こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
2024年11月13日、消費者庁は、大正製薬に対してステルスマーケティングを理由に措置命令を発しました。
2023年10月1日にステルスマーケティングの運用基準が適用されてから、3例目です。
初めての例、2例目も、以前に紹介しました。
ステルスマーケティングと判断された表示
大正製薬は、2024年4月3日、4月19日から5月22日までの間、直販サイトの大正製薬ダイレクトオンラインショップでサプリメント「NMN taisho」を販売するに当たって、「Instagramで注目度上昇中」と表示し、Instagramに投稿されたお客さまの声を掲載していました。
以下は、消費者庁の公表資料からの引用です。
掲載されたInstagramの投稿は、大正製薬が商品を無償提供し、かつ対価を提供することを条件として投稿を依頼したものでした。
しかし、大正製薬の直販サイトの表示からは、大正製薬が商品を無償提供・対価提供を提供することを条件として投稿を依頼したものであることが明らかになっていなかったことから、ステルスマーケティングと判断されました。
※2024年11月18日追記
大正製薬のサイトに「消費者庁による措置命令について」として、今回ステルスマーケティングと判断された直販サイトの表示をした経緯と、その引用元になったInstagramの投稿とを比較する写真が掲載されていました。
これを見ると、Instagramに投稿した写真に添えられた言葉(文章)を抜き出して引用する形で直販サイトの表示をしたことがわかります。
これでもステルスマーケティングと判断されてしまうことは、他社も今後の参考にすべきです。
投稿内容について明示的な依頼・指示をしていなくてもステルスマーケティングは成立する
公表資料によると、消費者庁は、大正製薬が「商品の無償提供及び対価提供を条件に・・投稿を依頼した」ことと、「第三者が投稿した表示について、大正製薬が当該第三者に対して依頼した投稿であることを明らかにしておらず」ことを条件に、ステルスマーケティングと判断しました。
ステルスマーケティングが初めて認められた、Googleマップの口コミのケースでは、医療法人がインフルエンザワクチンの接種費用を割り引くことを条件に「★★★★★」または「★★★★」を投稿するよう依頼していました。
これに対して、大正製薬は、お客さまがInstagramに投稿する内容についてまで指示したわけではないから、ステルスマーケティングではないようにも思えます。
しかし、ステルスマーケティングの運用基準では、
事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の表示となる。
として、表示内容を明示的に依頼・指示していない場合でもステルスマーケティングが成立する余地があることを示しています。
具体的には、以下の事情等を総合的に考慮して、第三者(お客さま)が自主的な意思で内容を表示したとは認められない場合には、ステルスマーケティングと判断されます。
- 事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)
- 事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容
- その主な提供理由(例えば、宣伝する目的であるかどうか。)
- 事業者と第三者の関係性の状況(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。)
大正製薬のケースでは、商品の無償提供と対価の提供がInstagramへの投稿の条件となっていたために、消費者庁は、商品を無償提供し対価を支払っているのは宣伝目的であり、お客さまがInstagramに投稿した内容は自主的な意思によるものではないと判断したのでしょう。
2例目のchocoZAPのケースと同じです。
お客さまがSNSに投稿した内容を広告として利用する場合の留意点
自社商品やサービスを無償提供し対価も支払ったお客さまがSNSに投稿した内容を、自社広告に「お客さまの声」などとして表示する場合には、「※お客さまには弊社の商品・サービスを無償でご利用いただき、謝礼をお支払いしております」などと注記を、しかも、目立つように表示するようにしてください。
お客さまに対価を支払ったことを広告上明らかにしたくないのであれば、お客さまにはInstagramなどSNSに投稿する際に「#PR」や「広告・宣伝です」などと必ず注記してもらうようにし、その投稿を自社サイトに掲載(転載)する場合には、その注記部分まで含めて掲載(転載)するようにしなければなりません。
「広告なのに、そんな注記をするのはかっこ悪い」と言っていられない時代になっていることを理解してください。