レプリコンワクチンの安全性・倫理性に懸念を表明した日本看護倫理学会に対し、Meiji Seika ファルマが反論を公表するなど多様な情報発信。危機管理広報の観点から分析する。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年10月9日、明治グループのMeiji Seika ファルマは「日本看護倫理学会の声明文に対する当社の見解」と題する反論文を自社サイトに掲載しました。

これは、日本看護倫理学会が、2024年8月8日に「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」と題する緊急声明を発表し、Meiji Seika ファルマが製造・販売する自己増殖型mRNAワクチン(レプリコンワクチン)の安全性と倫理性に異を唱えたことに対する反論です。

今回は、レプリコンワクチンに関するMeiji Seika ファルマの一連の対応について、危機管理広報の観点から見ていきます。

そもそも「レプリコンワクチン」に関して何が起きているのか?

まず前提として何が問題になっているか、背景事情を確認します。

2024年10月1日から高齢者を対象とする新型コロナの予防接種に、メッセンジャーRNA(mRNA)が細胞内で複製される自己増殖型mRNAワクチン「レプリコンワクチン」が新たに加わりました。

このレプリコンワクチンを製造しているのが Meiji Seika ファルマです。

このレプリコンワクチンの定期接種に先立って、日本看護倫理学会が2024年8月8日に上記の「新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」と題する緊急声明を発表し、レプリコンワクチンの安全性や倫理性に異議を唱えました。

これがSNSなどを介して拡散され、ホットヨガスタジオを展開するLAVAのように、レプリコンワクチンを接種した者の利用を拒否する企業まで現れたのです。

以下は、LAVAのサイトのスクショです。

このように、SNSを介して、あたかもレプリコンワクチンは安全性に問題のあるワクチンであるかのように多くの人たちに伝播していきました。

Meiji Seika ファルマの広報対応

こうした事態を受け、Meiji Seika ファルマは、レプリコンワクチンの安全性や倫理性に問題がないことを世の中に知らしめるべく広報活動に力を入れるようになりました。

日本看護倫理学会などに対する対応と反応

2024年9月25日に開いた新型コロナの次世代mRNAワクチン・コスタイベの記者説明会では、社長自ら日本看護倫理学会の声明の内容には誤解に基づく記述や非科学的な内容が散見されると指摘するなど安全性や倫理性に関する懸念を否定しました。

Meiji Seika ファルマの社長は、10月8日には、ワクチンを開発したアメリカのアークトゥルス・セラピューティクスとワクチンの販売で提携するオーストラリアのCSLグループとともに記者会見を行い、批判を繰り返す団体を名誉毀損で提訴する意向を示しました。

これらを経て、10月9日、Meiji Seika ファルマは「日本看護倫理学会の声明文に対する当社の見解」と題する反論文を自社サイトに掲載しました。

その中で、日本看護倫理学会の緊急声明が、事実誤認または科学的知見に基づかない問題提起であることなどを詳細に反論しました。

A4で3頁ほどですが、反論文として充実した内容でした。

また、世の中の人たちが読んだときに非常に理解しやすい内容でもありました。

Meiji Seika ファルマの一連の動きに対して、日本看護倫理学会は、10月7日に「緊急声明に関するご報告」と題する文書を公開して8月8日に公開した緊急声明の意図について「この声明は、次世代型 mRNA ワクチンに対して、倫理的観点から国民が自律的に判断できるよう、リスクを含む十分な情報提供を求めるとともに、看護職を含む医療従事者への接種勧奨や同調圧力を防ぐことを目的としております。」などと弁明し、かつ、「緊急声明に関する注意喚起とロゴの無断使用について」と題する文書を公開して8月8日に公開した緊急声明の拡散に対して注意喚起しました。さらに、10月10日までにXの公式アカウントでの過去のポストをすべて削除しました。

事実誤認や科学的知見に基づきない問題提起の発信源である日本看護倫理学会に、次なる情報発信を止めさせたに等しいので(まだ緊急声明が掲載されたままなので、完全には止めたとまではいえませんが)、Meiji Seika ファルマとしては、広報を通じて強気な姿勢を示したことが一定の効果をもたらしたと言えます。

世の中の人たち向けの対応

同時に、Meiji Seika ファルマは、10月1日から、次世代mRNAワクチンに関する情報を提供するサイトを開設し、医療関係者と一般の世の中の人たちに向けて情報を発信し始めました。

レプリコンワクチンがなんだかわからない世の中の人たちや、医療関係者に必要な情報を提供することで、安心感を抱いてもらう、医療関係者にも納得してもらって医療現場での接種を妨げないようにすることを狙っていると理解してもいいかもしれません。

また、10月11日には、以下のように、

次世代mRNAワクチン(レプリコン)「コスタイベ筋注用」に対して、ソーシャルメディアなどで科学的根拠のない主張やデマの投稿が相次いでいます。今後は既存の当社ホームページに加え、X(旧Twitter)の公式アカウントにおいても情報発信に努めていきます

として、Xの公式アカウントを開設して、世の中の人たちにレプリコンワクチンの実情を知ってもらうための情報発信を開始することを明らかにしました(10月11日時点ではポストなし)。

こうして積極的に情報を発信をしていくことによって世の中の人たちの誤解を解いていくことは、レプリコンワクチンに対する信頼を取り戻すこと、レプリコンワクチンの接種に対して不安を抱えている高齢者の不安を取り除くことにも繋がります。

また、SNSで情報を発信することは、自社サイトに掲載するだけよりも情報が拡散しやすい面もあり、多くの人の目に触れることにもなりやすいでしょう。

こうした動きは、以前にも取り上げたALPS処理水に関する広報対応や福岡銀行の取り付け騒ぎに関する広報対応と狙いは同じと理解することができます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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