フジテレビ新人アナウンサーに対する「いじり」動画が炎上。職場での「いじり」はパワハラになるのではないかの検証と、会社が行うべきだった対応。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年10月30日頃から、フジテレビの番組「めざましmedia」が7月にYoutubeちゃんねるにアップしていた「新人上垣皓太朗アナ『めざましどようび』お天気キャスターデビュー!」の動画が炎上しています。

フジテレビの上垣アナウンサーが「27時間テレビ」のTシャツを着てリポートしていたところ、西山喜久恵アナが「Tシャツが似合わない」、フリーアナの阿部華也子が「甚平とか似合いそう」、生田竜聖アナが「本当に23歳なんだよね」などと笑いながら(馬鹿にしながら?)言及したことに対し、「いじり」を超え「パワハラではないか」との批判が集まったのです。

これに対し、フジテレビは10月31日公式サイトに声明を発表しました。

そもそも「いじり」とは何か

今回のようなケースでは「いじり」という表現をよく見かけます。

そもそも「いじり」とは何なのでしょう?

ある論文では、「いじり」とは「与え手から受け手に対する、受け手に所在する特徴(外見、行動、名前など)に言及するかたちで実行される、遊戯的なオフレコード・マーカー(表情、声色など)を伴った行為」と定義されています。

「遊戯的」とあるように、遊び半分という要素が入っている点が特徴です。

今回のケースは、上垣アナウンサーがTシャツを着た外見に言及するかたちで、笑いながら発言しているので、「いじり」そのものと言って良いでしょう。

ちなみに、上記論文によると、「からかい」の定義は「遊戯的なオフレコード・マーカーを伴った挑発行為」として紹介されています。

遊戯的要素だけでなく「挑発」要素が入っているのが「からかい」の特徴です。

職場での「いじり」は「パワーハラスメント」になるのではないか

アナウンサーも一従業員、フリーアナウンサーは業務委託先(取引先)

問題は、今回の上垣アナウンサーに対する言動を、単なる「いじり」という理解に留めていいか、それともパワーハラスメントとして認識し、当事者も会社も然るべき対応を取るべきなのか、です。

西山喜久恵アナと生田竜聖アナはフジテレビの従業員ですから、上垣アナに対する言動は社内の従業員同士の言動であり、パワーハラスメントに当たるなら然るべき処分があってもおかしくありません。

阿部華也子フリーアナウンサーは、外部の業務委託先(取引先であるセント・フォース)の一員です。

取引先から自社の従業員によるパワーハラスメントということであれば、フジテレビからフリーアナウンサーが所属するセント・フォースに対する然るべき対応も必要となるはずです。

パワーハラスメントの定義に照らすと・・

パワーハラスメントは、労働施策総合推進法では、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義され、また、「労働者の就業環境が害される」効果をもたらすものです。

「いじり」の言動が、このパワーハラスメントの定義に該当すれば、当事者が「いじり」と思っていても、それはパワーハラスメントであり人格権を侵害する違法な行為です。

今回は、フジテレビの番組「めざましmedia」内で行われた言動なので、アナウンサーにとっての「職場」そのものです。

次いで、「優越的な関係」にあたるかどうかですが、これは上司・部下の関係だけではなく、先輩・後輩、知識・経験のある者と無い者という関係も「優越的な関係」も含まれます。

西山喜久恵アナは、アナウンス室局次長を経て、今年7月からゼネラルアナウンサーに昇格しています(2024年6月24日付け日刊スポーツ)。

生田竜聖アナは、アナウンス室所属のアナウンサー(平社員)ですが、2011年に入社した36歳の先輩社員です。

阿部華也子フリーアナは、取引先であるセント・フォースの所属ですが、2016年からめざましテレビのお天気キャスターを担当し、番組内では先輩、経験値のある者と言って良いでしょう。

