅然とした対応」の具体的な中身まではアドバイスしてくれない弁護士やコンサルタントなんて何の役にも立たないと思ってます・・心の声が漏れてしまいました)

しかし、SNS全盛の時代である今日において、「毅然とした対応」というだけでは全然足りません。

  • 無視していいのか
  • 反応すべきなのか
  • SNSへの投稿を撤回することが必要なのか
  • 投稿は撤回せずにSNSに声明を出せば良いのか
  • 公式サイトにリリースを出すことなのか
  • 声明やリリースは謝罪が中心なのか、それとも自社の正当性や意見を表明すれば良いのか

など、その具体的な対応指針を企業は決める必要があります。

SNSで批判・非難する声への対応は必要なのか

まず考えるべきは、そもそもSNSで批判・非難する声への対応は必要なのか、無視して構わないのか、です。

最近、SNSを見ていると、「対象企業の株価は、対応をした方がしない場合に比べて、大きく下落した。対応の中では、企業が反論をしたケースが、その後株価がより長く低迷することが示された。」などと指摘した論文を根拠に、「何もしない方がいいのではないか」との投稿も見られます。

しかし、これはあくまでも「株価」に注目した調査です。

また、対応しなかったから株価が下がらなかったのか、それとも株価が下がるほどではない炎上だから対応が必要なかったのか、相互の因果関係や炎上の規模ごとの対応の結果までは不明です。

他方で、

組織広報からの観点からすれば、ごく少数の者が憂さ晴らしにネット上で騒いでいるだけだと「炎上」への対応を軽視すると、ネット上の批判的な書き込みの量などの反応から想定できるよりも、はるかに大きく組織へのレピュテーションを下げてしまう可能性が高い。ネット上で批判を書き込んだり拡散した経験がある者の5 倍以上、「炎上」に関して検索したり、「炎上」の現場を見に行った経験がある者がおり、身近な人と話題にした経験がある者も2倍以上いるのだ。口コミを通じてネット上の評判が、ネットをあまり使っていない人々にも伝わっている可能性がある

と、SNSで可視化されてない範囲でレピュテーションが下がることを指摘する先行論文も存在します。

この論文によれば、SNSに投稿はしない(姿は見せない)けれど、拡散を知って炎上の内容を知ろうとする人たちがSNSに姿を見せた人たちの5倍以上存在します。

そうなると、簡単に、SNSでの炎上について何も対応しなくていいとは言えません。

また、他にも同趣旨の論文は存在します。

結局のところ、SNSに対する批判・非難する投稿数・拡散数だけではなく、批判・非難の内容が当を得て傾聴に値するのなのかを個別に評価・分析しない限り対応の要否の判断や対応する際の内容を決めるのは難しく、マニュアルなどで対応の要否や内容を画一的にあらかじめ決めることはできないように思います。

対応の要否や内容を決めるに当たって、反ESG、反SDGs、反DEIの流れを考慮する

冒頭で紹介した水着撮影会のケースに限らず、ここ数年は、フェミニズムの観点やジェンダー平等の観点からの抗議には過剰に反応するケースが目立っていた印象を受けます。

もちろん、適切に対応しなければいけないケースもありましたが、どちらかと言えば、企業の社会的責任(CSR)、SDGsなどの機運の高まりを意識しすぎて、「批判・非難されたら撤回しないと炎上する」と過剰に対応するケースの方が多かったように思います。

ところが、昨今、アメリカを中心に反ESG、反SDGs、反DEIの流れに転じ始めました。

これまでの行きすぎた左傾化の機運を元に戻そうとする流れです。トランプ大統領の就任でその傾向が一層拍車がかかっています。

日本国内の上場会社は、証券取引所が示したコーポレートガバナンス・コードや機関投資家らの議決権行使基準の影響もあり、そう簡単には反ESG、反SDGs、反DEIには舵を切れないかもしれません。

しかし、イーロンマスクがXを買収した2022年以降、日本国内でもSNSでは反ESG、反SDGs、反DEIの流れが強いように見受けられます。

そのような社会背景の変化を見ると、2025年現時点では、国内でも、企業のCM・広告・SNSへの投稿などの表現活動に対してフェミニズム、ジェンダー平等の観点から批判・非難されたとしても、その内容が傾聴に値するかどうかを判断し、傾聴に値しないときには批判・非難を無視する、あるいは「批判は的外れである」ことを前提に自己の正当性を主張してよくなった、と考えて良いと思います。

SNSがなかった頃の「昔ながらの危機管理」をすれば炎上はしない時代に戻った、と言ってもよいでしょう。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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