ホンダと日産との経営統合に向けた基本合意が解約。広報に垣間見えた破談の予兆と、企業価値の向上に対する経営陣の意識について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

本田技研工業(Honda)と日産自動車とは2025年2月13日、昨年12月23日に締結した両社の経営統合に向けて協議・検討を行うとした基本合意を解約しました。

同時に、三菱自動車(三菱自)も含めた3社による協業を検討する覚書も解約しました。

12月23日に3社のトップが並んで記者会見を行ってから2か月も経たずに破談したことになります。

広報に垣間見えた破談の予兆

破談になる予兆は、12月23日に行われた記者会見で示された声明や、各社が公にしていたリリースの内容からある程度垣間見えました。

特に目立ったのが、

  • 経営統合に向けて日産が抱える課題に対するHondaと日産の理解の差
  • 経営統合後の企業価値に対する経営陣の意識の差
  • リリースでの社名の記載順

です。

経営統合に向けて日産が抱える課題に対する両社の理解の差

Hondaと日産の経営統合は当初から「Hondaによる日産の救済ではないか」と指摘する声がメディアやSNSで多く見られました。

こうした声に対し、12月の会見では、日産の内田社長は「当社が進めている構造改革施策(9000人規模の人員削減などの「ターンアラウンド」計画)とは全く別物」と強調しました。

他方で、Hondaの三部社長は「救済ではない」と否定しつつも、「前提条件として、日産のターンアラウンドの実行が絶対条件になっている」と、日産の構造改革施策が前提であることを強調していました。

日産が行っている構造改革施策の位置づけに対する両社の理解が当初から食い違っていたことがわかります。

経営統合後の企業価値に対する経営陣の意識の差

構造改革施策に対する両社の理解に差がある根本原因として考えられるのは、経営統合後の「企業価値」に対する両社経営陣の意識の差です。

日産がターンアラウンドと経営統合とは別物との説明した理由は、「Hondaによる救済ではない」ことを強調したかったためだと推察できます。

しかし、この説明では、日産が「Hondaに救済される立場にはない」というプライドを保つことを優先し、「どのような方法や手順でHondaと経営統合をすれば、日産の企業価値が上がることになるのか」「経営統合をする目的は、日産の企業価値の向上に繋げるためである」という観点がおろそかになっているようにも見えてしまいます

他方、Hondaは、経営統合後に企業価値を向上させることを一貫して重視していたのでしょう。

そのため、日産が構造改革施策を完了させないうちに経営統合をしてもHondaの企業価値が低下すると判断し、日産によるターンアラウンドの実行が絶対条件であることを強調したのだと思います。

リリースでの社名の連記の順序

破談の予兆は、リリースでの両社の社名の並び順にも現れていました。

12月23日の会見では、経営統合後の持株会社について「現時点では時価総額が高いHondaが主導する形」と説明し、Hondaが主導であることを明らかにしました。

実際、記者会見でもHondaの三部社長が中心に立ち、日産の内田社長と三菱自の加藤社長は両サイドに立っていました。

しかし、12月23日のリリースの名義は日産が上で、Hondaは下にありました。

2025年2月13日の解約に関するリリースも同様です(冒頭のリンクのとおり)。

Hondaを主導とする経営統合だとするなら、本来ならリリースの名義もHondaの社名が上で、日産はその下にするのが筋です。

ここからも、Hondaが主導とは言いつつも、本音では日産がHonda主導には納得し切れていないのではないか、あるいはHondaが日産に気を遣って順番を譲ったのではないかと推測できます。

なお、投資家向けの開示では、2024年12月23日も2025年2月13日も、Hondaが上で、日産が下でした。

会見やリリースは単に情報を発信するだけではなく、「広報を見た人にどう受け止められるか」という戦略目的をもって行うことが不可欠です。

ちなみに、2024年12月23日の会見に関しては、広報会議2025年3月号に記事を書いていますので、そちらも読んでいただけたらと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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