従業員301人以上の企業に「女性管理職比率」の公表を義務づけへ。将来の女性人材を確保するためには「女性の活躍推進企業データベース」を有効活用し、また女性管理職が少ない企業はその理由を説明できるように。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年6月27日の日経電子版で、2025年に女性活躍推進法を改正し、従業員301人以上の企業に女性管理職比率の公表を義務づける方向で調整していることが報じられていました。

「女性管理職比率の公表」に関する現在の規制

現状は、女性に関する情報公表の規制は、厚労省のリーフレットのとおり、

  1. 従業員が301人以上の企業
    • 「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する8項目のうちいずれか1項目の実績
    • 男女の賃金の差異
    • 「職業生活と家庭生活の両立」に関する7項目のうちいずれか1項目の実績
  2. 従業員が101人以上300人以下の企業
    • 上記16項目のうちいずれか1項目の実績

となっています。

厚労省の「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」と題する資料がわかりやすいです(クリックして拡大してください)。

強制的に開示が義務づけられていたのは、従業員が301人以上の企業での「男女の賃金の差異」だけでした。

女性管理職比率の公表は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する8項目のうちの1項目でしかありませんでした。

そのため、従業員が301人以上の企業であっても、女性管理職比率の公表を選択しなければ公表する必要がありませんでした。

強いて言えば、上場会社が有価証券報告書の「ダイバーシティに関連する開示事項」として、女性役員・管理職の比率を公表しているくらいです。

ただ、上場会社が有価証券報告書に女性管理職比率を公表しているケースでも、金融庁からは、女性活躍推進法にいう「管理職」の定義と異なるケースがあるなどと指摘されています。

詳しくは以前にブログで説明しました。

ちなみに、女性活躍推進法に基づく情報公表項目について、有価証券報告書のみにおいて公表しても、女性活躍推進法の義務を果たしたことにはなりません。

女性活躍推進法の公表義務を果たしたと言うためには、厚労省が用意した「女性の活躍推進企業データベース」や、自社のサイト等で情報を公表することが求められています。

「女性管理職比率の公表」義務づけによって生じる課題

将来の女性人材の育成・確保に向けて

女性管理職比率は、上記の「女性の活躍推進企業データベース」や自社サイトで公表されます。

「女性の活躍推進企業データベース」は、文字通りデータベースなので、サイトを訪問した人は、「女性管理職比率」や「女性役員比率ランキング」の高い企業ランキングや、「女性の活躍推進・両立支援に関する企業の取組」を見ることができます。

企業規模、業種、所在地などによって検索することができるので、就職・転職活動をしている女性、特に将来の妊娠・出産・育児・介護に不安を抱えている女性にとっては、働きやすい会社を見つけるのに有効活用できそうなデータベースです。

まだ認知度が低いデータベースなので、そこまで活用されていないかもしれませんが、「女性管理職比率の公表」や「男女の賃金の差異」などをデータベースで見ることができるとの認知度が向上していくと、女性労働者には人気が出ることは必至でしょう。

裏を返せば、データベースで「女性管理職比率」や「男女の賃金の差異(がないこと)」などを就職・転職活動をしている女性、妊娠・出産・育児・介護に不安を抱えている女性にアピールができない会社は、今後、実力のある女性人材を確保することが難しくなっていくということです。

「女性がいない職場で働くのは嫌だ」と敬遠する男性人材も増えてくるかもしれません。

上場会社であれば、データベースへの記載がもとになって、株主・投資家からのジェンダーやダイバシティーの観点からの追求が厳しくなるかもしれません。

公表して恥ずかしくない職場を作っていくことが急務になっていると言えましょう。

女性管理職比率が少ない会社は説明できるように

そうはいっても、業種によっては、どうしても男性社員の比率が多く、そのため男性管理職の比率が高止まりしてまう会社もあるでしょう。

「男女の賃金の差異」については、数値を公表するだけでなく、会社の実情を知ってもらうために男女の賃金の差異以外の実情を補足説明することができるようになっています。

女性管理職比率の公表をするに当たっても、こうした補足説明を積極的にしていく必要があると思います。

仮に「女性の活躍推進企業データベース」にそうした欄がなければ、自社サイトにそうした補足説明をしながら「女性管理職比率の公表」を公表していく必要があるでしょう。

ただし、補足説明する場合には、一般論で「建設業だからどうしても男性社員が多くなってしまう」などと説明するのではなく、「○○事業は肉体労働なので」「○○事業は・・という免許を保有していることが必要だけれど、免許を保有している男女比率がそもそも男性が多いので、男性従業員が多くなってしまう」など、具体的な実情を説明していかなければならない気がします。

「男女の賃金の差異」の補足説明については以下の例が示されているので、「女性管理職比率の公表」の補足説明をする際にも参考にして下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
error: 右クリックは利用できません