こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
2024年9月26日に、消費者庁は「No.1表示に関する実態調査報告書」を公表しました。
これまでも、2008年に公正取引委員会が公表した「No.1表示に関する実態調査報告書」が存在していました。
公正取引委員会による実態調査報告書との違いは、消費者庁の実態調査報告書は、「顧客満足度」「コスパが良いと思う」などと第三者の主観的評価を指標としている「No.1表示」と「高評価%表示」を対象としている点です。
第三者の主観的評価とは、商品の購入者、サービスの利用者など社外の人間の気持ち・感想による評価という意味です。客観的な事実によらない評価と言ってもいいでしょう。
高評価%表示とは、「専門家の○%が推奨」「〜の○%が利用したい」など、支持率が高いことを表示するものです。
本ブログで過去に取り上げたケースは、いずれとも第三者の主観的評価を指標としている「No.1表示」でした。
No.1表示として使用されることが多いフレーズ
消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書(5頁に掲載されている図)によると、第三者の主観的評価を指標としているNo.1表示として使用されることが多いフレーズは、以下に引用したとおりです。
この図表のとおり、第三者の主観的評価を指標としている表示は、単なる「No.1表示」だけではなく「高評価%表示」も含まれます。
広告主が「第三者の主観的評価を指標とする」表示をする際のポイント
以下では、第三者の主観的評価を指標とした表示を「No.1表示」と「高評価%表示」とにわけて、広告主が気をつけるべきポイントを説明します。
第三者の主観的評価を指標としているNo.1表示
No.1表示が景品表示法の優良誤認表示にならないようにするための一般的なポイントは、以前に「オンライン家庭教師」の広告を取り上げた際に詳しく解説しましたので、そちらを確認してください。
消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書では、第三者の主観的評価を指標としているNo.1表示では、さらに、以下のような注意点が記載されています(実態調査報告書18頁〜19頁)。
当該表示で示されている調査内容とは異なり、No.1 表示の対象商品等を利用したことがない者を調査対象者としたり、利用経験の有無を確認することなく調査対象者を選定している場合は、当該表示は合理的な根拠に基づいているとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがある。
例えば、広告主に対するヒアリング調査の結果、「満足度 No.1」を訴求する表示の根拠としてイメージ調査のみが実施されているケースが見られたが・・、当該表示は、景品表示法上問題となるおそれがある。
さらに、サンプリング調査では、次のような注記をしている例が見られたが、これらの注記があったとしても、「顧客満足度 No.1」という表示内容と調査結果が適切に対応していないことに変わりはなく、景品表示法上問題となるおそれがある。
<注記の例>
① サイトイメージ調査
② 本調査はサイトのイメージをもとにアンケートを実施しています。
③ 本ブランドの利用有無は聴取していません。
ここから読み取れるのは、
- No.1表示の調査対象者は、商品やサービスの利用経験者に限られなければならない
- サンプリング調査の場合に、注記をしたとしても優良誤認表示になるおそれがある
という点です。
実際のところ、広告主が自ら調査を行うことは少ないと思います。
多くの場合が、調査会社に依頼して、調査会社による調査結果を提供されて、No.1表示をしているはずです。
上記の消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書の記載を踏まえると、広告主は、
- 調査会社に依頼する際に、自社の商品を購入した/実際にサービスを利用したことがある人だけを調査対象者に限定するように事前に念を押すこと
- 場合によっては調査会社に自社の商品の購入者リスト、サービスの利用者リストを提供して、購入者・利用者にヒアリングするなどの方法で調査するよう事前に念を押すこと
- 調査会社から調査結果を提供された際に、調査の方法(サンプリング調査や購入・利用の見込み客を調査対象とするものではないこと)を確認すること
が必要であると言えます。
調査方法について尋ねても答えてくれない調査会社には調査を委託してはならないことも覚悟しておく必要があります。
また、消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書20頁以下では、サンプリング調査に関して、
消費者の意識調査の結果から明らかなとおり、「~したい」、「~と思う」等のフレーズを用いた No.1 表示であっても、表示の内容によっては、実際の利用者に調査をした結果、第1位であったかのように示す表示に当たる場合があると考えられるため、景品表示法上、留意が必要である。
との留意点も示しています。
すなわち、「〜したい」「〜と思う」のようなフレーズを用いたとしても、景表法の優良誤認表示の規制を免れることはできない、ということです。
調査会社の意識が脱法的なものではなく、消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書が示した考え方に沿ってアップデートされているかは、今後、広告主が気をつける必要があります。
第三者の主観的評価を指標としている高評価%表示
消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書(23頁)では、第三者の主観的評価を指標としている高評価%表示について、以下のように留意点を示しています。
一定の有資格者や、専門家の主観的評価を訴求する高評価%表示の例としては、例えば、「医師の 90%が推奨する」といった、前記のような表示が挙げられる。
(中略)
したがって、前記のような表示を行いながら、実際に行われた調査が、例えば、次のようなものであった場合には、当該表示との関係で合理的な根拠があるとはいえず、景品表示法上問題となるおそれがある。
① 調査回答者が医師かどうかを自己申告により確認するだけで、医師であることを客観的に担保できていない場合
② 調査対象者である医師の専門分野(専門の診療科など)が、対象商品等を評価するに当たって必要な専門的知見と対応していない場合
③ 調査対象者である医師が、回答に際し、調査会社等から、対象商品等の品質・内容について合理的な根拠がない情報の提供を受けている場合(例えば、「△△試験の結果、この商品には○○の効果がある」、「この商品は安全性について○○の認定を受けている」等の情報が提供されているが、当該情報が事実と異なっていたり、効果等が客観的に実証されているとはいえない場合)
「医師」を例に取り上げている部分を引用しましたが、消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書は、医師に限らず一定の有資格者や専門家の主観的評価を指標としている高評価%表示すべてを対象に、景表法上の留意点を示しています。
ポイントは、①〜③に示されている3点です。
- 調査回答者が資格を有していることや専門家であることを調査会社が確認する必要があること
- 例えば、医師や歯科医師は厚労省の「医師等資格確認検索」、弁護士であれば日弁連の「弁護士検索」で有資格者であることを確認する必要がある、ということです。
- 調査対象者の専門分野が、対象商品等を評価するだけに必要な専門的知見を有していること
- 例えば、ワクチンの有効性については感染症や免疫学の専門家であるかなどを確認する必要がある、ということです。
- 調査対象者である有資格者や専門家が調査対象の商品やサービスについての先入観・予備知識なしに判断していること
- 例えば、どんな目的で開発された商品やサービスであるかは伝えたとしても、その商品やサービスの効果・効能に関する研究開発時のデータについては調査対象者には伝えない
ここでも、調査会社がどのように調査をしたのか、広告主は、調査会社から調査結果を提供されたときに確認をすることが必要です。
また、広告主は調査を依頼するときに、この商品・サービスを専門としている有資格者(登録が確認されている者)や専門家に、先入観や予備知識なしに判断してもらうように、と念を押すことが必要です。
今後のためにも、広告主は、消費者庁のNo.1表示に関する実態調査報告書に目を通しておくことをお勧めします。
特に、2023年の景品表示法改正によって優良誤認表示には刑事罰の直罰規制が設けられましたので、行政処分以外に刑事罰を受けないためにも注意しておく必要があります。