Mrs. GREEN APPLE の「コロンブス」のミュージックビデオが炎上して公開停止。広告の演出には歴史的背景についての教養も必要不可欠。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年6月12日に3人組バンドのMrs. GREEN APPLE が新曲「コロンブス」のミュージックビデオ(MV)を公開しました。

しかし、Youtubeのコメント欄やSNSで批判する声が増えたことを受け、翌13日には公開が停止されました。

今回は、このMVが炎上した件を取り上げます。

Mrs. GREEN APPLEの「コロンブス」MVは、なぜ炎上したのか?

ミュージックビデオは、コロンブス、ナポレオン、ベートーヴェンをイメージさせる姿をした3人が、猿の格好をした先住民族をイメージさせる者たちに、人力車を牽かせたり、音楽などの文明を教えていく演出になっています。

コロンブスは、ヨーロッパ人(スペイン)の立場からはアメリカ大陸を発見した業績が称えられていますが、同時に、先住民族であるアメリカ・インディアンの立場からは、ヨーロッパ人による侵略、奴隷制や大量虐殺のきっかけ、感染症の拡大との側面が指摘されています。

今回のMrs. GREEN APPLEの楽曲名が「コロンブス」であることもあり、MVの演出からは、後者の側面が色濃く感じられます。

そのため、Youtubeのコメント欄やSNSには「人種差別」を指摘する声が多く投稿され、炎上しています。

広告の演出には歴史的教養+「馬鹿にしない」も必要

Mrs. GREEN APPLEのMVの演出が炎上した原因として考えられるのは、歴史的教養の欠如と「馬鹿にしている要素がある」です。

日清食品カップヌードル「hungry?」編

例えば、今回と同じように類人猿(原始人)を演出に使ったケースとしては、1992年の日清食品カップヌードルのCMがあります。

お腹が空いた原始人がマンモスを追いかけ、最後に「hungry?」のメッセージとカップヌードルが映し出される内容でした。

自分が学生時代のCMなので若い人は知らないかもしれませんが、カンヌグランプリに輝いたほどです。

これは、類人猿、原始人とおぼしき人たちを「馬鹿にした」わけではありません。

実際、類人猿、原始人はマンモスを追いかけて狩りをしていたことは史実ですから、歴史的教養にも即しています。

そうなると、炎上する要素は見当たりません。

Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」MV

これに対し、Mrs. GREEN APPLEのMVは、先住民族とおぼしき人たちを猿の格好にしている点で、人間以下の存在として扱っていると受け取られます。

これは、先住民族である「アメリカ・インディアン」を「馬鹿にしている」と言ってもいいかもしれません。

また、上記のとおり、コロンブスは、ヨーロッパ人による侵略、奴隷制や大量虐殺のきっかけとなったとも批判されているにもかかわらず、MVの演出の内容は、猿の格好をした先住民族とおぼしき人たちに人力車を牽かせたり、音楽を教えたり、コロンブスの卵を教えたりするなど、奴隷のように扱っているとも受け取れます。

これは、歴史的教養があれば、やってはいけないとわかる演出です。

さらに、先住民族の文化的発展の度合いを下に見ているとも言って良いでしょう。

ナチスドイツをイメージさせた欅坂46のハロウィン・コンサートの服装

歴史的教養が欠けていることで炎上した代表例として、2016年に欅坂46がハロウィン・コンサートでナチスドイツをイメージさせる服装をしたことで、世界各国から批判されたケースを挙げることができます。

これもナチスドイツがヨーロッパ、特にドイツでは禁忌な存在になっているとの歴史的教養があれば防ぐことができたケースです。

MLBインディアンスのロゴの使用中止

アメリカのメジャーリーグ(MLB)では、クリーブランド・インディアンスが、それまで使用していた「ワフー酋長」のロゴのデザインに対して、先住民族の団体からの「侮辱的」との抗議があったことを受け、2019年シーズンから「ワフー酋長」のロゴの使用を止めました。

「侮辱的」との抗議なので、「馬鹿にしている」と受け取られた、ということです。

広告の制作に携わる人たちは歴史的教養を身につけることも必要

「教養を身につけても金にならない」などの声を耳にすることがたまにあります。

たしかに、教養があるからといってそれだけではお金には繋がらないかもしれません。

しかし、今回のケース然り、教養があれば、未然に炎上を防ぐことができました。

説教くさくなりますが、教養は、ものの考え方や行動の土台になるものです。

国内でも、明治維新を例に取れば、明治政府を樹立した人たちの立場からすれば「維新」かもしれませんが、江戸幕府や奥羽越列藩同盟の人たちからは、幕府を転覆させた「テロリズム」と指摘されています。

会津と長州の関係が今でもニュースになるのは、両者のものの見方の違いがあります。

今回のコロンブスとアメリカ・インディアンとのものの見方の違いと同じです。

広告の制作にたずさわる人たちは、教養のない演出をすることで、「制作した人」だけではなく「この会社」は教養がない、と批判されることを意識するようにして下さい。

そのうえで、制作しようとしている広告の内容が、教養に照らして「誰かを馬鹿にしているように受け取られないか」とチェックするようにして欲しいです。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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