ツルハホールディングスの執行役員兼子会社社長が酒気帯び運転を理由に解任。企業トップの資質・適格性の判断要素と広報での説明の工夫について。吉野家HDやオリンパスの例を踏まえながら。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

ツルハホールディングスは、2024年11月14日、同社執行役員兼子会社レデイ薬局代表取締役社長を解任したことを公表しました。

企業トップの資質・適格性の判断要素と広報の説明の工夫

解任のきっかけになったのは、同社執行役員兼子会社代表取締役社長が11月6日深夜に酒気帯び運転により警察に検挙されたことです。

ツルハホールディングスは、解任の理由を「飲酒運転の厳罰化が進む中、コンプライアンス体制の確立を図り経営の透明化を進める当社グループの役員としてきわめて不適切であると判断」したと説明しています。

ポイントとして理解できるのは、「世の中の動きを意識できてること」と「会社の価値基準を社外に示すことができていること」の2点です。

詳しくは以下のとおりです。

世の中の動きを意識した部分

飲酒運転の厳罰化への言及

ツルハHDのリリースのポイントの1つは、「飲酒運転の厳罰化が進む中」と言及し、世の中の動きを意識している点です。

一昔前までは飲酒運転について社内で注意をしても、それに対して厳罰に処することはありませんでした。

しかし、2006年8月に発生した福岡海の中道大橋飲酒運転事故などをきっかけに、2007年には道交法が改正され、飲酒運転は厳罰化されました。

また、昨年発生したENEOS HD の例を見てわかるとおり、企業トップが酒で問題を起こしたことについて世の中の人たちは厳しい目で見ていますし、企業も厳しい姿勢で対処する傾向になってきました。

ツルハHDが「飲酒運転の厳罰化」に言及して解任したことは、こうした法改正や世の中の人たちの意識の変化を踏まえて企業トップの資質・適格性を判断し解任したものといえ、会社が世の中の動きをキャッチアップできていることが社外に伝わります。

吉野家HDのケース

2022年に吉野家HD執行役員兼吉野家常務取締役がジェンダーに問題のある発言で解任されたとき、吉野家HDが出したリリースは、同様に世の中の動きを意識していることをアピールするものでした。

リリースでは「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があった」と説明し、人権・ジェンダー問題が世の中で話題になっていることをキャッチアップできている企業姿勢を社外に示すものでした。

会社の価値基準を社外に示すことができた点

当社グループの役員としてきわめて不適切

ツルハHDのリリースのもう1つのポイントとは、「当社グループの役員としてきわめて不適切」と、会社の価値基準で企業トップの資質・適格性を判断したと対外的に説明できていることです。

決して世の中に迎合しているから解任したのではなく、価値基準が社内にある(自分軸での解任)という意味です。

リリースでは、なぜ当社グループの役員として極めて不適切と判断したかについて、「コンプライアンス体制の確立を図り経営の透明化を進める当社グループ」と説明しています。

この説明によって、ツルハHDグループがコンプライアンスに厳しい姿勢の企業グループであること、経営の透明化を図っていること(社内で公明正大にガバナンスが機能していること)を対外的にアピールすることができます。

別の言い方をすれば、ツルハHDグループは、コンプライアンスに厳しく、経営の透明化に同意できるもの(ガバナンスを機能させることに同意できるもの)のみを役員に選任していることのアピールになっています。

オリンパスの例

直近では、2024年10月28日に、オリンパスが、取締役代表執行役社長兼CEO(当時)が違法薬物を購入していたことを理由に退任しました。

オリンパスは、退任の理由について、「当社取締役会は、●●氏が当社の行動規範、コアバリューそして企業文化とは相容れない行為をしていた可能性が高いと全会一致で判断したことから、同氏に辞任するよう求めた」と説明しています。

これもまた、「当社の行動規範、コアバリューそして企業文化とは相容れない行為をしていた可能性が高い」との説明からわかるとおり、オリンパスの行動規範、コアバリュー、企業文化という独自の基準に照らして社長を選んでいる(自分軸で退任させた)ことのアピールに繋がっています。

オリンパスの場合には、2011年に過去の不正会計の問題を指摘した社長を解任したという前例もあったので、こうした自社の価値基準をアピールをすることによって、過去とは決別していることのメッセージも伝えられているのではないでしょうか。

以上のように企業トップの解任・退任の説明の仕方ひとつで、その会社が世の中の動きにどれだけ対応できているか、また、企業トップの資質・適格性をどのように判断しているかを社外にアピールできます。

広報担当者として参考にしたい事例です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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