UNIQLOを展開するファーストリテイリングの柳井会長が新疆綿を使用していないことを明言し、中国で不買運動に発展。「ビジネスと人権」を踏まえた今後の会社のあるべき対応。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

UNIQLOを展開するファーストリテイリング(以下、ユニクロ)の柳井会長が、英BBCのインタビューで新疆ウイグル自治区産の新疆綿を使用していないと認めたことが、中国での不買運動に発展しています。

新疆ウイグル自治区の問題と、アパレル企業に対する過去の不買運動

2021年には、H&MやNIKEが新疆ウイグル自治区でウイグル族が強制労働をさせられていることについて懸念を表明した際にも中国国内で不買運動が拡大したことがあります。

この不買運動は、2021年3月22日に、EU、イギリス、アメリカ、カナダが、ウイグル族への人権侵害を理由に中国に制裁を発動したことをきっかけに始まりました。

こうした前例を見ると、今回の柳井会長の発言をきっかけに、中国での不買運動に発展したことは、ある程度予期できるものだったと言えましょう。

ユニクロと新疆ウイグル自治区産の新疆綿の関係

そもそも、なぜ柳井会長が新疆綿について言及したのかというと、ユニクロが、2021年1月に、綿製シャツ製品をアメリカに輸入しようとしたところ、アメリカ税関・国境警備局(CBP)によって、中国共産党の傘下組織で、綿花の主要生産団体である「新疆生産建設兵団(XPCC)」が関わった綿が使われている疑いがあるとして輸入を差し止められた過去があるから、と推察できます。

ユニクロは、当時、製品の原材料の原産地証明書類や、製品の紡績から縫製にいたる生産工程の情報などを提示し、サプライチェーン(生産過程)において強制労働の事実はなく、製品の輸入に問題がないことを説明したものの、アメリカ税関・国境警備局にこれを認めてもらえなかったのです。

こうした背景もあって、ユニクロは、輸入差し止めから約4年が経過した現在も、新疆ウイグル自治区産の新疆綿を使用していないことを対外的に繰り返し説明しなければならないと認識して対応しているのではないでしょうか。

サプライチェーン等における「ビジネスと人権」とは

「ビジネスと人権」の概要

ユニクロ、H&M、NIKEが新疆綿について言及し、欧米各国が中国に制裁を課した背景にあるのが、サプライチェーン等における「ビジネスと人権」の考えです。

簡単に言えば、

  • ビジネスにおいて自ら人権侵害をしないこと
  • 取引先等による人権侵害を助長・促進しないこと
  • そのために方針を策定・公表するなどの取り組みをすること

です。

日本国内でも2022年9月に政府から「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が公表され、2023年4月には経産省が実務参照資料等を公表しています。

特に、EUでは、今後、「ビジネスと人権」への対応が厳しくチェックされるようなので、積極的に取り組む必要があります。

カゴメが新疆ウイグル自治区のトマトの輸入・使用を停止

日本政府が人権尊重ガイドラインを公表するよりも早くに「ビジネスと人権」の動きを見せたのがカゴメです。

カゴメは、2021年4月14日には、中国の新疆ウイグル自治区で生産されたトマト加工品を製品に使うのを2021年中にやめることを明らかにしていました。

なお、この時も、中国は、反対声明を述べていました。

ジャニーズ事務所の問題への対応

最近、「ビジネスと人権」に基づく動きが目立ったのは、2023年に明らかになった旧ジャニーズ事務所による性加害問題への取引先の対応です。

旧ジャニーズ事務所において所属タレントへの性加害という人権侵害を行っていることが明らかになったにもかかわらず、同事務所が性加害の問題に向き合って対処する前に、同事務所所属のタレントをCM・広告に起用し続けることは、同事務所による性加害という人権侵害の助長・促進になるとの理屈から、複数の取引先が旧ジャニーズ事務所との取引を見直すことを公表しました。

この態度をわかりやすく公表していた企業として参考になるのは、住友金属鉱山の対応です。

住友金属鉱山は、「当社のグループ人権方針に則した対応」として、

  • ジャニーズ事務所へ「被害実態の徹底的な調査」「十分な救済措置の実施」「さらなる人権侵害の防止」を要請し、また、これらが実行されない場合は取引関係を維持できない旨を文書で伝え
  • 企業広告に関して、同事務所所属の俳優の起用を直ちに取りやめる予定は現時点ではございませんが、今後の同事務所の対応を見極め、人権侵害の是正や救済に取り組んでいく

姿勢を明らかにしました。

こうした対応例をみると、今は「ビジネスと人権」の観点から、取引先で人権侵害を行われているおそれがあるときには、その助長・促進にならないように取引先に対して文書で人権侵害を止めるように申し入れをしていく時代になったと、各企業は、認識をアップデートしていく必要があります。

さらに言えば、「取引関係を維持できない」と文書で伝える以上は、会社で日頃から使用している基本契約書のひな型の約定解除事由に「人権侵害をしている、または取引先の人権侵害を助長もしくは促進等しているおそれがあること」を追加するのが、より時代に即するのではないかと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

error: 右クリックは利用できません