東京衝機の元取締役が、子会社社長の地位を利用して外注先を介して費用の水増し・キックバックを行っていたとして特別背任により逮捕。発生原因を踏まえた再発防止策の秀逸さについて。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年11月14日、東京衝機は、元取締役が会社法違反(特別背任)によって逮捕されたことを公表しました。

東京衝機元取締役による特別背任

元取締役による特別背任の詳細は、東京衝機が3月29日に公表した調査報告書(4月2日に一部訂正)にて説明されています(8頁以下)。

調査報告書によると、元取締役は、2016年10月から2023年4月にかけて、東京衝機の取締役の地位及び子会社である東京衝機エンジニアリングの代表取締役社長の地位(東京衝機エンジニアリングは2017年3月に会社分割により設立され当該取締役が代表取締役社長に就任した)を利用して、複数の外注先に対して製造委託料を水増しして支払い、外注先に指示して元取締役の妻が代表する会社に振り込ませるなどの方法で水増し分のキックバックを受けていました。

水増し分は年々微増し続け、その合計は、約2億5405万円(消費税相当額込)です。

特別背任の事実が判明したことを受け、東京衝機が神奈川県警に相談、被害申告した末、2024年5月下旬に刑事告訴したことが今回の逮捕のきっかけです。

逮捕の被疑事実が、このすべてなのか、一部だけなのかは不明です。

また、東京衝機は、元取締役に対する損害賠償請求も予定しているようです。

刑事告訴までした一連の厳しい対応は、東京衝機のガバナンスが効いていることの証です。

東京衝機が公表した再発防止策の秀逸さ

東京衝機の対応で今回秀逸だと感じたのは、2024年5月2日に公表された再発防止策の内容です。

再発防止策の概要は、以下の表のとおりです(公表資料された再発防止策からの引用)。

プロセスの列が再発防止策の見出しです。

この表だけを見ると、なんてことはない普通の再発防止策のようにも思えてしまいます。

しかし、東京衝機が公表した資料を見ると、この表の「プロセス」に挙げられている項目すべてが、「発生原因」を細部まで落とし込む形で詳細に分析し、その発生原因の細部に1:1で対応する形で考えられた策であることがわかります。

例えば、「職務/業務分掌の適切な見直し」に関して、「発生原因」は

今回発覚した不正行為は、外注(製造委託)に関してノウハウがあった元取締役に実質的な判断権限が集中し、外注先の選定や、発注から支払いに至る一連の業務は独断で行われ他の役職員に外注先と折衝することを認めず情報が独占された結果、元取締役と外注先の間のやり取りがブラックボックス化し、長期間継続する結果となりました。

と分析されています。

この分析内容は、

  • 実質的な判断権限の集中
  • 一連の業務が独断で行われたこと
  • 他の役職員に外注先との折衝することを認めず、情報が(元取締役に)独占されたこと
  • ブラックボックス化し、長期間継続した

に分けることができます。

これを踏まえて、再発防止策では、これらに呼応する形で(順番は前後しますが)、

  • 外注先との折衝には営業部の責任者のほか、2023年8月21日に新たに設置した製造部の責任者も関与する
  • 東京衝機エンジニアリングの代表取締役社長に親会社である東京衝機の代表取締役社長が就任し、かつ、大手製造会社出身で東京衝機の社外取締役が子会社の非業務執行取締役に就任することで、ブラックボックス化を解消する
  • 特定の役職員への業務の属人化には、グループ取引先審査規程を新設し、内部統制委員会のチェックポイントに業務の属人化を新たに追加し、管理部門による都度チェックの運用、内部統制室が毎月1回の自主点検を促すなど
  • 属人化しやすい背景として東京衝機エンジニアリングが少人数の組織であることを踏まえ、人員補充する
  • 製造から販売までの一貫した業務プロセスを文書化し、複数の部門が関与する
  • 一定の規模の外注先との契約、発注数量・金額の決定等についての意思決定から執行に至るまでの一つの業務フローが1人で完結しないようにする

などが記載されています。

しかも、この再発防止策を(4)「外注先管理を中心とした取引先管理体制の整備・再構築」では、業務プロセス、契約書のひな型の条項の見直し、会社アカウント以外のメール(ex.G-mail)の利用制限など、より具体的に落とし込んでいます

再発防止策が非常に丁寧に考えられている印象を受け、また、抽象的な内容に終わらせずに現場で何をどう変えるのかというレベルで具体的に考えられている印象を受けます。

最近は再発防止策が一種のパターン化しつつあり、社長や取締役会がメッセージを発する、ガバナンス体制を強化する、現場でコンプライアンス教育を行うなんていう再発防止策セットのような水準に留まっているものが多いので、東京衝機のように、ここまで具体的に再発防止策を示している例は珍しいように思います。

それだけに本気であることが伝わります。

強いて言うなら、親会社と子会社の代表取締役社長が兼任になったことで社長に権限が集中しすぎるのではないか、社長の影響力が大きくなりすぎるのではないかは心配ですが、これは、社長に対する他の取締役や監査役によるガバナンスを効かせることでカバーできるように思います。

他社でも非常に参考になるケースではないでしょうか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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