こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
2024年9月3日、日本の会計基準を定める企業会計基準委員会(ASBJ)が、リース取引に関する新しい会計基準を2027年度から義務づけることを決議しました。
新リース会計基準が企業に与える影響
新リース会計基準が義務づけられることによって、企業は、一部の例外を除き、すべてのリース取引を資産と負債の両方に計上することになります。
賃貸借契約も同じ扱いになるようです。
税務面への影響
資産・負債の両方が増える結果、会計実務上は、まず税務の点でいくつか問題が発生しそうです。
税務に詳しくない私でも、法人税、外形標準課税、親子会社間の取引(子会社・グループ会社が親会社の資産を借り入れている場合)などに影響するのではないかと思いつきます。
詳しくは、TKCのサイトで、専門家である公認会計士・税理士の方が解説しているので、そちらが参考になると思います。
ポイントを絞ったものだと、こちらの解説がわかりやすかったです。
機関設計への影響
リース取引が負債に計上されることは、会社の機関設計にも影響します。
負債が増えることによって負債が200億円を超え会社法上の大会社となり、その結果、会計監査人の設置が義務づけられる会社が現れるかもしれません。
例えば、これまで監査役しか設置していなかった子会社・グループ会社や中小企業が、新リース会計基準の適用によって負債が200億円を超えることで、監査役に加えて会計監査人を設置しなければならなくなるかもしれない、ということです。
自己資本比率、ROA(総資産利益率)、ROE(自己資本利益率)等への影響
リース取引が資産に計上されることは、自己資本比率、ROA(総資産利益率)、ROE(自己資本利益率)にも影響します。
資本の額は従来どおりのままで資産が増えるのですから、当たり前ですが、自己資本比率は低下します。
また、利益はそのままで資産が増えるのですから、総資産利益率であるROAも低下します。
さらに、売上高や利益はそのままで資産が増えるのですから、総資産回転率(売上高/総資産)が低下し、その結果、自己資本利益率であるROEも低下します。
私としては、上場会社の場合には、これらの影響がジワジワ現れるのではないかと心配しています。
新リース会計基準がIRや株主総会に与える影響
新リース会計基準が適用されることによって、会社は、自己資本比率、ROA、ROEなどが低下します。
そうなると、1年ごとあるいは四半期ごとの定点で自己資本比率、ROA、ROEの推移を見ている株主や投資家は、数字の低下について疑問を抱きます。
そうなれば、会社は、IRや株主総会にて、自己資本利益率、ROA、ROEが低下した原因を説明しなければなりません。
説得力のある説明をするには、単に「新リース会計基準が適用されることになったので、数字が低下しました」に留まらずに、新リース会計基準によって資産、負債がどのように変化したのか、その内容(内訳)について説明することが必要でしょう。
その説明をすれば、株主・投資家は、それ以外に増加した資産、負債があれば、その増加要因についても疑問に思うはずなので、会社はその説明も求められるはずです。
さらには、低下した自己資本比率、ROA、ROEをどうやって回復・向上・改善させていくのか、今後の経営方針や具体的な施策も説明することが求められるでしょう。
新リース会計基準がファンドによる買収可能性を高める
現在、投資家の代表であるファンドは、物言う株主として、上場会社に対し自己資本比率、ROA、ROE等の向上・改善を求めています。
その結果、自己資本比率、ROA、ROE等の数字を向上・改善できない取締役に対しては株主総会で取締役選任の反対票を投じる、取締役や代表取締役社長の交代などを株主提案する、株主総会以外の場で株主との対話を求めるなどをしています。
2024年にも京成電鉄、ダイドーリミテッドや花王のケースをご紹介しました。
新リース会計基準によって自己資本比率、ROA、ROEが低下した会社には、ファンドが新たに株主として入り、物言う株主として同様の動きをする可能性があります。
特に、昨今の政策保有株式の解消の動きに応じて株式を手放した会社は、株式が市場で流動しているので、そうしたファンドが物言う株主として入ってきやすい環境が整っています。
新リース会計基準によってファンドの動きが加速するのではないかとも思います。
さすがに、新リース会計基準が適用された1期目は様子見するかもしれませんが、2期目になっても自己資本比率、ROA、ROEを向上・改善できないときには、物言う株主としてファンドが入ってくることを覚悟した方が良いのではないでしょうか。