小林製薬が紅麹関連製品による「死亡との関連性を調査している対象事例数」76例の公表遅れ。厚労省からの問い合わせによって判明。危機管理広報の意識の欠如とあるべき姿。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年6月28日、厚労省の武見大臣が、小林製薬から紅麹関連製品について以下の報告があったことを明らかにしました。

  • 死亡に関する遺族からの相談事例が既に公表済みの5例以外に170例あること
  • 170事例のうち、喫食をしていないことが確認された91事例あること
  • 残り79事例のうち3事例は、医師に問い合わせをするなどして調査が終了しており、結果として紅こうじ製品との因果関係はなかったことが確認されていること
  • 残りの76事例については、医師に確認するなど現在調査中であること

小林製薬の危機管理広報の意識の欠如

小林製薬が3月29日に公表した死亡例が5件から2か月以上増加しなかった(入院患者数は増加している)ことを不審に思った厚労省が問い合わせたところ、上記内容が明らかになりました。

厚労省からの問い合わせがなければ小林製薬は明らかにしなかったのですから、小林製薬は積極的に情報を発信する危機管理広報の意識が欠如していたと言って良いでしょう。

小林製薬は健康危害の一報を得てから社長に報告するまでの段階と、社長が事実を把握してから自主回収を決断するまでの段階のいずれもが遅れ、その時点から危機管理の意識の欠如が指摘されています。

私も指摘しています。

しかも、広報対応を始めてからもリリースのタイトルが全部同じ、情報が一元化されていないなど、危機管理広報もうまく対応できていませんでした。

この期に及んでこの広報対応の遅れです。

危機管理広報として、どのタイミングで、何を公表すべきだったのでしょうか。

小林製薬は追加情報として何をどのタイミングで公表すべきだったのか

2024年6月28日付けリリースが4月8日以来の「重要なお知らせ」

小林製薬が2024年6月28日に公表したリリースにて、以下の内容を明らかにしました。

  1. 3月22日以降の取り組み
  2. 厚生労働省及び国立医薬品食品衛生研究所の5月28日付・公表資料による原因究明の進捗
  3. 紅麹関連製品と被害発生の関連性についての確認状況
  4. 被害発生状況の把握方法の変更
  5. 死者数の訂正

盛りだくさんの内容です。

盛りだくさんになった理由は、これが、4月8日に「第9報」を公表して以来、約3か月ぶりの「重要なお知らせ」だからです。

4月8日に第9報を公表してから6月28日のリリースまでの間、5月28日には、厚労省と国立医薬品食品衛生研究所が原因物質について公表しています。

しかし、この事実すら、6月28日のリリースまで、小林製薬のサイトには掲載されていませんでした。

紅麹関連製品について特化したページをわざわざ開設しているのに、言及すらしていません。

5月28日の時点で「厚労省及び国立医薬品食品衛生研究所から原因物質に関する情報が公表されました。詳しくはこちらをご覧下さい」などと、公表資料に誘導するリンクくらい貼ってもよさそうなものなのに、それすらありません。

これだけでも、紅麹関連製品について不安を抱えている消費者に必要な情報を提供して、安心させようとの意識が欠けていると言えます。

被害発生状況の把握方法を変更した時点で明らかにすべき

2024年6月28日付けリリースでは、

  • 紅麹関連製品と被害発生の関連性についての確認状況
  • 被害発生状況の把握方法の変更

を丁寧に説明しています。

内容を読むと、小林製薬が社内ではキチンと対応していることはわかります。

しかし、危機管理の観点では、こうした情報を「社内」に留めているのが問題です。

不特定多数の生命・身体に影響を生じる事象を起こしているわけですから、「紅麹関連製品と被害発生の関連性についての確認状況」や「被害発生状況」は、消費者を安心させるために積極的に公表していくべき情報です。

「紅麹関連製品と被害発生の関連性についての確認状況」は、社内にある程度の情報が集積された段階でいつでも公表できた情報です。

また、「被害発生状況の把握方法の変更」は、変更した時点で公表すべき情報です。

「被害発生状況の把握方法の変更」そのものをリリースにすることまでは必要ありませんが、「被害発生状況」の表の下に注釈として、「2024年○月○日時点から被害発生状況の把握方法を以下のように変更しました」として記載することはできたはずです。

6月28日付けリリースでは、以下のチャート図まで書いているのですから、このチャート図を掲載したって良かったはずです。

消費者が知りたい情報を「社内」に留めている限り、消費者の不安は払拭できません。

遺族からの問い合わせが170例あったけれども、小林製薬の紅麹関連製品を摂取していない例が91例あったなんていう情報は、小林製薬にとってはむしろプラスになる情報なのに、なぜ公表しなかったのでしょう。

特設ページまで開設したのに、いい情報、悪い情報のどちらも公表しない姿勢が理解できません。

一事が万事、消費者が置いてけぼりにされている印象を受けます。

武見大臣の会見では、厚労省による今後の対処方針にも影響するようなので、消費者が置いてけぼりにされない対応になるよう改善されることを祈ります。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
error: 右クリックは利用できません