トヨタカスタマイジング&ディベロップメントが下請事業者に対し、品質検査をしないまま返品し、かつ、長期間発注しないまま金型を保管させたとして、公正取引委員会が下請法違反の勧告。下請事業者に金型を保管させる際の注意点。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年7月5日、公正取引委員会は、トヨタ子会社であるトヨタカスタマイジング&ディベロップメントに対し、品質検査をしないまま返品し、かつ、長期間発注しないまま金型を保管させたとして、下請法違反にもとづいて勧告しました。

事案の概要は、以下のとおり公正取引委員会の公表資料がわかりやすく整理しています。

返品の問題点

メディアやSNSでは下請事業者に金型を保管させていたことに注目が集まっていましたが、納品時の品質検査を行っていないにもかかわらず、瑕疵があることを理由にして、下請事業者65社に約5427万円の製品を返品していたことも悪質ではないかと思います。

下請事業者が時間と費用をかけて製造したのに、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントは、品質検査をしないまま瑕疵があることにする難癖をつけて返品をしているのです。

品質検査(受入検査)は、下請法の返品だけではなく、契約不適合責任でも必要になる重要な手続きです(商法526条1項、2項)。

その品質検査をしないで返品に応じさせていたのですから、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントが、親事業者であるとの立場を濫用して、非のない下請事業者に無理を強いていたことが伺えます。

下請事業者65社で5427万円なので、1社あたりそれほどの金額でもないようにも思えますが、これは、2022年7月から2024年3月までの1年8か月での金額です。

過去に遡ったら、1社あたり、どれほどの額になることでしょう。

なお、読売新聞では、返品と金型の保管とを併せて、

金型保管と返品で損害を受けた業者は一部重複しており、被害相当額の支払い先は94社となる。金額は違反が認定された約2年間に限定して算出されるが、30年近く金型が預けられていたケースもあり、実際の損害額は億単位に上る可能性もある。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20240705-OYT1T50123/

とも報じています。

減額した額をトヨタカスタマイジング&ディベロップメントがどのように会計処理していたのかも気になるところです。

金型保管の問題点

下請事業者に金型を保管させても違法にならない場合

今回の勧告で、注目されているのは、下請事業者49社に、合計664個の金型を無償で保管させていたことです。

下請事業者は金型を預かっていれば、その分、自社の倉庫を占有することになります。

倉庫を他から借りているのであれば、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントの金型のせいで無駄な賃料を支払っていることになります。倉庫が下請事業者の所有であれば、トヨタカスタマイジング&ディベロップメントの金型のせいで、倉庫を第三者に貸すこともできません。

それだけ下請事業者に負担を掛けさせることになります。

とはいえ、親事業者が下請事業者に金型を預けることはよく見られます。

そのすべてが違法になるわけではありません。

下請法が禁じているのは「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」としての金型の保管です。

下請事業者に経済上の利益を提供させることが禁じられているので、

  • 親事業者と下請事業者がその金型を使った取引を現に行っている場合
  • 親事業者が下請事業者に金型の保管料(相当な額)を支払っている場合

には、下請法違反にはなりません。

金型の保管に関する過去の勧告処分に共通する要素

今回の勧告を含め、直近約1年間の木型・金型の保管に関する勧告処分の例を見ると、共通するのは、長期間発注しないまま無償で金型を保管させていたか、次回以降の具体的な発注時期を示せない状態にもかかわらず無償で金型を保管させていた、という部分です。

中には、下請事業者に棚卸し作業までさせていた例もあります。

具体的には、以下の内容です。

  • 岡野バルブ製造は、下請事業者に対し、自社が所有する木型及び金型(以下「木型等」という。)を貸与していたところ、当該木型等を用いて製造する部品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、遅くとも令和3年8月1日から令和4年12月6日までの間、合計330個の木型等を無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(2023年3月16日付け勧告
  • サンケン電気は、下請事業者に対して自社が所有する金型を貸与していたところ、合計386型の金型について、遅くとも令和3年7月1日から令和5年10月27日までの間、一部の下請事業者から長期間発注が無いこと等を理由として廃棄等の希望を伝えられていた、又はサンケン電気自身も次回以降の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず、下請事業者に対し、引き続き、無償で保管させるとともに金型の現状確認等の棚卸し作業を1年間当たり2回行わせることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(2023年11月30日付け勧告
  • サンデンは、下請事業者に対して自社が所有する金型及び治具(以下「金型等」という。)を貸与していたところ、遅くとも令和4年1月1日以降、当該金型等を用いて製造する部品又は附属品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計4,220型の金型等を無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(2024年2月28日付け勧告
  • ニデックテクノモータは、下請事業者に対して自社等が所有する金型、木型、樹脂型、治具及び部品の製造設備(以下「金型等」という。)を貸与していたところ、合計600個の金型等について、遅くとも令和4年5月1日以降、次回以降の具体的な発注時期を示せない状態になっていたにもかかわらず、下請事業者に対し、引き続き、無償で保管させるとともに金型等の現状確認等の棚卸し作業を1年間当たり2回行わせることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(2024年3月25日付け勧告
  • トヨタカスタマイジング&ディベロップメントは、下請事業者に対して自社が所有する金型等(製品の製造に用いる金型、製品の塗装・メッキ処理等の加工を行う際に用いる治具及び製品のサイズを正確に確認するための計測器具である検具)を貸与していたところ、遅くとも令和4年7月1日以降、当該金型等を用いて製造する製品の発注を長期間行わないにもかかわらず、下請事業者に対し、合計664個の金型等を無償で保管させることにより、下請事業者の利益を不当に害していた(2024年7月5日付け勧告

親事業者が「まだ生産計画が決まっていないけれど、発注するのは間違いないから、そのまま金型を預かっていて欲しい」と下請事業者に金型の保管を頼むことは容易に想像できます。

しかし、長期間発注しないだけではなく、次回以降の具体的な発注時期を示せない状態である場合にも、無償で金型を保管させていることは違法になることには注意が必要です。

親事業者は発注をしないまま下請事業者に金型を保管させるのであれば、相当の保管料の支払いが必要になると覚悟してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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