フラタール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売に関して、抱き合わせ販売を理由に、ASP Japan に対し公正取引委員会が措置命令。ASP Japan は同日、措置命令に対する自社の見解を公表。広報戦略のあり方について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年7月26日、公正取引委員会は、ASP Japan に対して、フラタール製剤を用いる内視鏡洗浄消毒器の販売に関して、抱き合わせ販売を理由に措置命令を発しました。

「抱き合わせ販売」と認定された行為

公正取引委員会が公表した事案の概要は以下とおりです(引用)。

  1. 2003年8月、ジョンソン・エンド・ジョンソンはアマノと内視鏡洗浄消毒器等の製造販売契約を締結し、アマノがジョンソン・エンド・ジョンソンのOEMとして内視鏡洗浄消毒器等を製造し、ジョンソン・エンド・ジョンソンが独占的に供給を受け販売していた。
    • フタラール製剤を消毒剤として使用できる内視鏡洗浄消毒器は、アマノが製造する内視鏡洗浄消毒器のみであり、本件内視鏡洗浄消毒器で使用できる消毒剤は、フタラール製剤のみ(商品名「ディスオーパ消毒液0.55%」)
  2. 2013年4月頃まで、フラタール製剤に関する特許権は、ジョンソン・エンド・ジョンソンのグループ企業が保有していた。
  3. 特許権の消滅後、2014年10月以降、後発のフラタール製剤が発売開始された(2024年7月時点でフラタール製剤の製造販売業者は、ASPを含め5社)。
  4. ジョンソン・エンド・ジョンソンは、2015年9月以降、バーコードリーダーによってフラタール製剤の容器に貼付した二次元バーコードを読み込まないと内視鏡洗浄消毒器が作動できないようにした(新型内視鏡洗浄消毒器)
  5. 2016年10月以降、ジョンソン・エンド・ジョンソンは二次元バーコード付きのフラタール製剤を医療機関に販売し、2017年3月以降、新型内視鏡洗浄消毒器を販売した。
  6. 2019年4月1日、吸収分割により、ジョンソン・エンド・ジョンソンの契約上の地位は、ASPが承継した。
  7. 後発フラタール製剤の製造販売業者のうち1社が、2020年1月、アマノに二次元バーコードの情報開示を求めた。しかし、ASPがアマノに開示しないように指示したため、2020年5月、アマノは開示要請を拒絶した。

以上の経緯で、新型内視鏡洗浄消毒器を使用している医療機関に対し、新型内視鏡洗浄消毒器の供給に併せてディスオーパ(フラタール製剤)を購入させている行為が「抱き合わせ販売」と判断されました。

公正取引委員会の資料では、4が「後発フタラール製剤を使用できないようにする目的」に基づき、5が「ディスオーパの売上げを確保するため」の方針に基づくと認定されています。

抱き合わせ販売は、「不当に」の要件を充たすことが必要なので、「不当に」に対する事実認定と理解できます。

ASP Japan が発表した見解について

これに対して、ASP Japan は、即日、見解を自社サイトに公表しました。

ASP Japan は、バーコードリーダーの機能について「このバーコードリーダーは、当社が販売するディスオーパ™ 消毒液 0.55%の容器に貼付されたバーコードを読み取って当該製品であると認識するようプログラムされています」と説明し、また、その目的について「バーコードリーダーによりバーコードを読み取ることは、内視鏡消毒の十分性を確保し患者様の健康と安全を守るための重要な手段です」と説明しています。

「患者様の健康と安全を守るため」という目的は、正当でしょう。

他方で、「バーコードリーダーを読み取って当社製品であると認識する」機能は、後発のフラタール製剤を排除するための機能そのもので、抱き合わせ販売であることを暗に認めていることになりはしないか?と感じます。

患者の健康と安全を守るため、内視鏡洗浄消毒器を使用する前に、濃度を保ったフラタール製剤であるか否かを確認し、間違えた製剤を使用しようとした場合にその製剤を排除する機能は必要でしょう。

しかし、特許権が消滅し、後発のフラタール製剤が製造発売されている今日において、ディスオーパと同一の濃度のフラタール製であれば問題なく、内視鏡洗浄消毒器に使用するフラタール製剤がディスオーパでなければならない理由はないように思います。

なぜ新型内視鏡洗浄消毒器にはディスオーパでなければダメなのか、なぜ新型内視鏡洗浄消毒器には後発のフラタール製剤を用いてはいけないのか、その部分への言及が不足しています。

バーコードリーダーの機能について広報するのであれば、後発のフラタール製剤を新型内視鏡洗浄消毒器に用いるとどんな障害や問題が発生するのか、その障害や問題を回避するためにディスオーパ以外の後発のフラタール製剤を排除する機能が不可欠であることを説明しないと、説得力に欠けるように思いました。

私はディスオーパ以外の後発のフラタール製剤を製造販売している業者とは何の利害関係もないので、あくまでも中立的な目線で見た第三者の立場からの読後の感想です。

先日のスノーピークと山谷産業の訴訟を巡る両社の広報戦略では、誰に何をアピールしたいのか、どんな企業であることをアピールしたいのか、自社の言い分を公表するだけはなく、情報の受け手を意識した内容にする必要がある、と言及しました。

今回の広報も同じです。

ASP Japan の広報では、行政処分取消訴訟を提起することにも言及しています。

裁判になったときに、こうした広報の内容は証拠の一つになります。

行政(公正取引委員会)の立場なら、この広報を、後発のフラタール製剤を排除する機能であることをASP Japan が認めている証拠として提出するのではないでしょうか。

訴訟を想定しているなら、広報した内容は裁判官が目にすることをも意識した内容や表現にしたほうがよく、そのためには、広報の前に、法務部門や顧問弁護士とも相談して文章表現を決めた方がよいと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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