中居氏による性的トラブル問題を報じた週刊文春が編成幹部の関与に関する記載部分を訂正。被害女性の守秘義務違反、フジテレビが問われている「ガバナンス」への影響、フジメディアHD社外取締役による経営刷新小委員会構築への動き。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

中居正広の性的トラブル問題を初めに報道した週刊文春は2025年1月28日までに、「(被害者)X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」との記載を削除し、「X子さんも小誌の取材に対して、Aさんがセッティングしている会の延長だったことに間違いありません」と証言しています」との表明しました。

被害女性の守秘義務違反ではないか?

文中にサラッと書いてありますが、「X子さんも小誌の取材に対して、「(事件は)Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません」と証言しています」とあります。

もしこれが事実だとしたら、X子さんは中居氏との示談での守秘義務に違反して取材に応じているいることを週刊文春が認めた、ということになるのではないでしょうか?

メディアによる情報源の秘匿の問題と相まって、新たな展開になるかもしれませんね。

中居氏に対する「性接待」疑惑が晴れたとしても終わりではない

編成幹部Aが会食のセッティングをしたとの当初の報道をきっかけに、フジテレビは「性接待」などのレッテルを貼られ、他のメディアや世の中の人たちから批判・非難されてきました。

この部分を週刊文春が削除したことは、「性接待」との批判・非難の根幹の部分が崩れたことになります。

そのため、ややもすると、「フジテレビの今までの騒ぎは何だったんだ」との見方もないわけではありません。

SNSでもその趣旨の投稿が散見されます。

たしかに、中居氏による性的トラブル問題一件限りで見れば、「何だったんだ」という感は否めません。

しかし、今回の報道を通じてフジテレビの「ガバナンス」が問われているのは、「性接待」だけではありません。

フジテレビの「ガバナンス」として問われている内容

「ガバナンス」の内容を分類してみると・・

フジテレビが問われているのが「ガバナンス」であることは間違いなのですが、2回目の会見での質疑応答でもわかるとおり、「ガバナンス」という言葉がひとり歩きしているだけで、記者の人たちにも「ガバナンス」の内容を理解していない人も見られます。

そこで、フジテレビが問われている「ガバナンス」の内容を整理しましょう。

まずは、当事者を簡単に整理します(調査報告書が出ていないので、一部役員、その他役員などザックリとした表記にしています。また、社長は事件当時の港社長を意味します)。

この当事者関係図を見ながら「ガバナンス」の内容を整理・分類すると

  1. 中居氏と被害女性との性的トラブルへのフジテレビの編成幹部の関与の有無
  2. 幹部社員が被害女性から被害の申出を受けた後、社長まで報告したのか
  3. 社長が報告を受けてからの危機管理(調査の実施、被害女性の保護、処分の決定)に関する意思決定
  4. 社長からのフジテレビのその他役員やコンプライアンス担当、人事担当など然るべき部署への情報共有
  5. フジテレビ内での役員間の監視監督義務
  6. 持株会社のフジメディアHDの取締役も兼任しているので、フジメディアHD内でのその他役員・相談役への情報共有の有無
  7. フジメディアHD内での役員間の監視監督義務
  8. 報道後のフジメディアHDからフジテレビに対するグループガバナンスの機能
  9. 報道後の株主によるガバナンス(ダルトン・インベストメンツからの書簡)
  10. 1を疑われるような過去の類似案件の有無と企業風土(女性に対する人権軽視)

に分けることができます。

編成幹部の関与の有無

このうち、週刊文春が編成幹部が会食を設定したとの記事を削除したのは 1 に関わる部分です。

1については2024年12月27日にフジテレビが関与を否定する声明を出し、2025年1月17日の会見時に石原常務取締役が社内調査の結果を説明し、27日に行われた2回目の会見でも詳細を説明していました。

そのため、1 に関わるガバナンスの機能不全の問題は解消したと言って良いでしょう。

「握りつぶし」報道

2は、文春が「握り潰した」などと1月7日に報じた内容に関わるガバナンスです。

この報道を受けて、株主であるダルトン・インベストメンツ(ライジング・サン・マネジメント)が1月14日付けの書簡にて「事実の報告とそれに伴う対応の許し難い欠陥の両⽅において⼀貫性と透明性が欠如している」と指摘した中には、この 2 が含まれている、と考えられます。

港社長は2023年6月初旬に報告を受けていたと説明していることから、2については機能していると言えます。

社長による危機管理の判断、役員間での情報共有の有無

現時点でガバナンスが機能していなかったのではないかと指定できるのは、3と4と6です。

この点について、港社長は1回目の会見で

  • 「当時の判断として、事案を公にせず、他者に知られずに仕事に復帰したいという女性の意思を尊重し、心身の回復とプライバシーの保護を最優先に対応してまいりました。この件は、会社としては、極めて秘匿性の高い事案として判断していました。」
  • 「まずは女性の心身のケアを最優先に努めておりました。それゆえ、会社として中居氏への正式な聞き取りを含めた調査に着手することは、より多くの人間がこの件を知る状況を生むため、女性のプライバシーが守られなかったり、女性の意思が十分尊重されないのではないかという点で、大きな懸念がありました。」

