こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
2024年5月22日に、公正取引委員会が生活協同組合コープさっぽろに対して下請法違反の「減額」をしたことを理由に勧告をしました。2024年度初の勧告事案です。
公正取引委員会の公表資料によると、事案の概要は、以下のとおりです。
食料品等の製造、商品等の配送を委託する下請事業者27社に対して支払うべき下請代金から総額約2537万円を「月次リベート」などの名目で減額したのです。
2024年3月には日産自動車が「割戻金」の名目で下請代金を減額したことについて公正取引委員会が勧告をしたばかりです。
つい先日も、公正取引委員会が下請法運用基準を改正して、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等を下請代金に反映しないことを「買いたたき」として運用を厳しくすることを発表したばかりです。
公正取引委員会の一連の動きを見ると、公正取引委員会は、親事業者が下請事業者に下請代金を支払う際の禁止行為の有無に対する関心を高め、厳しくウォッチしていることがわかります。
2012年に続く2度目の勧告
コープさっぽろのケースは、公正取引委員会の公表資料に、
コープさっぽろは、公正取引委員会から、平成24年6月22日、前記⑵アの「月次リベート」及び同ウの「協賛金年契リベート」の額を減じた行為と同様の行為につき下請法の規定に違反するとして勧告を受けたにもかかわらず、下請法の適用対象となる取引の管理体制の整備とその運用を適切に行わず、過去に勧告を受けた行為と同様の行為を行っていたものである。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/may/240522_hokkaido_shitauke.pdf
と明記されているように、下請法違反の減額を理由に勧告を受けるのは2012年(平成24年)に続く2度目です。
2012年当時の勧告も、プライベートブランドで販売する食品の製造委託先8社に対し、「月次リベート」や「年次リベート」の名目で、本来払うべき金額から計約2838万円を減らしていたことを理由にするものです。
「月次リベート」などの名目で、食品の製造委託先から下請代金を減額していたのは、今回と同じです。
なぜ再発を防止できなかったのか
2012年に1度目の勧告を受けているのに、なぜ2024年に2度目の勧告を受けてしまったのでしょうか? 再発を防止できなかった理由はどこにあるでしょうか?
体制の整備が不十分だった
国内企業の多くは、一度でも不正・不祥事を起こした時には、再発防止に向けて体制を「整備」します。
今回の公正取引委員会からの勧告でも、コープさっぽろは、理事会での再発防止決議、再発防止に向けた定期的な監査、研修の実施、体制の「整備」などが命じられています。
しかし、2012年と今回の「減額」のいずれも「月次リベート」の名目で、食品の製造委託先から減額しています。
減額するための手法も、減額した取引先も同じです。
しかも、今回は「月次リベート」の名目で減額した額が2537万円中2322万円を占め、下請事業者27社のうち18社を占めています。
こうしたことからは、2012年に見直したはずの再発防止体制はまったく不十分だったと言えます。
再発防止のために必要な体制構築の水準
日本システム技術事件
再発を防止するには、どの程度の体制を整備する必要があるかについては、過去にも何度か紹介した日本システム技術事件判決(最判2009年7月9日)が考え方のベースになります。
この事件は、
- 事業部長(※営業部門)は部下の営業職に取引先との契約書を偽造することを指示し、部下は契約書を偽造した(契約書に使用する印鑑から偽造した)。
- 事業部は偽造した契約書に基づいて売上があがったことにしてビジネスマネージメント課を通じて財務部門で処理。財務部門はその数字をもとに決算処理して開示。
- 契約書の偽造が発覚したので、売上等決算の数字が下方修正された。
- 株主は、これを予防できなかったことを理由に、取締役に損害賠償請求した。
というケースでした。
最高裁は、以下の理由で取締役の責任を否定しました。
- 通常想定される架空売上の計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていた
- (印鑑を偽造してまでの契約書の偽造は)通常容易に想定し難い方法であった
- 本件以前に同様の手法による不正行為もなかったため、本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない
コープさっぽろが再発を防止するためには・・
今回のコープさっぽろのケースを考えるにあたってポイントとなるのが、日本システム技術事件判決が示した3の部分です。
再発を防止するには、「同様の手法による不正行為」は防止できる体制を整備しなければならないのです。
再発を防止するには、単に「下請代金の減額は禁止」と謳うのではなく、どういう行為が禁止される減額なのかを具体的に示すことまでが必要であったと言えましょう。
そうだとすれば、少なくとも、2012年の時点で「『月次リベート』など名目のいかんに関わらずに減額する行為全般が禁止」と、「月次リベート」という言葉を使うこと自体を禁止してしまえば、その後、「月次リベート」を理由に下請代金を減額することは防止できたではないでしょうか。
再発防止策は抽象的なものではなく、生々しく具体的に行って下さい。