こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
2024年12月15日夜の日経電子版で「上場廃止最多の94社 東証企業が初の減少 新陳代謝進む」との記事が配信されていました。12月16日には、より詳細な記事も配信されていました(会員限定記事)。
「2024年に東京証券取引所で上場廃止する企業は前年比33社増の94社と、東証が大阪証券取引所と統合した13年以降で最多となる見通し。」であることと、上場廃止する際の手法、上場廃止した理由を解説した記事です。
率直に、上場廃止する企業が増えているのは、そりゃそうだろうな、との印象を受けました。
今回は、そうした印象を受けた理由について、です。
2024年に上場廃止した企業の理由
上場廃止の二大理由
日経の記事を参考にすると、2024年に上場廃止した企業の理由は、
- 経営の自由度を高めるため
- 株式の流動性が低いなどの理由で時価総額が低い企業が、他社や投資ファンドによって買収されて子会社化
の2つに分類・整理できます。
経営の自由度の足枷となる、上場会社を取り巻く環境
経営の自由度を高めるとは、取締役以下経営陣が不要な足枷なしに意思決定をして経営することができるという意味です。
ここ数年、アクティビストをはじめ機関投資家が上場会社に要請・要望する機会が増えてきました。
コーポレートガバナンス・コードでも「株主との対話」が求められています。
また、証券取引所は、投資家・株主の目線から、上場会社にROE、PBR1倍割れの改善を求めるなどの動きが見られます。
上場会社の役員の本音は・・
しかし、上場会社の役員からしたら、「売上・利益、株主への配当、株価・時価総額を上げなければいけないことなど言われなくてもわかっている」のが本音ではないかと思います。
また、会社の抜本的な改革をしている時には、売上・利益を犠牲にし、株主への配当、株価・時価総額が下がることもあるはずです。
特に、最近上場したばかりの伸び盛りのベンチャー企業であればともかく、長いこと上場している会社は、成長が鈍ることは当たり前ですし、また、売上・利益だけを追求するのではなく、会社の後ろ向きのことにも取り組むことは避けられません。
そうした会社の役員にとって、「誰よりもこの会社のことを理解しているのは我々である」との自負と、「短期的な目線で経営を語らずに、長期的な目線で語って欲しい」との想いもあるでしょう。
さらに、そうした会社は、知名度もあり、取引市場での地位も確立しており、上場していなくても資本調達はでき、本業である取引にも支障がないので、上場しているメリットも少ないかもしれません。
そうした場合には、上場し続けることは、開示のための手間や株主との対話など、むしろ経営にとってマイナスとさえ言えます。
そう考えると、上場廃止することを積極的に選択することも合点がいきます(戦略的非上場化・非公開化)。
以前に取り上げた大正製薬HDの上場廃止に関する記事でも、そうしたことを解説しました。
2025年は積極的に上場廃止する企業がさらに増えるのでは
上場会社に対する機関投資家らの要請・要望、証券取引所からの投資家・株主目線での要請、コーポレートガバナンス・コード、これは2025年以降も増えることはあっても減ることはないでしょう。
また、昨今は、企業の社会的責任(CSR)の延長として、ESG、SDGsなど営利社団法人である株式会社の本来あるべき姿とは相反する要請も強まっています。
そのため、アメリカでは、既に、反ESG、反SDGsの動きも見られています。
さらに、内閣府からは「男女共同参画の重点方針」として、2030年までの女性役員を1/3以上にする方針が示されています。
そうだとすると、上場企業を取り巻く環境は経営の自由度を低くする、特に、売上・利益を上げるという本質とは違う点に気を遣うべき項目がますます増えていくことが予想されます。
決して、企業の社会的責任(CSR)を無視していいとは言っていませんし、言うつもりもありませんが、あまり強調しすぎるのは経営の足枷になるだろうことは想像がつきます。
ただでさえ、日本の経済が停滞しているのに、さらに企業の成長の足枷になるような環境になっていくのであれば、上場しているメリットって何もないのではないような気がします。
そのため、経営の自由度を求める上場会社には、2025年以降、上場廃止を積極的に選択する企業がますます増えるのではないかと想像がつきます。
売上・利益、配当、株価・時価総額をあげることを求める投資家・株主に応えられる企業と、事細かな開示に応じる手間を惜しまない企業だけが上場を維持するほうが、投資家・株主にとっても、企業にとっても、お互いに幸せではないかと思います。
どうなるんでしょうかね。