そうすると、西山アナは上司、生田アナは先輩、阿部華也子フリーアナは先輩あるいは経験がある者ということで、三者とも上垣アナとは「優越的な関係」です。

問題は「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」かどうかです。

テレビ番組と一般的な事業会社との違いは、テレビ番組は視聴者のために番組を盛り上げる必要がある、エンターテインメントの要素が必要とされることです。

ニュース番組だったら遊び半分の要素は必要ありませんが、それ以外の番組では、どうしても、「いじり」の定義で含まれる、遊び半分の要素がどうしても必要となってきます。

そうすると、西山アナ、生田アナ、阿部フリーアナといった上司や先輩らによる言動が「いじり」として「業務上必要」がないとは言い切れません。

(とはいえ、外見に対する「いじり」をしなければ、番組を盛り上げられないとはレベル低いですね・・)

しかし、どんなに「業務上必要」だったとしても「相当な範囲を超えた」場合には、違法なパワハラです。

現在、世の中では「ルッキズム」として、外見を重視する考え方が批判されています。

特に、多様性が重視されている昨今では、他人の「外見を否定」する言動は、人の価値を単純化してしまう(外見だけが評価されることに繋がる)、外見の多様性を否定する、差別を生むなどの理由で批判されるようになってきました。

そうすると、西山アナ、生田アナ、阿部フリーアナが「Tシャツが似合わない」「甚平とか似合いそう」「本当に23歳なんだよね」などと、上垣アナの「外見を否定」した言動は、ルッキズムの観点から批判されて然るべきということになります。

また、西山アナ、生田アナ、阿部フリーアナの上垣アナに対する言動は、「めざましmedia」というフジテレビの番組にて行われたもので、視聴者を前にして行われたものです。

公然と、衆人環視のもとで上垣アナの外見を否定したのです。

日頃、多様性を大事などと報じているメディアがそれに反した言動を行っている点からも、到底「相当な範囲」に留まっているとは言えません。

となると、今回の三者の言動は「いじり」に留まらず「パワーハラスメント」に当たると考えるのが筋である気がします。

会社の然るべき対応

対外的な広報

フジテレビは「めざましmedia」の公式サイトに声明を発表しましたが、その内容は、謝罪するものでもなく、パワハラとの認識もなく、動画を公開した経緯と今後のコンテンツ制作への留意を述べただけで、世の中の一般的な事業会社でのハラスメントに対する意識にはほど遠いレベルの内容です。

フジテレビのコンプライアンスやハラスメントに対する意識の低さを感じます。

本来であれば、公然とパワーハラスメントを行ったのですから、その点について問題意識が低かったことを自省する言葉はあるべきでした。

社内の対応

今回のケースは、上司、先輩、取引先による新入社員に対するパワーハラスメントと整理できます。

そうだとすれば、本来なら、社内では上司である西山アナ、先輩である生田アナに然るべき人事上の対応をし、かつ、阿部フリーアナが所属する取引先(業務委託先)のセント・フォースに対してもフジテレビとして然るべき対応をしなければならないはずです。

最低限、「うちの従業員に対するパワーハラスメントをするのは控えて欲しい」と、自社の新入社員を守る行動を取る必要はあるのではないでしょうか。

以前にも紹介した百十四銀行のケースが参考になります。

2018年2月、百十四銀行の会長(当時)が取引先との会食の際、担当ではない20代女性社員を会合の途中で呼び同席させた際に、取引先によるハラスメント行為があったにもかかわらず、会長、同席していた執行役員と営業部長がそれを止めなかった、というケースです。

このケースでは、2018年6月に会長、執行役員、営業部長の報酬・賞与の減額処分を取締役会で決したものの、その後、社外取締役による指摘できちんと調査をした結果、取締役懲戒事由に該当することが明らかになったので、最終的には、10月に会長は辞任し、かつ、報酬・賞与の減額処分を6月に決議をした取締役7人(ハラスメントの場に出席していた取締役ではなく、6月に処分決議を行った取締役)も報酬・賞与の減額処分を受けました。

詳しくは、以前の記事にて解説しています。

この百十四銀行のケースを参考にすれば、今回のケースは、社内の上司である西山アナ、先輩である生田アナは自らパワーハラスメントしていただけではなく、取引先の阿部フリーアナによる新入社員に対するハラスメントを止めなかったとも言えるので、この観点からも然るべき人事上の対応が必要となるです。

今後のフジテレビの対応で、フジテレビの問題意識がどのくらいなのかがわかると思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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