KADOKAWAと子会社のKADOKAWA LifeDesign が下請事業者に対する発注単価を一方的に引き下げたこと等が下請法違反の「買いたたき」であるとして、公正取引委員会が勧告。取引価格を引き下げる際の留意点。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年11月12日、公正取引委員会は、

  • KADOKAWA(資本金406億円超)が、2023年1月、「原稿料改定のお知らせ」と題する文書を雑誌「レタスクラブ」の記事作成・写真撮影を委託している下請事業者(個人/資本金5000万円以下の法人)に通知し、発注単価を、下請事業者と十分に協議することなく、従前の単価から約6.3パーセント〜約39.4パーセント引き下げることを一方的に決定し、2023年4月発売号以降のレタスクラブの業務に適用したこと
  • KADOKAWAの子会社KADOKAWA LifeDesign が、2024年4月1日にKADOKAWAからレタスクラブの事業を承継し、下請事業者21名に、KADOKAWAが一方的に決定した単価をそのまま適用したこと

が下請法違反の「買いたたき」に該当するとして、下請法に基づく勧告をしました。

具体的には、発注単価を引き下げた2023年1月まで遡って引き上げることなどを勧告しました。

下記概要図は、公正取引委員会の公表資料からの引用です。

「減額」と「買いたたき」の違い

下請法違反となる行為には「買いたたき」と似たものとして「減額」があります。

「減額」は、下請事業者に帰責事由がないのに、契約書等であらかじめ定めた下請代金(取引価格)を親事業者が支払わない場合です。

協賛金などの名目で減額する場合が典型です。

これに対し、「買いたたき」は、これから下請代金を決めようとする場合に親事業者が通常対価に比べて著しく安い額にしようとする行為です。

下請事業者が労務費、原材料価格、エネルギーコスト等の上昇を理由に値上げ要請してきた場合に、これを拒絶することが「買いたたき」に当たるおそれがあります。

今回、KADOKAWAは、これから発注する2023年4月以降のレタスクラブの記事作成・写真撮影の業務について、下請事業者に、「原稿料改定のお知らせ」と題する文書で通知し、十分な協議をすることなく、一方的に引き下げることを決定したので、「買いたたき」と判断されました。

なお、下請法が適用されない取引でも、「減額」「買いたたき」は、独禁法の優越的地位の濫用のおそれがあります。

取引価格を一方的に引き下げる場合、すべて「買いたたき」になるのか?

それでは、発注者が取引価格を一方的に引き下げる場合、すべてが「買いたたき」となり、下請法違反/優越的地位の濫用になってしまうのでしょうか?

この点を考えるにあたって参考になるのが、公正取引委員会の「優越的地位の濫用ガイドライン」です。

独禁法の優越的地位の濫用を前提としたガイドラインですが、下請法違反の「買いたたき」にあたるかどうかも同様に考えて良いと思います。

優越的地位の濫用ガイドラインの基準

優越的地位の濫用ガイドライン第4.3(5)アは、「取引の対価の一方的決定」について、以下のように基準を示しています。

(ア)取引上の地位が相手方に優越している事業者が,取引の相手方に対し,一方的に,著しく低い対価又は著しく高い対価での取引を要請する場合であって,当該取引の相手方が,今後の取引に与える影響等を懸念して当該要請を受け入れざるを得ない場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり,優越的地位の濫用として問題となる。

この判断に当たっては,対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法のほか,他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか,取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか,通常の購入価格又は販売価格との乖離かいりの状況,取引の対象となる商品又は役務の需給関係等を勘案して総合的に判断する。

ポイントは、発注者/親事業者が一方的に取引価格を要請した場合、相手方である受注者/下請事業者が、今後の取引に与える影響等を懸念してその要請を受け入れざるを得なかったかどうか、です。

受注者/下請事業者が発注者/親事業者からの要請を受け入れざるを得なかったかどうかは、次の要素を考慮して判断されます(この要素に限定されるわけではありません)。

  • 対価の決定に当たり取引の相手方と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法
  • 他の取引の相手方の対価と比べて差別的であるかどうか
  • 取引の相手方の仕入価格を下回るものであるかどうか
  • 通常の購入価格又は販売価格との乖離かいりの状況
  • 取引の対象となる商品又は役務の需給関係等

優越的地位にあるかどうかの判断要素でもある両社の会社の規模(資本金)、市場での地位、取引依存度なども、要請を受け入れざるを得なかったかどうかを判断する際に考慮されると思います。

減額要請の適法性が争われた判例(東京高決2010年9月1日。原審東京地決2010年6月18日)

上記の要素に照らして、発注者による取引価格の減額要請が独禁法違反に当たるかどうかが争われた事例として、東京高決2010年9月1日があります。

計測機器等を製造、販売するY社が、電子機器部品を製造、販売するX社に、取引に係る報酬を1時間当たり2400円から1600円に引き下げることを要請したところ、X社が減額要請を拒絶したために、Y社がその後の取引を拒絶しました。

そこで、X社が、減額要請が不当な減額要請、取引拒絶が単独の取引拒絶に当たるとして、従前のとおりに発注することを求める仮処分を申し立てた、という事例です。

裁判所は、以下のような事実を挙げて、Y社からの減額要請は不当ではなく、不当な取引拒絶にも当たらないとして、X社の請求を棄却しました(抗告棄却)。

  • コストダウンの目的で計測機器等の製造を中国への移管を検討していたY社が、国内での製造委託を継続することが可能であるか否かを検討するために、X社に大幅なコストダウンを求めることは不合理ではない
  • Y社がX社に提示した減額要請に係る取引条件が他の業者との取引条件との比較で不当に不利益な条件であるとの疎明がない(証拠がない)
  • X社とY社は数度にわたって交渉し、Y社は最終的に6か月の猶予期間をおいて取引拒絶に至った
  • Y社は取引拒絶に際し、金銭補償として1500万円を支払った
  • Y社の説明によって、X社も、製造業者として、製造単価水準によってはコストダウンのため中国等海外への製造部門の移転が必要となり得ることは認識できた

高裁決定が示した上記要素を見ると、発注者/親事業者が減額を要請する場合には、受注者/下請事業者と協議する形式的なアリバイを作るだけでは許されず、発注者/親事業者が減額を要請する合理性、協議の回数、協議内で減額を必要とする事情について説明しているかなど、実のある協議をする必要があることがわかります。

なお、6か月の猶予期間をおいて取引拒絶に至った、金銭補償として1500万円支払った事情は、減額要請の不当性を判断する要素というよりは、取引拒絶の正当性を判断する要素であるように思います。

その他減額を要請することが違法ではない場合

その他、優越的地位の濫用ガイドライン第4.3(5)アは、以下の場合にも、取引価格を一方的に決定したり、減額要請することが優越的地位の濫用には当たらないと示しています。

(イ)他方,①要請のあった対価で取引を行おうとする同業者が他に存在すること等を理由として,低い対価又は高い対価で取引するように要請することが,対価に係る交渉の一環として行われるものであって,その額が需給関係を反映したものであると認められる場合,②ある品目について,セール等を行うために通常よりも大量に仕入れる目的で,通常の購入価格よりも低い価格で購入する場合(いわゆるボリュームディスカウント)など取引条件の違いを正当に反映したものであると認められる場合には,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとならず,優越的地位の濫用の問題とはならない。

発注者/親事業者が減額を要請する場合には、この(イ)①②の事情があるかどうかを判断し、それがなければ、(ア)に挙がっている要素を意識して、受注者/下請事業者と実のある協議を繰り返す必要があると理解してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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