JAL国際線機長らが乗務前に大量飲酒した件に箝口令。国交省航空局への報告しない判断を役員が了解。報告を指示した会長を処分する不可解な対応。安全性に対する意識が低いのではないか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

日本航空(JAL)のメルボルン発成田行きの国際線の機長、副機長が乗務当日の2024年12月1日、前日に社内規定量を超える飲酒をしたために出発が3時間11分遅れたことに対し、国交省は12月27日、JALに対して業務改善勧告を発しました。

なお、機長と副機長は、12月27日に解雇されています。

この件に関し、機長が12月4日に社内関係者102人に謝罪メールを送ったところ、JAL社内では102人全員にメールの削除と口外禁止とする箝口令を敷いたことが、2025年1月22日に報じられました。

実際のところはわかりませんが、これが事実であるとすれば「隠蔽」との謗りを免れず、安全性に対する意識が低すぎると言ってもいいでしょう。

国交省航空局への報告の対象外とする動き

機長らの口裏合わせ

機長らが酒気帯びで会社に出勤した場合、航空各社は事案の把握から原則3日以内に国交省航空局へ報告することが航空法、同施行規則に関する細則(「航空法第 111 条の4に基づく安全上の支障を及ぼす事態の報告について」)で義務づけられています。

機長と副機長は当初口裏合わせをしていたものの、12月3日夕刻に自白しました。

機長と副機長が当初口裏合わせをしただけでもコンプライアンスの意識が乏しいことがわかりますが、3日に自白しただけまだ救いがありました。

役員らが報告しないことを了承

ところが、JALは12月5日までに国交省に報告しなければならなかったにもかかわらず、国交省に報告したのは12月6日になってからでした。

機長らの自白が遅れたから報告が遅れただけではないかと思いましたが、真相は異なるようです。

東洋経済では、機長らが自白した翌4日に鳥取社長をはじめ関係役員に情報が共有されたのだけれども、役員会では「国交省航空局への報告対象外とすること」を決め、「飲酒量を含めて緘口令を敷く」ことを鳥取社長を含めた役員が了解した、と報じられています。

こうした判断をした理由として、役員らが「乗務前のアルコール検査がゼロだから問題ない」と判断していた、とも報じられてます。

JALの社内規程では、出発前ブリーフィングに先立ち検査を行う旨が規定されています。

しかし、機長らはアルコールが検知されなくなるまで自主的な検査を継続して乗務前アルコール検査を実施しないまま出発前ブリーフィングを行い、その後アルコール検査により検知した後も当初は誤検知と判断し、乗務員の交代などを行いませんでした。

最終的にはゼロと検査されましたが、時間の経過により酔いが醒めて呼気中のアルコールの量が減っただけと考えるのが一般的な感覚だと思います。

JALと言えば、飲酒乗務ではありませんが、1982年2月9日に機長が心神喪失状態(妄想性精神分裂症)で逆噴射して羽田沖に墜落させ、乗客24名が死亡、95名が重傷を負い、54名が軽傷を負う事故を起こしたことがあります。

飲酒の場合でも心神喪失までは至らなくとも、危険な精神状態で乗務することになるのは、自動車の飲酒運転の事故例を見れば容易に想像できます。

しかも、JALは、2018年から2019年に立て続けに飲酒を理由とした事業改善命令等の行政指導を受け、2024年5月27日には機長の飲酒トラブルにより国交省から厳重注意を受け、再発防止のため9月まで乗務員が滞在先で飲酒することを規制し、10月に解禁したばかりでした。

そうであるにもかかわらず、今回のケースをJALの役員らが「問題ない」と判断したのだとしたら、乗務前のアルコール検査が安全性を確保するため(乗務前の機長らの飲酒を規制するため)に行われているという検査の趣旨に対する理解がなさすぎです。

もっと言えば、人を乗せて空を飛ぶことに対する安全性の意識が乏しすぎですし、JALの飛行機を利用する者の期待を裏切っていると言ってもいいでしょう。

最終的に報告するに至った経緯

JALが12月6日に国交省航空局への報告に転じた経緯について、東洋経済は以下のように報じています。

事態が動いたのは12月5日。運航管理の最高幹部であるオペレーション本部の下口拓也本部長が、赤坂祐二会長に飲酒事案についての報告を行った。

赤坂会長は飲酒事案は国交省へ報告すべき事案だと認識し、報告を指示したという。赤坂会長は安全管理システムを管理する責任と権限を有する安全統括管理者を2019年から務めている。いわばJALの安全管理の責任者だ。

12月6日にも運航本部の南正樹本部長と安全推進本部の立花宗和本部長から同様の報告を受け、国交省への報告を再度指示。こうしてJALは、同日の夜に国交省に電話で飲酒事案に関する報告をするに至った。

情報が提供された会長の判断によって国交省への報告が行われたとのことなので、安全性に対する意識が高い役員、幹部らがいることがわかります。

ただ同時に、安全性に対する意識や意思決定ルートが社内で二つに分かれているとの印象も受けました。

社内の意思決定ルートが2つにわかれていることは、相互に補完する関係であれば、安全性の担保として有効だと思います。

しかし、安全性に対する意識が2つに分かれて相反していることは、今後の懸念点とも言えます。

少なくとも安全性に対する意識だけでも社内で統一すべきではないでしょうか。

報告を指示した会長を処分するあべこべな対応

この件に関して、JALは1月24日に国交省に再発防止策を提出し、かつ社内処分を決定しました。

報じられている内容では、会長を安全統括管理者から解任し、安全推進本部長と運航本部長も処分を検討しているようです。

しかし、東洋経済の記事では、役員会は国交省に報告しないと判断していたところを、会長こそが国交省航空局にこの件を報告することを指示し、安全推進本部長と運航本部長は会長に報告した、と書かれています。

処分されるべきなのは、報告しないことを判断した当初の役員会のメンバーではないでしょうか。

報告しなかったことが正しかったという判断をしているとも受け取れてしまいます。

報道されていない事実があるのか、不可解です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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