ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式に関するYahoo!掲示板への投稿内容が「風説の流布」に該当するとして、証券取引等監視委員会が課徴金納付命令を勧告。風説の流布による課徴金納付命令の勧告は初めての事例。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年7月26日、証券取引等監視委員会は、「ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式に係る風説の流布に対する課徴金納付命令の勧告について」を公表しました。

証券取引等監視委員会によると、金商法158条の「風説の流布」を適用した初めての勧告事案とのことです。

なお、ネット掲示板への投稿が「風説の流布」として告発され刑事罰に至ったケースは、過去に2例あります。

「風説の流布」と判断された事案の概要

証券取引等監視委員会が「風説の流布」と判断したのは、課徴金納付命令対象者が、メタボローム解析技術とバイオ技術を活用した研究開発などを行うヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(以下「HMT」)の株式の価格を上昇させ、同株式を売り抜けて利益を得ようと考え、 2021年7月8日午前9時45分頃、インターネット上の金融情報サイト「Yahoo!ファイナンス」の掲示板に、HMTに関して、合理的根拠のない情報を投稿し、不特定かつ多数の者が閲覧できる状態に置いた行為です。

証券取引等監視委員会の資料によると、投稿内容は以下の画像のとおりです。

「有価証券の募集、売り出し、売買、その他の取引のため」「相場の変動を図る目的」

風説の流布が成立するには、「有価証券の取引のため」または「相場の変動を図る目的」が必要です(金商法158条)。

証券取引等監視委員会は、課徴金納付命令対象者が「株式の価格を上昇させ、同株式を売り抜けて利益を得ようと考え」として、有価商取引のため、または相場の変動を図る目的があったと認定しています。

課徴金納付命令対象者は、

  1. 2021年7月7日午前9時16分から7月8日午前9時23分にかけて、HMTの株式合計1万3200株を株価879~902円で買い付け
  2. Yahoo!ファイナンスの掲示板に上記の内容を投稿し、HMTの株価を上昇させ
  3. 買い付けたHMTの株式を948~1044円で売り抜け、約139万円の利益を得た

詳細は、証券取引等監視委員会の資料に掲載されている画像のとおりです。

ネット掲示板への投稿が「風説の流布」として刑事罰に至ったケース

Yahoo!ファイナンスの掲示板には、玉石混交の情報が投稿されています。

今回は、初めての課徴金納付命令の勧告事案でしたが、インターネット掲示板への投稿が「風説の流布」であるとして刑事告発され、刑事罰を課された事案は以前にもありました。

エスプールの株式についての投稿

ネット掲示板への投稿が「風説の流布」として初めて告発したのは、2011年12月21日、エスプールの株券の売買のため、かつ、相場の変動を図る目的で、虚偽の事実の投稿を繰り返した者を、証券取引等監視委員会が神戸地検に告発したケースです。

証券取引等監視委員会の資料によると、投稿された内容は以下の画像のとおりです。

2011年12月22日、投稿者は、罰金30万円、追徴金4万8330円の略式命令を受けています。

カネヨウの株式についての投稿

ネット掲示板への投稿が「風説の流布」として告発された2例目は、2014年3月19日、カネヨウの株券の売買のため、かつ、相場の変動を図る目的で、合理的な根拠もないのに、「明日の暴騰仕掛け銘柄 3209カネヨウが暴騰するという情報が入ってきました」などと投稿したことが、「風説の流布」として、名古屋地検に告発されたケースです。

証券取引等監視委員会の資料によると、投稿された内容は以下の画像のとおりです。

2014年3月30日、投稿者は、罰金80万円、追徴金275万円の略式命令を受けています。

ネット掲示板やSNSに投稿する際の留意点

今回課徴金納付命令を勧告されたケースの投稿内容は長文ですが、過去に刑事告発され刑事罰に至ったケースの投稿内容を見ると、1つ1つの投稿内容は短文です。

「この程度の投稿でも刑事告発されるのか」と驚く人もいるかもしれません。

しかし、「風説の流布」と判断されるかは、投稿された文量が長い短いではなく、その内容が相場の変動を図る目的と言えるか、別の言い方をすれば、相場の変動に影響を与える内容かどうかです。

掲示板に投稿された内容を見て、他の投資家が、これは株価が上がる/下がると信じてしまう内容なら、相場変動を図る目的と言えます。

今やSNS全盛の時代です。

ネット掲示板への投稿だけでなく、SNSに投稿する内容にも慎重を期するようにして下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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