日清食品が再販売価格の拘束に違反するおそれを理由に、公正取引委員会から警告。小売業者に自ら要請するほか、卸売業者にも小売業者に要請させていたことが「再販売価格の拘束のおそれ」と判断された事例。「おそれ」に留まった理由。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年8月22日、公正取引委員会は、再販売価格の拘束に違反するおそれを理由に、日清食品に対して、警告しました。

「再販売価格の拘束のおそれ」と判断された日清食品の要請

事案の概要

公正取引委員会がまとめた概要図によると、再販売価格の拘束のおそれがあると判断した行為の内容は、以下のとおりです。今回はユニバーサルデザインフォントになったので、読みやすいですね。

日清食品が要請した内容

公表資料の内容を整理すると、

  1. 日清食品は、以前から、コンビニ以外の小売業者が販売する定番売価(通常時の小売価格)・特売売価(特売時の小売価格)の基準を定めていた(基準価格)
  2. 日清食品は、2022年6月と2023年6月に、卸売業者に対する出荷価格の引き上げに向けて、基準価格を改定した
  3. 日清食品は、レギュラーサイズの「カップヌードル」「カップヌードルシーフードヌードル」「カップヌードルカレー」「日清のどん兵衛きつねうどん」「日清焼そばU.F.O.」の5商品について、改訂後の基準価格を元に、定番売価・特売売価を定めた(提示価格)
  4. 日清食品は、小売業者に提示価格を遵守させる方針のもと、自ら、または卸売業者に以下の行為をさせた
    • 通常時において、他の小売業者にも同様の要請を行っていると伝えたり、要請を受け入れるまでは特売の条件(小売業者が特売を行う際、卸売業者から小売業者への販売価格を一時的に引き下げ、その引下げ分を日清食品が負担する)を出せないと示唆したりするなどして、提示価格まで定番売価を引き上げることを要請することによって、2の各出荷価格の引上げ以降、提示価格で販売するようにさせている
    • 特売時において、提示価格で販売することを前提に特売の条件を出すなどして、提示価格まで特売売価を引き上げることを要請することにより、2の各出荷価格の引上げ以降、提示価格で販売するようにさせている。

という内容です。

しかも、公正取引委員会の概要図を見ると、日清食品の担当者が小売業者の実際の店頭価格(陳列棚の値札、レシート)を確認し、提示価格を下回っている場合には提示価格どおりに販売するよう要請していたことも伺えます。

通常時も特売時も、日清食品が定めた提示価格よりも安い売価で小売業者が販売できないように、日清食品自ら要請したり、卸売業者からも小売業者に要請させた、とまとめることができます。

アップリカ・チルドレンズプロダクツの「再販売価格の拘束」事案との違い

もし日清食品が、小売業者に対して、要請を受け入れて通常売価と特売売価を提示価格まで引き上げなければ出荷しないとまで伝えていれば、小売業者は要請に従わざるを得なくなるので、「再販売価格」の「拘束」に該当します。

しかし、今回、日清食品は要請しただけで、出荷しないとまでは伝えていません。

小売業者は要請を受け入れずに提示価格よりも安い価格で販売することは可能です。

そのため、「再販売価格」の「拘束」とまでは言えません。

例えば、公正取引委員会は、2019年7月1日には、同様の要請を行い、かつ、要請に従わない小売業者に対しては、出荷を停止し、又は取引先卸売業者をして当該小売業者に対する出荷を停止させるなどしていたアップリカ・チルドレンズプロダクツ合同会社には、「再販売価格の拘束」を理由に排除措置命令を発しました。

とはいえ、日清食品は、出荷しないとまでは伝えていないけれど、特売の条件を出せないと示唆したりすることで、小売業者が特売をしたければ要請を受け入れざるを得ない状況にしたために「拘束のおそれ」と判断された、と考えられます。

日清食品の要請方法

卸売業者からも要請

日清食品から小売業者への要請方法が特徴的なのは、日清食品自らが小売業者に要請するだけでなく、卸売業者からも小売業者に要請させた点です。

卸売業者から要請させているので、小売業者にとっては出荷してもらえなくなるかもしれないと、要請を受け入れざるを得ない状況になりやすかったのではないでしょうか。

こうした卸売業者から小売業者への要請が再販売価格の拘束と判断されたのは、過去には一蘭のケースで見られました。

一蘭の「再販売価格の拘束」事案

一蘭は、2018年1月以降、即席めんの販売に際し、小売業者に、希望小売価格から割引した価格で販売しないように要請し、同意した小売業者のみに商品を供給し、かつ、卸売業者からも小売業者に同様の要請をさせ、同意した小売業者に商品を供給する卸売業者のみに商品を供給したことが、再販売価格の拘束に違反する疑いがあると判断されました。

当時、公正取引委員会が公表した概要図は以下のとおりです。

一蘭のケースは、確約手続きが利用されました。確約手続きについては、以前に書いたTOHOシネマズの記事で説明していますので、そちらで確認してください。

再販売価格の拘束にならないための留意点

メーカーの立場からすれば、自社が製造・販売する商品の価値を維持するために、市場価格をコントロールしたくなる気持ちはわかります。

しかし、市場価格をいくらにするかは、小売業者が仕入れ値と利益と消費者の需要を考えて、小売業者が判断することです。

メーカーができるのは「メーカー希望小売価格」などと表示して、「希望」や「要請」の意思を明らかにすることまでです。

もしくは、メーカーから卸売業者や小売業者への販売価格を高めに設定し、かつ、メーカーが小売業者の販売価格と同程度の価格で直販することで、メーカーの直販価格が小売業者による販売価格と競合するようにして、小売業者が販売価格を値引くと利益が出ないようにしていく(値引くことができないようにする)のも、メーカーによる価格維持の手法と言えましょう。

Appleの製品が家電量販店などで値崩れしないのは、再販売価格を拘束しているからではなく、この手法を採っているからと指摘する声も見られます。

また、時には、メーカーが求めていないのに、メーカーの意向を卸売業者が忖度して、勝手に卸売業者が小売業者に出荷停止などをちらつかせることがあるかもしれません。

メーカーは、卸売業者に対して「そのような要請や出荷停止をちらつかせることは絶対に止めて欲しい」と忠告しておかなければなりません。

卸売業者に忖度されてしまわないように、メーカー担当者が日頃の言動に注意することも必要です。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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