フジメディアホールディングスとフジテレビが第三者委員会を設置する取締役会決議。第三者による調査が成功するために必要な視点と条件、環境整備。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

フジテレビと持株会社フジメディアホールディングス(フジメディアHD)は2025年1月23日、第三者委員会を設置することを決議しました。

日弁連ガイドラインに沿った中立・独立した第三者だけによる調査であることに加え、フジテレビとともにグループガバナンスの責任を担う持株会社であるフジメディアHDも一緒になって決議したことで、1月17日のフジテレビの社長会見で表明した「第三者である弁護士を中心とする調査委員会」よりは一歩前進した形です。

とはいえ、第三者委員会を設置すればすべてが明らかになるわけではなく、多くの課題があります。

そもそも何を調査するのか

今回の調査でそもそも何を調査するのかは、委員会に調査を依頼するフジメディアHDとフジテレビ(両社併せてフジ)が決めます。

中居氏の性的トラブルへの事後対応についてと、この一件に限定した狭い範囲の調査を依頼することもできます。

もちろん、過去の取引先や出演者との接待、接遇への女性社員の関与や女性社員の人権軽視、それらに対するガバナンスが機能していたのか、発覚後のリスクマネジメントの妥当性という広い範囲の調査を依頼することもできます。

開示には「第三者委員会への調査委嘱事項」として、以下の6項目が挙げられています。

  1. 本事案へのフジテレビ及び当社の関わり
  2. 本事案と類似する事案の有無
  3. フジテレビが本事案を認識してから現在までのフジテレビ及び当社の事後対応
  4. 当社及びフジテレビの内部統制・グループガバナンス・人権への取組み
  5. 判明した問題に関する原因分析、再発防止に向けた提言
  6. その他第三者委員会が必要と認めた事項

1,3は中居氏の案件だけですが、2,4,5,6は中居氏の案件以外の過去の事案、フジメディアHDによるグループガバナンスとフジテレビのガバナンスの機能、「ビジネスと人権」、事後対応のリスクマネジメントの妥当性をも調査の対象としています。

広い範囲について調査を依頼したもので、フジが今回の件をきっかけに膿を出し切ろうと意思決定したことがわかります。

ヒアリング調査、客観的な証拠収集の困難性

第三者による調査で想定される最大の苦難は、ヒアリング調査、証拠収集の難しさです。

ヒアリング調査の難しさ

報道されているとおり女性社員の接待への関与や人権軽視の対応が以前から行われていたとすると、ヒアリングを受ける現役の従業員たち(現役世代)は、過去に現場でそれらに関与していた役員や上司を告発するのと同じです。

そのため、現役世代は、役員らと刺し違える覚悟で調査に回答をしなければなりません。

仮に第三者委員会の守秘義務が徹底されずに、ヒアリング対象者が誰であるか、誰がこう答えたなどの回答内容が何らかの形でメディアに漏れ報じられた場合、その後にヒアリングを受ける現役世代は、役員らの目やその後の報復が気になって安心して回答できなくなります。

そもそも、女性アナウンサーや女性社員にヒアリングをしても、「セクハラされたことがあります」くらいは回答してもらえるかもしれません。

しかし、プライドがあるので、強制力のない、どこの誰だかわからない初めて会う弁護士に「自分は性接待・上納された当事者になったことがある」「この会社の役員や政治家、芸能人と何かがありました」などと自白することはまずないでしょう。

そうすると、どんなにヒアリングをしても、なかなか証拠が集まりません。

第三者委員会はうわさ話だけで事実を認定することはできませんから、株主・投資家、取引先、世の中の人たちが期待する内容の報告書にならない可能性が高いです。

そのため、調査対象となる現役世代が安心して役員・上司を告発することができ、また女性アナウンサーや女性社員が自分の過去の恥についても答えらえるようにするため、第三者委員会の守秘義務の徹底は一つの鍵だと思います。

