エフエム東京の代表取締役社長がパワハラ的不適切な言動を理由に辞意を表明。経営体制を変更するも取締役会長に選定。取締役相互のガバナンスが効いていると言えるのか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

エフエム東京は、2024年10月1日から経営体制を変更することを、9月26日に明らかにしました。

その理由は、2024年6月から8月にかけて、代表取締役社長(当時)の不適切な言動ついて複数の内部通報があり、常勤監査役が実態調査をした後、9月26日開催の取締役会で調査報告を行ったが、その前に社長が事実を認め代表職・社長職の辞意を表明したからです。

不適切な言動の内容については、「社長が大声によるどう喝などのパワハラを複数回行った」などと報じられています。

今回のケースで気になったのは、

  1. 監査役が内部調査の結果を取締役会に報告する前に代表取締役社長が辞職する意思を表明したため、取締役会で処分に関する決議を行っていないこと
  2. 代表取締役社長(当時)が辞意を表明した後、新体制では取締役会長に選定されていること

の2点です。

どちらにも共通する課題は、辞職する意思を表明した代表取締役会長に対して、他の取締役によるガバナンスが効いていると言えるのか?です。

取締役会に報告する前に代表取締役社長が辞職の意思を表明したこと

エフエム東京の代表取締役社長(当時)は、内部通報を受け調査を行った監査役が取締役会に報告する前に、事実を認め、代表・社長から辞職する意思を表明しました。

この結果、他の取締役は、代表取締役社長に対して、何らの処分決議を行っていません。

「代表職・社長職から退いたのだから、それで良いのではないか」との見方もないわけではありません。

しかし、監査役が取締役会に報告した時点で代表取締役社長に留まっていた場合、他の取締役は、代表取締役社長に対して、代表職・社長職からの解職決議だけに留まらず、取締役からの辞任勧告決議まで行っていたのではないでしょうか。

特に、取締役相互のガバナンスが強く求められる昨今、代表取締役社長がハラスメントをしたことには辞任勧告決議まで行われることが少なくありません。

2023年12月のENEOS HD の件は印象に残っている人が多いのではないでしょうか?

ENEOS HD の件では、代表取締役社長兼社長執行役員が懇親の場で女性に抱きつくセクシャルハラスメントを理由に、社長からの解任(解職)決議、取締役からの辞任勧告決議まで行いました。

他社事例についても当時のブログ記事にて紹介していますので参考にしてください。

そうだとすれば、今回のケースでも、エフエム東京の他の取締役は、代表・社長からの辞職する意思を表明した代表取締役社長に対しても辞任勧告まで決議すべきだったように思います。

そうでなければ、一般論として、代表取締役社長が取締役会に正式に報告されたら何らかの処分決議をされてしまいそうだとの予感がした場合、処分決議がされる前に代表・社長から辞職して処分決議を免れるということができてしまうからです。

百十四銀行の例

コンプライアンス的に問題のある行動をした取締役会長に十分な対応をしなかった他の取締役が、監視義務が不十分だったとして処分されたケースとして、百十四銀行の例があります。

2018年2月、百十四銀行の会長(当時)が取引先との会食の際、担当ではない20代女性社員を会合の途中で呼び同席させた際に、取引先によるハラスメント行為があったにもかかわらず、会長、同席していた執行役員と営業部長がそれを止めなかったことがありました。

5月に社内調査で明らかになったため、6月に会長、執行役員、営業部長の報酬・賞与の減額処分を取締役会で決議しました。

しかし、その後社外取締役の指摘に基づいて調査を実施したところ、取締役懲戒規定に該当することが明らかになったために、最終的には、10月末に、会長は辞任することになりました。

また、6月の報酬・賞与の減額処分決議に参加していた取締役ら7人も、報酬・賞与の減額処分となりました。

要は、6月に処分決議をしたけれど、十分な調査をせずにした処分決議では身内に甘い処分であり、役員相互の監視義務が機能していないと判断され、甘い処分決議をしたことが監視義務違反としての責任を問われた、と理解することができます。

今回のエフエム東京のケースも、これと同じように理解することができるのではないでしょうか?

新体制で取締役会長に選定していること

エフエム東京の場合、他の取締役は、代表・社長からの辞職する意思を表明した代表取締役社長を、そのまま、代表権のない取締役会長に選定しています。

辞任勧告を決議するどころか、社内で会長職に就任させたのです。

ガバナンスが効いていなさすぎるのではないかと感じました。

エフエム東京のリリースに記載された組織体制図(以下引用)を見ると、取締役会の下に会長職があり社長執行役員はその下です。

代表取締役社長が代表・社長からの辞職したとしても、依然として社内では社長執行役員より上の役職として影響力を持ち続けることを意味するように受け取れる組織図です。

この点について、エフエム東京は「厳しい環境下で事業を立て直した手腕や業界でのネットワークなどで、新社長をサポートできるとの期待がある」と取材に答えています(2024年9月26日付けサンスポ)。

こうなると、代表・社長からの辞職に何の意味があるのか、理解できません。

ハラスメントの加害者とそれまでの実績

一般的に、ハラスメントの加害者が、それまで社内外で実績を上げていることを考慮して、会社が加害者をキチンと処分しないケースが見られます。

こうした対応をしていると、社内には「ハラスメントを禁止と宣言しても、結局、うちの会社はハラスメントより売上・実績を重視する」と捉える役職員が蔓延し、その結果、ハラスメントを禁止する宣言が有名無実化していきます。

最終的には、ハラスメントが禁止されることを期待している役職員、特に従業員は会社に対して諦めを感じ会社を辞め転職していく、残った従業員たちも不満を感じているので社内の雰囲気が悪くなる、ということになります。

これまでの私の経験からしても、ハラスメントの加害者が実績を上げていても、加害者をキチンと処分し、特には懲戒解雇までした方が、残された役職員のやる気が上がりその後の業績はアップする傾向にあります。

今回のケースでも、キチンと対応したほうがよかったのではないかと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。

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