サカイホールディングスの元代表取締役が連結子会社の取締役から解任されたことに「正当な理由」がないとして損害賠償を請求した訴訟を一部認容する控訴審判決。取締役解任の「正当な理由」とは。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

サカイホールディングスの連結子会社の取締役からの解任

2024年11月18日、サカイホールディングスは、同社元代表取締役兼連結子会社元取締役1名が、連結子会社の取締役から解任されたことに「正当な理由」がないとして2100万円の損害賠償を請求した事件の11月15日付け控訴審判決(名古屋高判2024年11月15日)で、元取締役の請求が一部認容されたことを明らかにしました。

サカイホールディングスは、11月27日付けで上告提起・上告受理を申立てています。

なお、一審(名古屋地判2023年12月25日)ではサカイホールディングスが勝訴していました。

本日(2024年12月3日)現在、判決文はまだ公開されていないので裁判所の判断の全容はわかりませんが、11月18日付け開示に、

控訴人(※元取締役)の個人的費用の付替え及び付替え企図による忠実義務違反行為の事実は認められるものの、当社連結子会社の役員解任について会社法が規定する「正当な理由」には相当しないとして、第一審判決を取消し控訴人の請求を一部認容する旨の判決

とあるとおり、元取締役の忠実義務違反は認めつつ、当該義務違反行為は取締役解任の「正当な理由」に該当しない、と判断されたようです。

取締役解任の「正当な理由」

ここから先は一般論です。

取締役の解任と「正当な理由」の関係

そもそも、取締役は、任期中、いつでも株主総会決議によって解任することができます。

従業員と違って、解雇権濫用法理のような解任を制限する定めはありません。

その代わり、取締役は解任に「正当な理由」がない場合には、会社に損害賠償請求をすることができます。

具体的には、解任されなかったらもらえたであろう残任期の報酬相当額を請求できます。

取締役以外の監査役や会計監査人も同じです。

過去には、通常の役員報酬以外に、支給例、内規から支払いを受ける可能性が高いときに、賞与、退職慰労金を請求することを認めた裁判例もあります(神戸地判1979年7月27日、東京地判1982年12月23日、東京地判2017年1月26日)。

取締役解任の「正当な理由」とは

そうすると、会社にとっても、取締役にとっても、解任に「正当な理由」があるかどうかは重大事です。

特に最近では、子会社に対するグループガバナンスの観点から、完全子会社の取締役を完全親会社が解任するケースも起きています。

グループガバナンスの観点から子会社の取締役から解任したはずなのに、その後、解任した取締役から損害賠償を請求され、その請求が認められてお金を支払うことになってしまったのでは、解任した意味が薄れてしまいます。

では、「正当な理由」とは具体的に何を言うのでしょうか。

過去の裁判例では、

  • 病気で職務を続けられないこと(最判1982年1月21日)
  • 法令違反または不適正な職務執行をしたこと(東京地判2018年3月29日)
  • 経営能力がないこと(横浜地判2012年7月20日)

が「正当な理由」として認められています。

他方で、

  • 他の取締役・経営陣と折り合いが会わなくなった(東京地判1982年12月23日)
  • 大株主の信頼を失った(東京地判2015年6月22日)

は「正当な理由」が否定されました。

サカイホールディングスの控訴審判決は、忠実義務違反を認めつつも、「正当な理由」に当たらないと判断したようなので、どのように理解したら良いのか不思議です(早く判決全文を見たいです)。

Shinwa Auction 事件(一審;東京地判2022年2月8日、控訴審;東京高判2022年9月7日)

取締役からの解任の「正当な理由」の有無を争った比較的新しいケースとして、Shinwa Auction 事件があります。

Shinwa Auction は、Shinwa Wise Holdings の完全子会社として2017年8月に設立された、美術品のオークション事業を営む会社です。

設立時以来の代表取締役兼取締役であったXが、2020年4月1日に取締役から解任されたため、残任期16か月と30日分の報酬相当額を損害賠償請求しました。

Shinwa Auction は、Xが保守的な経営を加速化させて業績を下降させ続けたことなどを解任の「正当な理由」としてと主張しました。

これに対し、裁判所は、営業成績の悪化は、Xの経営方針や経営能力に起因するとはいえない等として、解任の「正当な理由」を否定し、Xの請求を認容しました。

この判決の内容を見ると、在任期間中に営業成績が悪化しただけでは取締役から解任する「正当な理由」にはならず、取締役の経営方針や経営能力に起因して営業成績が悪化していないと「正当な理由」として認められないことに留意してください。

また、Shinwa Auction は、Xが親会社 Shinwa Wise Holdings の取締役も兼任していたことから、親会社の取締役として不適格であるから Shinwa Auction の取締役としても不適格であるとも主張しました。

この点についても、裁判所は、同一の企業グループに属する親会社とその完全子会社という関係にあるとはいえ、両社は別の会社であり、持株会社である Shinwa Wise Holdings とオークション事業を行うShinwa Auction とでは取締役としての職務内容等に差異があるとして、「正当な理由」を否定しました。

法律上は、親会社の取締役の適格性と子会社の取締役の適格性は別に判断しなければならないことにも留意が必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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