中居正広の「お詫び」は、なぜ批判されたのか。ファンに向けられた謝罪文に入れた一文の表現が広報の失敗。危機管理広報では謙虚な姿勢が伝わる文章表現を工夫する必要。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

文春オンラインが2024年12月25日に中居正広の性的トラブルを報じたのを受け、中居正広(のんびりなかい)は2025年1月9日に「お詫び」と題する謝罪文を公式サイトに掲載しました。

今回は、このケースを題材に、危機管理広報の文章、特にリリースを作成する際の注意ポイントを解説します。

「お詫び」が炎上した要因

中居正広が起こした性的トラブルの内容について推察するメディアの報道が相次いでいますが、正確なところはわかりません。

「トラブルがあったことは事実です」と認めていることから、大枠は外れてはいないのでしょう。

それでも、この「お詫び」が公表されると、SNSやメディアでは批判・非難する声が殺到しました。

批判・非難される要因となったのが、第二段落の最後にあった「なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」の一文です。

「お詫び」の名宛人と今後の芸能活動についての文章表現

この一文の表現が「お詫び」の文章に入れるには相応しくないと受け取られてしまったのです。

では、なぜ相応しくないと受け取られてしまったのでしょうか。

この「お詫び」の冒頭は、「皆様」に向けての文章になっています。

すぐ次の文章に「相手さま」「関係各所の皆様」との言葉が入っていることから、「皆様」はファン、視聴者など世の中の人たち全般を指しているのだろうと思います。

そうだとすれば、「お詫び」の文章は、ファン、視聴者、世の中の人たちからの信頼、期待を裏切ったことへのお詫びと、守秘義務がある中で説明できる範囲の内容を説明することに留めるべきでした。

なぜ今後の芸能活動についての一文を入れたのかの推察

批判・非難の対象となった一文は、おそらく、「中居正広の今後の芸能活動はどうなるのだろう?続けるの?続けないの?」といったファン、視聴者、世の中の人たちの疑問・関心に答えるために入れた一文だと推察できます。

そのため、「今後の芸能活動を続けることができるので、心配いただいているファンの皆様、ご安心下さい」というニュアンスで入れたのだろうと思います。

もしそういうニュアンスで書くのだとすれば、別の表現方法があってもよかったのではないかと思います。

例えば、「本来、こうしたトラブルを起こしたことで被害者の方、ファン、視聴者、世の中の人たちからの期待を裏切ったことにより芸能活動を自粛しなければならないところでしたが、被害者の方のご厚意によって芸能活動を続けていくことを許していただけました」などのような表現がありえます。

こんな表現なら、自分が起こしたトラブルについて責任を取ろうとする意思を示しつつ、でも、被害者の厚意で続けることができるようになったとの謙虚な姿勢を示すこともできたのではないでしょうか。

また、仮に、「なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」の一文を、中居正広を起用するメディア各局や制作会社向けに書いたのだとしたら、それを、ファン、視聴者、世の中の人たち向けの謝罪文に入れるには蛇足な文章です。

メディア各局や制作会社向けのメッセージは、その数も限られているので、自分で足を運んで説明・謝罪に出向けばよく、わざわざ公にする必要はありません。

危機管理広報の基本姿勢

芸能活動に限らず企業の場合でも、不正・不祥事を起こした時には、世の中の人たちから不信の目で見られています。

それまでどんなに人気があったとしても掌返しをされたかのようにバッシングや、バッシングされなくても批判・非難の声があがります。

こうした場面での危機管理広報は、基本的には低姿勢、謙虚な姿勢でなければなりません。

謙虚な姿勢を示すことで初めて世の中の人たちは「許してやろう」という気になります(性的トラブルの場合はなかなか許されませんが)。

今回の「なお、示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」の一文の表現では到底低姿勢な印象は伝わらず、下手すると「示談したんだから、もう良いでしょう」と開き直っているようにも誤解されて受け取られてしまいかねません。

同じ意味の文章を書くにも表現方法を工夫する必要があるのです。

ここはマニュアルにならない部分なので、頭を使って考えるようにしてください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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