TOYO TIRE が、熱中症・感染症予防のために2024年9月30日まで在宅勤務を推奨。熱中症対策、感染症対策と、会社の安全配慮義務、取締役・取締役会の安全配慮体制整備義務、職務執行の効率性確保体制整備義務との関係。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年7月23日、TOYO TIRE が、熱中症・感染症予防のために、2024年7月23日から9月30日まで原則として在宅勤務を推奨することを明らかにしました。

TOYO TIRE が在宅勤務を決した理由

熱中症・感染症予防のために在宅勤務にするというと、TOYO TIREが安全配慮義務を意識したであろうことは想像がつきます。

ただ、TOYO TIRE は、原則在宅勤務とした理由を、

梅雨明け宣言後、危険な暑さとして全国的に熱中症警戒アラートが発出されているなか、通勤時間帯の気温も高まっていることから出社後の執務状態(体力や集中力など生産性)への影響は小さくなく、また一方、感染力の強い新型コロナウイルスの変異株による感染状況が悪化している傾向にも照らし、従業員の健康とモチベーション維持を最優先とした対策をとるものです。

と説明してます。

「出社後の執務体制(体力や集中力などの生産性)への影響」「従業員の健康とモチベーション維持を最優先」と書かれている理由を見ると、TOYO TIREは安全配慮義務だけではなく、取締役・取締役会の職務執行の効率性確保体制整備義務を意識して、今回の原則在宅勤務を決したと読み解くことができます。

会社の安全配慮義務、取締役・取締役会の安全配慮体制整備義務との関係

従業員の熱中症・感染症を予防しなければならないことが、会社の従業員に対する安全配慮義務だけではなく、取締役・取締役会の安全配慮体制整備義務に基づくことであることは、理解できるはずです。

職場における熱中症予防のために、厚労省が、「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月 20 日付け基発 0420 第3号)との通達を発し、この通達に基づいて会社が基本的な熱中症予防対策を講ずるように、「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」「職場における熱中症予防情報」のウエブサイトを作り情報を発信しています。さらに、毎年(2024年も)、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」実施要綱をも公表しています。

こうした要綱が公表されているにもかかわらず、会社が熱中症対策を何も講じなければ、もし業務時間中に熱中症になった従業員がいれば、会社は安全配慮義務違反、取締役・取締役会は安全配慮体制構築義務違反の責任を問われかねません。

過去にもブログの記事にしたことがあります。

また、そもそも取締役・取締役会は、熱中症をキチンとリスクとして認識することも不可欠です。

こちらも、自然災害と危機管理の観点から解説したことがありますので、一読いただければと思います。

取締役・取締役会の職務執行の効率性確保体制整備義務との関係

TOYO TIRE が原則在宅勤務を決断した理由の特徴的な部分は、「出社後の執務体制(体力や集中力などの生産性)への影響」「従業員の健康とモチベーション維持を最優先」と、職務執行の効率性を意識している点です。

これは、取締役・取締役会の職務執行の効率性確保体制整備義務に基づくものと理解することができます。

あまり意識されていませんが、取締役・取締役会の内部統制システム構築義務の中には、職務執行の効率性確保体制整備義務が含まれます(会社法施行規則98条1項3号、100条1項3号)。

株式会社は営利社団法人なので、企業価値を向上させるために、業務を効率的に遂行することが必要です。

そのためには、会社内部の意思決定に関するルールとして決裁規程や職務分担規程などの内部規程、当該内部規程を検証する体制、取締役・取締役会の意思決定や専門性を補助、教育等するための体制、外部の専門家の助言を受け入れる体制などを整備することが必要です。

それと同時に、従業員が業務を円滑に遂行できる環境を整えることも必要です。

新型コロナの感染が広がり始めた当初は、テレワークを利用した在宅勤務にして感染症を予防したほうが業務が円滑に遂行すると判断し、その後、新型コロナが5類に分類された時期と前後して、出社に戻したほうが業務が円滑に遂行すると判断した会社が多かったのではないでしょうか。

TOYO TIRE は、今また新型コロナが11波、12波・・と流行の兆しを見せていることに加え、2種類の太平洋高気圧が日本列島を覆うなど記録的な猛暑になっている気象条件を踏まえると、「通勤で体力を消耗してから仕事を始まるより在宅勤務の方が涼しくて効率的に仕事ができる」という価値判断が働いたのだと思われます。

こうやって臨機応援に職務執行の効率性を確保して出社/在宅を切り替えることは、適時・迅速な意思決定として見習っても良いのではないでしょうか。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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