パナソニック、グループ改革に関する「パナソニック解散」「社名が消える」などの世の中の人たちの誤解を修正するリリース。誤解されてしまった報道に対する企業の危機管理広報のポイント。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

パナソニックホールディングス(パナソニックHD)が2025年2月4日、マスメディア・機関投資家・アナリストに対し、今後のグループ経営改革についての説明会を開催しました。

グループ経営改革として、事業会社である「パナソニック株式会社」を解散し事業再編することを説明したところ(以下は説明会資料「グループ経営改革」7頁から引用。イラストのPCがパナソニック株式会社)、「パナソニック解散」「社名消える可能性」などと報じたこともあり、SNSでは、「パナソニックがなくなってしまう」などと誤解する投稿がたくさん見られました。

センセーショナルな見出しをつけた報道に釣られた人たち

一例を挙げると、次のスクリーンショットのように、Yahoo!ニュースで配信された読売テレビの記事では「パナソニック解散」「社名消える可能性」などと報じられました。

また、テレビ朝日は自社サイトで「「パナソニック」解散へ」などと報じました。

メディアがこうしたセンセーショナルな見出しをつけることは今に始まったことではありません。

SNSやネットニュースではこうしたセンセーショナルな見出しだけを見て、記事の内容までは読まずに釣られて反応する人も少なくありません。

また、記事を読んだとして、パナソニックホールディングスという持株会社の仕組みに対する理解が不足しているために誤解する人も少なくありません。

パナソニックHDにしてみたら、予想外の反応だったかもしれません。

パナソニックHDが誤解を訂正する広報

これに対し、パナソニックHDは2月5日、「一部報道について」と題するリリースを公式サイトに掲載し、ミスリードを訂正しました。

パナソニックの社名およびブランドの使用について一部誤解を招く報道がありましたが、昨日公表した内容は、パナソニック ホールディングス株式会社傘下で家庭用電化製品、住宅設備、店舗・オフィス向け商品・サービスを提供する一法人である「パナソニック株式会社」の再編を主旨としており、パナソニックグループを解散することはありません。

「パナソニック解散」との誤解が世の中の人たちに浸透しているにもかかわらず、その状況を放置してしまえば、パナソニックのブランド価値を毀損してしまいます。

そのため、誤解を解くためにリリースを早期に出すことは危機管理広報のタイミングとしては適切だったと言えます。

これは、銀行の取り付け騒ぎなどでも同じです。

広報する際に工夫できるポイント

ただ、パナソニックHDが出した広報は、ブランド価値を守るためのリリースとしてはまだまだ工夫できた点があります。

タイトルの付け方を工夫せよ

工夫できた1つめは、タイトルの付け方です。

パナソニックHDのリリースのタイトルは「一部報道について」と、よくある素っ気ない見出しでした。

しかし、「パナソニックがなくなる」などとメディアのセンセーショナルな見出しに釣られている人たちの多くは、パナソニックHDがリリースを出したとしても、リリースの見出しだけを見て反応し、その内容まで読みません。

仮に、このリリースのURLがSNSで拡散されても、この見出しではリンクをクリックして内容を読むことはないでしょう。

そうだとすれば、リリースには、それだけを読んで結論がわかるタイトルをつけるのがベターです。

例えば、「パナソニックが解散するとの誤解について」「パナソニックの今後の社名・ブランド名に対する誤解について」などとする方法や、究極には「パナソニックグループを解散することはありません」「パナソニックは今後も社名・ブランド名を存続する予定です」などと結論までハッキリ書いたリリースの見出しにするのです。

誤報を訂正するリリースとして、こうした見出しの付け方は決して珍しいものではありません。

私が記憶している一番古くでは、龍角散が2017年1月、「龍角散ののどすっきり飴」にドーピング禁止成分のヒゲナミンが含まれているなどとSNSで誤報が拡散したときに「当社の「龍角散ののどすっきり飴」には「ヒゲナミン」は含まれておりません。」とのタイトルのリリースを公表したことがあります。

公式サイト上でも、上記のように青文字、赤文字、下線を引いて強調するなど、見出しだけでも、また内容を読んだ人にも誤解なく正しい情報が伝わる工夫をしていました。

なんでこんな8年も前のリリースを持っているのかと聞かれれば、20年近く前から危機管理広報の仕事をし、また危機管理広報の研修を続けているので、主要な広報や他社の参考になる広報は私のデータベースに残してあるからです、というのが答えです。

内容を工夫せよ

工夫できた2つめは、リリースの内容です。

パナソニックHDのリリースには「一法人である「パナソニック株式会社」の再編を主旨としており、パナソニックグループを解散することはありません」とあります。

内容として間違ってはいませんが、報道を誤解した人たちの多くは、おそらく持株会社であるパナソニックHDと事業会社であるパナソニック株式会社との違いを理解していません。

もっといえば、そもそも持株会社が何であるかも理解していません。

そのため、冒頭にも引用した投資家説明会で利用したような組織図を一緒にリリースに掲載したほうが読み手にとって親切だったと言えるでしょう。

そうすれば、パナソニックHDにぶら下がっている各事業会社を再編するだけというイメージを掴んでもらえ、また「パナソニック」の名前やブランドが消えるわけではないとも理解してもらえたはずです。

日頃から家電のリコールなどでは図や写真を駆使することになれているはずですから、そうしたリコールの広報と同じように読み手に伝わる工夫を考えたら良かったように思います。

もっといえば、そもそもメディアや投資家説明会のプレゼン資料でも「PC(※パナソニック株式会社)を発展的に解消」との表現をせずに、単に「事業会社の再編」としたほうが誤解を招かなかったかもしれません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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