また、フジ側の役員が現役世代に「第三者委員会には包み隠さず話して構わない」「積極的に協力しても不利益は課さない」と宣言することも必須です。

開示の4では「当社及びフジテレビは、第三者委員会による調査に全面的に協力して参ります」と謳っています。

これがお題目を並べただけで終わらないようにするには、この内容を役員の口から社内に向けて発し、本気であることを伝え、浸透・徹底させることが重要になってきます。

※2025年1月30日追記

フジメディアHDとフジテレビは1月30日、「調査対象者の保護」と題して以下の三点を決議したことを明らかにしました。

  1. 第三者委員会の調査に協力した役職員に対し、決して不利益な取扱いをしない
  2. 第三者委員会の調査に協力した役職員に対して不利益な取扱いをした場合、取締役会決議に違反する重大な不適切行為と認める
  3. 第三者委員会の調査に協力して不利益な取扱いを受けた役職員は、直ちに第三者委員会または会社に被害申告されたい

OB、OGの協力を得られるか

さらには、役員の目に遠慮せずに回答をもらえるようにするため、退職してフリーになったアナウンサーや結婚して引退した女性アナウンサー、女性社員など、役員の影響が及ばない人たちからも過去の体験・噂も含めて回答が得られるかも課題となるでしょう。

中には、フジから離れたのだから放っておいてほしいと思っている人もたくさん居ると思います。

そうした人たちに、かつて勤めた会社への愛があれば協力してくれるかもしれません

そうした協力への要請・説得と、安心して協力してもらえるための守秘義務の徹底が大事だと思います。

OB、OGに協力をお願いできる、説得できる人材も調査側に必要です。

OB、OGだけでなく、実際に制作の現場に携わっている制作会社など別法人の従業員からも回答を得ることも実態解明のためには必要かもしれません。

客観的な証拠の収集の難しさ

第三者委員会は、ヒアリング調査だけでは事実を認定することはできません。

人には記憶違いがありますし、また時には役員の足を引っ張る目的で虚偽の証言をする人もいるからです。反対に、隠蔽目的で証言する人もいるかもしれません。

そのために過去に遡って、接待、接遇の日時や内容、主催者、参加者を特定する客観的な資料の調査が不可欠です。

しかし、過去に遡るにしても、社内に記録が残っていないことは十分予想できます。

会社のPCは買い替えて済みでメールやチャットが残っていない、携帯・スマホも買い替えてLINEや携帯メールなども残っていない、プライベートの携帯は見せたくないとして提出を拒まれる…。

その結果、第三者委員会がヒアリング調査はしても、事実認定ができないことが多々ありそうです。

調査を開始する前に役員に辞表と誓約書を提出させよ

フジの役員・従業員による調査への積極的な協力がなければ、第三者委員会が実態を解明するにはほど遠いでしょう。

そのため、第三者委員会は調査を開始するにあたって、

  • フジメディアHDとフジテレビの全役員から日付けを白地にした取締役等からの辞任届を提出してもらう
  • フジメディアHDとフジテレビの全役員から「調査に積極的に協力します」「調査を拒絶しません」「従業員に対して調査委員会に協力するように指揮命令します」「調査に協力した従業員に対して人事評価、人事上の報復その他の一切の不利益、一切の嫌がらせ、協力者の名前の詮索をしないことを約束します」「約束に違反したときには辞任登記を申請することを承諾する」などの宣誓書を提出してもらう

こともあってもいいかもしれません。

こうすることで、第三者委員会がフジメディアHD、フジテレビの役員の生殺与奪の権を握り、調査に本気で協力せざるをえないように仕向けるのです。

前代未聞の措置かもしれませんが、前代未聞の事件なのですから、前代未聞の対応が必要であるということです。

第三者委員会は妨害に負けないために広報を意識すべし

開示では、3月末をめどに調査報告書が提出されると記載があります。

わずか約2か月間でヒアリング調査を実施し、客観的な証拠の有無まで調査し、さらに報告書にまとめるのは相当な試練が予期されます。

中でも試練として予期できるのは、

  • 第三者委員会が発表さえしてない事実がメディアを通じて漏れて報じられること
  • 現状既にそうなっていますがフジテレビの従業員が好き勝手なことをテレビ番組内やSNSで発信すること
  • 役員からの横やり
  • 調査の過程が見えないことに対する世の中の人たちの不平・不満、ひいては第三者委員会への不信感を醸し出す反対派の人たちの存在

