日本郵便が下請事業者から十分な説明なく高額な違約金を徴収したことが下請法違反の「不当な経済上の利益の提供要請」として、公正取引委員会から警告。取引先に対する違約金請求の限界は。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

日本郵便が下請事業者から違約金を徴収していたことに対し、2024年6月に公正取引委員会が下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)を理由に警告していたことが、2025年1月6日、明らかになりました。

日本郵便の違約金の徴収が「不当な経済上の利益の提供要請」として下請法違反

日本郵便が下請事業者から徴収していた違約金とは、日本郵便が2003年以降、「ゆうパック」の配送を委託している下請事業者との契約に「誤配達1件5千円」「タバコ臭クレーム1件1万円」などの違約金制度を定め、これに基づいて徴収していた違約金のことです。

これに対し、公正取引委員会は、違約金が不当に高額で、十分な説明なく複数の下請事業者から違約金を徴収することは、下請法違反の「不当な経済上の利益の提供要請」にあたると判断したのです。

また、警告を受け、日本郵便は、徴収済みの違約金のうち不当と認めた部分を下請事業者に返金しているそうです。

違約金制度が違法なわけではない

報道にもありますが、日本郵便が定めた違約金制度が下請法に違法しているわけではないので、誤解しないように注意が必要です。

下請法や独禁法の優越的地位の濫用が禁じているのは「不当な経済上の利益の提供要請」です。「不当」でない(正当な)経済上の利益の提供を要請することまでは禁じられていません。

そのため、日本郵便に限らず、親事業者が下請事業者との契約に違約金条項を定め、下請事業者がその条項を理由に親事業者が違約金の支払いを求める仕組み(構図)には問題がありません。

例えば、下請事業者が納期どおりに納品しなかった場合に、違約金条項を理由に請求するなどが典型です。

法律的には「違約罰」「損害賠償の予約」と呼ばれるものです。

「不当な経済上の利益の提供要請」とは・・

下請法が禁ずる「不当な経済上の利益の提供要請」とは、具体的には、

  • 協賛金等の負担の要請
  • 従業員等の派遣の要請
  • その他の経済上の利益の提供要請

を意味します。

下請法が適用されない取引では、「優越的地位の濫用」の一つとして禁止されています。

詳しい内容は、独禁法の優越的地位の濫用ガイドラインの「独占禁止法第2条第9項第5号ロ」の解説が参考になります。

以下では、簡単にポイントを解説します。

協賛金等の負担の要請

協賛金等の負担の要請の典型例は、「おたくの商品を広告に掲載する代わりに、広告費の一部負担して」などと要請することです。

協賛金等の名目は問いません。

ただし、協賛金を下請事業者が負担することが、下請事業者の直接の利益に繋がる合理的な範囲内なら違法にならないこと「も」あります。

他方で、協賛金等の負担の要請は、下請法違反「減額」として処分されることもあります。

2024年3月には、日産自動車が割戻金名目で下請代金を減額したことが、下請法違反の「減額」に該当するとして公正取引委員会から勧告を受けました。

従業員等の派遣の要請〜エディオン事件(審決2019年10月2日)

従業員等の派遣の要請の典型例は、小売店が、メーカーや卸業者に対して、従業員を派遣させ、店頭販売を手伝うように要請することです。

ただし、メーカーや卸業者、下請事業者が、自社が販売・卸しした商品の店頭販売に限って、従業員を派遣する場合、それが下請事業者の直接の利益に繋がる合理的な範囲内なら違法にならないこと「も」あります。

独禁法の優越的地位の濫用として問題になったケースとして、2012年2月に、公正取引委員会が、家電量販店のエディオンに対し、2008年9月~2010年11月、店舗の新規・改装オープン時に大手家電メーカーの販売子会社など計127社の従業員ら延べ1万1172人を動員し、無償で商品の運搬・陳列をさせたして、排除措置命令と約40億5000万円の課徴金納付命令をしたことがあります。

なお、エディオンは不服として争った結果、公正取引委員会は、2019年10月2日、127社のうち35社には優越的地位の濫用ではないとして、課徴金を30億3228万円に減額する審決を出しました。

その他不当な経済上の利益の提供要請

その他不当な経済上の利益の例としては、金型等の設計図面、特許権等の知的財産権、従業員等の派遣以外の役務提供その他経済上の利益の無償提供を要請し、取引の相手方が今後の取引に与える影響を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合があります。

物の製造を委託する契約をした後に、製造のために作成した金型に相当する費用を支払うことなく、金型の設計図面や金型そのものの引渡しを求めることは、「その他不当な経済上の利益」に該当するおそれがあります。

今回の日本郵便のケースのように、下請事業者である配送業者が「今後の取引に影響するかもしれない」と懸念して、本来支払う必要がない合理性がない額の違約金を支払うことも、「その他不当な経済上の利益」の提供です。

ただし、商品の販売に付随して当然に提供されるべきものの提供を要請する場合には、その他不当な経済上の利益に当たらないこともあります。

2024年7月には、トヨタカスタマイジング&ディペロップメントが、下請事業者に長期間発注しないまま金型を無償で保管させていたことが、「不当な経済上の利益の提供要請」として公正取引委員会から勧告されました。

また、2024年11月には、イトーキが物流事業者に物流以外の附帯業務を無償で行わせたことが、物流特殊指定の「不当な経済上の利益の提供要請」として警告を受けました。

「今後の取引の継続」をちらつかせて無理難題を取引先に要求することは違法となることがあることを警戒し、また、「今後の取引に影響があるかもな」と不安になって無理難題に応じる必要がないことも自信を持ってください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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