自社が提供する労務安全サービスから他社のサービスへの切替えをさせない等として、公正取引委員会が「競争者に対する取引妨害」を理由に排除措置命令。MCデータプラスは取消訴訟を提起。囲い込みはどこまで許されるのか。「取引妨害」とは。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年12月24日、公正取引委員会は、MCデータプラスに対して「競争者に対する取引妨害」を理由に排除措置命令を行いました。

これに対し、MCデータプラスは、事実認定及び法令解釈に関する見解の相違を理由に、即日、排除措置命令の取消訴訟及び執行停止を申し立てています(下記はMCデータプラスのサイトのスクショ)。

公正取引委員会が「競争者に対する取引妨害」と認定した事実

MCデータプラスが事実認定及び法令解釈に関する見解の相違を排除措置命令の取消訴訟と執行停止を求めているので、公正取引委員会による事実認定が確定したわけではありません

とはいえ、ひとまず、公正取引委員会が認定した事実の内容を確認しましょう。

公正取引委員会の公表資料によると、事案の概要は以下のとおりです。

  1. MCデータプラスは、「グリーンサイト」と称する建設業向け安全労務管理のためのクラウドサービスを提供している
  2. 同サービスのユーザーがグリーンサイトに入力した作業員の情報は、グリーンサイトで帳票として出力する場合を除き、ユーザーは電磁的記録として直接出力できない
  3. ユーザーが他社サービスへの移行可能な形式での出力をMCデータプラスに求めたが、ユーザーが登録した作業員の情報なのに、MCデータプラスは個人情報を理由に断った
  4. MCデータプラスは約款を改定し、他社サービスに乗り換えようとするユーザーが、出力した帳票を他社に提供する行為を一律に禁止した
  5. MCデータプラスは、安全労務管理サービス「Greenfile.work」を提供するシェルフィー社に対し、グリーンサイトから出力した帳票をシェルフィーに提供することにより作業員情報を同社が提供する労務安全サービスに移行する方法等を記載した、同社のウェブサイト上に公開された記事の削除を求めた(シェルフィーは記事を非公開にし、営業先を変更するなど経営方針を変えた)
  6. MCデータプラスは、グリーンサイトのユーザーが、安全労務管理サービス「Buildee労務安全」を提供するリバスタ社に対し帳票を直接提供していた件を把握したことから、グリーンサイトのユーザーに約款の禁止事項に該当することをポータルサイトに掲載して周知するとともに、ユーザーにメールを3回送った

概要からの抜粋なので、正確な内容は、公正取引委員会の排除措置命令書にて確認してください。

これらの事実認定をもとに、公正取引委員会は、「MCデータプラスは、労務安全サービスの取引において、グリーンサイトのユーザーに他社の労務安全サービスへの切替えをしないようにさせていることによって、自己と競争関係にある事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害している」と評価したのです。

囲い込みはどこまで許されるのか?「取引妨害」とは・・

今回争点になっているのは、MCデータプラスによる囲い込み行為が「競争者に対する取引妨害」に該当するかどうかです。

「取引妨害」の代表例

「取引妨害」は、契約の成立を阻止する、契約の不履行を誘引するほか、取引を妨害する行為全般を含みます。

ただし、独禁法の「不公正な取引方法」に関する一般指定では、「取引を不当に妨害すること」として「不当に」の文言が入っています。

企業からすれば「他の会社ではなく、うちの会社のサービスを利用しませんか」「うちの会社のサービスに乗り換えませんか」「他の会社よりも価格、取引条件を有利にします」などと勧誘することはありうるので、そのすべてが「取引を不当に妨害」したことにはなりません。

わかりやすい例で言えば、

  • タクシー会社がライバルのタクシー会社のタクシーの前に立ちはだかって待機場を使わせない物理的妨害(神鉄タクシー事件 大阪高判2014年10月31日)
  • 並行輸入品を偽物扱いして吹聴したり、知的財産権侵害ではないのに侵害品であると吹聴したり、契約違反ではないのに契約違反であると吹聴したりする妨害(ワン・ブルー・エルエルシー事件 東京地判2015年2月18日、公正取引委員会2016年11月18日
  • ライバル会社の商品の買い占める妨害

などが「不当」な妨害です。

  • 従業員の大量引き抜き

も「不当」な妨害になる可能性があります

DeNAに対する排除措置命令(2011年6月9日)

公正取引委員会は、MCデータプラスがデータを元にサービスを利用するユーザーの囲い込み(他の事業者と取引させにくくする)を行ったことを「取引を不当に妨害」したと評価しました。

NHKの報道によると、公正取引委員会は「データ囲い込み行為について違反になることを示した前例のない事案だ。引き続きデジタル分野での妨害行為に対し、厳正かつ的確に対処する」とコメントしています。

データではありませんが、同じように囲い込みをしたケースとして、DeNAのケースがあります。

「Mobage(旧モバゲータウン)」を運営するDeNAが、特定のソーシャルゲーム提供事業者に対し、グリーが運営する「GREE」にソーシャルゲームを提供しないよう要請し、従わない場合には「Mobage」のサイトにソーシャルゲームへのリンクを掲載しないなどの妨害措置をとったのです。

公正取引委員会は「競争者に対する取引妨害」であるとして、DeNAに対し排除措置命令を行いました(2011年6月9日)。

当時、公正取引委員会の公表資料に掲載された概要図は下記のとおりです(現在は公正取引委員会のサイトには載っていません。国立国会図書館のアーカイブに載っています)。

MCデータプラスとDeNAとの違い

DeNAのケースでは、DeNAと取引しているソーシャルゲーム提供事業者が要請を断ったときに、ソーシャルゲームへのリンクをMobageに掲載しない(その結果、Mobageの利用者が当該ソーシャルゲームを見つけられない)という直接の妨害をしました。

これに対し、MCデータプラスの場合は、MCデータプラスのサービスを利用しているユーザーは、引き続きサービスを利用することはできます。

ユーザーが他のサービスに乗り換えるために必要な形式でのデータ出力を認めない、帳票の提供を認めない、約款どおりに禁止の案内を周知したということで、乗り換えにくくした(他の事業者との取引をしにくくした)ものです。

このうち、乗り換えるために必要な形式(例えば、CSVファイルなどの形式)でデータを出力を認めない点は、「端からCSVファイルでの出力に対応していない仕様である」とMCデータプラスが主張すれば、妨害ではなく、元からそういう仕様かと思えなくもありません。

他方で、元のデータはユーザーである会社の作業員の情報ですから、ユーザーがデータを出力した帳票を別の事業者に提供することまで禁止する権限がMCデータプラスにあるのかと言えば、ないような気もします。

約款に禁止事項として定めたとしても、本来はユーザーの持ち物であるデータの利用に制限を加えることは妨害のようにも思えます。

今後、取消訴訟と執行停止の裁判の中でどういう判断がされるのかが気になるところです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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