と説明しました。

性的トラブル問題ですから、被害女性の心身の回復、プライバシー保護を優先して秘匿性の高い問題として判断したこと自体は適切な判断と言えるでしょう。

しかしながら、一般的な事業会社では、社内で性加害を含むセクシャルハラスメント案件が発生した場合でも、人事やコンプライアンスの担当役員や責任者に情報を共有し、外部の弁護士を交えながら秘密裡に調査し、然るべき処分を行うことは普通に行われています。

また、社内での情報共有が憚られるとしても、社長まで報告が上がってきたときには、社長1人で弁護士に秘密裡に相談して、今後の方向性を決めることはできたはずです。

余談ですが、私はそういう相談も受けています。

滅多にありませんが、たまに「顧問弁護士に相談すると社内に漏れたり、大きな事務所だと複数の弁護士が知ることになるので、この件だけで秘密に相談できますか」というケースもあります。性的トラブル問題に限らず、経営判断や危機管理に迷ったときに、稀にあります。

話を戻します。

社長が性的トラブル問題について報告を受けたのに、調査への着手自体をしないというのでは、端から見たときに「何もしていない」のと同じです。

そうだとすると、報告を受けた後の社長の判断は危機管理として一般的ではなく不適切であったように思います。

他の取締役による監視監督、グループガバナンス

今回の件でもう1つガバナンスの機能不全として問題になるのは、5と7と9 です。

2023年6月当時フジテレビの専務取締役で、現在は関西テレビの社長である大多亮氏が2025年1月22日に記者会見を行い、報告が上がってきていて、性的トラブル問題の事案を把握していたことを認めました。

そうだとすると、次に問題になるのは、港社長が調査等を何も行わないことに対して、大多氏は専務取締役として調査等を進言しなかったのか、ということです。

すなわち、港社長が不適切な危機管理に関する意思決定をしているのだから、それに対して取締役相互の監視義務に基づいて適切な危機管理に関する判断を求めなかったのか、ということです。

これをしていなかったのだとしたら、これだけでも監視義務違反、すなわちガバナンスの機能不全と言っていいでしょう。

また、港社長から情報を共有されなかった他の取締役、監査等委員である取締役(フジメディアHD)、監査役(フジテレビ)は、2024年12月27日に文春が報じたことで性的トラブル問題の存在を初めて知ったことだと思います。

そうだとしても、その時点で、これらの役員は港社長に対して性的トラブル問題について事態を把握しているのか、またこれまでの対応がどうなっているのかを問い質すべきでした。

2025年1月17日に港社長による1回目の会見を受け、21日にようやくフジメディアHDの社外取締役7人全員が連名で緊急取締役会の招集を請求したのは遅すぎるくらいです。

しかし、その後の動きは速く、27日に行われた2回目の会見を受け、フジメディアHDの社外取締役7人全員は29日、経営陣の刷新を求め、取締役会の下に全社外取締役をメンバーとする「経営刷新小委員会」を設け、機動的な調査や提言を行う体制の整備を求めています。

提言するだけでなく、これがきっかけになってフジメディアHDとフジテレビの経営陣が一新され、企業風土の刷新に繋がっていけば、社外取締役によるガバナンスやグループガバナンスが機能したことと言えます。

これは、ガバナンスを分類した 10 の項目にも関連する動きとして理解することができます。

株主によるガバナンス

フジテレビが1回目の会見を行ったのも、その後、日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会を設置することになったのも、2回目の会見を行ったのも、すべてのきっかけになったのは、株主であるダルトン・インベストメンツ(ライジング・サン マネジメント)からの書簡でした。

これらは株主によるガバナンスが機能した例といって良いと思います。

東証が政策保有株式(持ち合い株式)の解消を求め、株主によるガバナンスを強化しようとしていることは、こういうことなのだろうでしょう。

2回目の会見の疑問点

すごいどうでもいい疑問なんですが・・・

  • フジテレビ代表取締役会長兼フジメディアHD代表取締役会長の嘉納修治氏とフジテレビ代表取締役社長兼フジメディアHD取締役の港浩一氏の両名は、2025年1月27日をもって代表取締役と取締役から辞任
  • フジメディアHD専務取締役の清水賢治氏が、28日付けでフジテレビ取締役に就任し、代表取締役社長に選定

しました。

ここまではいいのですけれど、ここからが素朴な疑問です。

2回目の会見は27日午後4時に開始し、28日午前2時33分に終了したので、そうだとすると、会見の途中、日付が変わった段階で嘉納氏、港氏の両名は取締役でもなんでもない人になり、清水氏がフジメディアHD専務取締役からフジテレビ代表取締役社長に肩書きが変わったことになるのでしょうか。

大勢に何ら影響のない疑問です。

金曜日に会社法の学者の先生方との勉強会があるので、法的にどうなるのか、ちょっと訊いてきます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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