などです。

そこで、第三者委員会は中間報告、最終報告まで何も情報を発信しないが一般的ですが、調査対象が情報発信する手段を持っている特殊性を考慮すると、今回のケースに関しては、第三者委員会が全体のスケジュール、調査に協力してもらえない場合にはその旨などを積極的に情報発信してもよいのではないかと思います。

例えば、第三者委員会が簡易なサイトを立ち上げ、適宜、経過を明らかにすることです。

これも滅多にやらないことかもしれませんが、調査に非協力的な態度が見られたときには非協力的な態度を晒したり、調査への妨害があったときに妨害の事実を知らしめるためには考えて良いと思います。

外資系アクティビスト株主との協力という禁断の果実

フジメディアHDは、放送法にもとづく認定放送持株会社ですから、電波法と放送法による外資規制を受けます。

外国人等が直接間接に保有する議決権割合が1/5以上になれば欠格事由となり、総務省によって取り消される可能性があります。

フジが調査に消極的・非協力的な場合に限っての、かつ、あくまでも最終手段ではありますが、第三者委員会は、この外資規制をうまく使いこなすことで、フジ側を追い込んでいくこともできます。

第三者委員会としての調査の範疇を超えていると言われればそれまですが、具体的には

  • 外資系アクティビストとも対話をして、フジの役員・従業員らに調査に消極的・非協力的な姿が見られた場合、フジメディアHDの株式を20%以上まで取得を進めて構わない意思を示す
  • 総務省にも認定取消をしてもらうよう本気で陳情する
  • フジメディアHDの会長を含め役員が全員辞任し影響力も手放したときには、買い進めるのを止め、認定取消を避ける
  • 欠格により認定取消となりそのまま上場廃止になるとアクティビストはEXITができなくなるので、そのあたりの按配についても総務省、アクティビストと協議・対話しながら進める

など、です。

あくまでも会社の調査に協力的ではない場合に限って、最終手段として、調査に協力させるために外資系アクティビストと手を組むということです。

さすがに前代未聞ですし、そこまで至って調査に協力しないような会社ではないと思います。

しかし、前代未聞のことが起きているのですから、前代未聞の対応として、最終手段として「禁断の果実」として外圧を利用することもあっておかしくないのではないでしょうか。

もちろん、調査委員会なので、誰が次の役員であることが望ましいかなど調査の範疇を超えていることには意見すべきではありません。

目指すべきゴールはどこか

フジは、今回の1件だけでなく、過去にも女性社員を利用した接待等が行われていたなどとも報じられ、社内での女性社員の人権の軽視が当たり前の環境であったようにも見受けられます。

そうだとすれば、この機会に膿をすべて出さなければ、フジに対する信頼は回復できません。

最終的には現在のフジメディアHDもフジテレビも役員や管理職の主要メンバーの総退陣も含め、企業体質や組織風土の改革は必須です。

企業カルチャーがこの機会にまったく変わったと思ってもらえる程度に組織改革が必須です。

そのためには、トップが変わるだけでなく、組織風土の改革として、現場の従業員や制作会社による取引先や出演者・所属事務所との接待、接遇について、一般の事業会社が取引先と会食するのと同じ程度に厳しい仕組み作りとその徹底が必要だろうと思います。

また、フジへの不平・不満は、企業の体制だけでなく、番組の制作スタンスにも向けられています。

その不平・不満はドジャース大谷選手への無秩序な取材によってフジテレビが出禁になる以前から存在し、2011年には抗議デモまで行われたほどです。

今回これほどの批判・非難に晒されているのは、2011年当時からの世の中の人たちの不平・不満が払拭されないまま時が過ぎ、今回の件を機に飽和しただけでしょう。

2011年のデモの当時はフジはこのような世の中の人たちの批判・非難を嘲笑してもやり過ごせたかもしれませんが、スポンサー企業離れまで始まっている現在は、到底、笑っていられる状況にはありません。

そういう意味では、企業の体制や接待、接遇のルールを厳しくしただけでは、信頼を取り戻すことは難しく、事業活動である番組の制作スタンスから改めていかないと厳しいのではないでしょか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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