中国電力が景表法違反の有利誤認表示で16億5594万円の課徴金納付命令。有利誤認表示の国内最高額を更新。表示管理体制を見直し再構築する際に意識すべき点。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年5月28日、消費者庁が、中国電力に対して、景表法違反の有利誤認表示を理由に16億5594円の課徴金納付を命じました。

2023年8月30日に消費者庁が中国電力に対して措置命令を発していたケースの続きです。

景表法違反に基づく課徴金納付命令の国内最高額

景表法違反に基づく課徴金納付命令の国内最高額を更新しました。

これまでは、景表法違反の「有利誤認表示」に基づく課徴金納付命令の最高額は、2020年6月24日に電子たばこのiQOSを販売していたフィリップ・モリス・ジャパンに対する5億5,274万円でした。

なお、同じく景表法違反である「優良誤認表示」に基づく課徴金納付命令の最高額は、2024年3月12日にメルセデス・ベンツ日本に対する12億3097万円です。

中国電力がした有利誤認表示

中国電力は、パンフレットやウエブサイトにて、小売供給する電気料金について、あたかも、少なくとも月平均の使用電力量が400kWh以下の場合のスマートコースの電気料金や400kWhを超える場合のシンプルコースの電気料金は「従量電灯A」と称する電気料金を適用する電気の小売料金よりも安価であるように表示したけれども、実際には、スマートコース/シンプルコースの両方で安価にならない場合があったことが「有利誤認表示」とされました。

消費者庁が公表した資料に掲載されている実例の一部は、以下のとおりです。

同種の電力料金の有利誤認表示としては、以前に北海道電力の広告を取り上げました。

電力の小売全面自由化と社内体制の整備の課題

なぜ電力会社で違法行為が続くのか?

2016年から電力の小売全面自由化が始まり、2020年から発送電分離が施行されたことに伴い、電力小売事業者各社による競争が活発になってきました。

従来どおりのシェアを確保したい、あるいは、電力の小売全面自由化によって新規に参入してきた電気小売事業者との競争に勝つためには、消費者に「わが社からの電力供給が最も安い」「わが社からの電力供給が最もお得」とアピールしたいと考えるのは必然です。

こうした動機が引き金となって、大手電力会社4社約1010億円もの課徴金を命じられたカルテルの問題や、今回の中国電力や北海道電力による有利誤認表示の問題が発生してしまった、と考えられます。

電力会社だけでなく電力小売事業者による訪問販売や電化勧誘販売での特商法違反など契約のトラブルが相次いでいるのも、電力の小売全面自由化による競争激化が背景になると考えて良いでしょう。

社内の表示管理体制整備の課題

表示管理体制の機能が不十分だったのではないかという「仮説」

中国電力が有利誤認表示を防止できなかった原因として考えられるのは、電力の小売の分野で他社と競争することを前提とした違法行為を予防する社内体制、今回のケースで言えば広告宣伝における表示の管理体制が十分に「機能」していなかったのではないかという理由です。

あくまでも「仮説」「推測」です。

というのも、電力の小売全面自由化が始まるまでは、各地域の電力会社が独占的に電力を供給していたため、電力会社は小売で競争することがありませんでした。

ところが、電力の小売全面自由化によって、否応なしに競争することを求められるようになりました。

そのためには、「安い」「お得」をアピールする内容の広告・宣伝、勧誘行為をしたくなります。

それ自体は違法ではありませんが、表示や勧誘次第では、景表法違反や消費者契約法・特定商取引法違反になってしまいます。

中国電力は上場会社ですから、景表法によって義務づけられている広告審査体制(表示管理体制)は整備されていたはずです。

しかし、これまで電力会社は電力供給の小売事業で競争をしていなかったが故に(ガス事業とのシェアの奪い合いなどはあったかもしれませんが)、会社として競争要素を含んだ広告・宣伝や勧誘の表現を考えることに不慣れな部分があったのではないか、そのため、広告・宣伝や勧誘で許される表示/許されない表示の判断基準が社内に浸透していなかったのではないか、社内での広告審査体制(表示管理体制)が不十分である/機能していなかったのではないか、などが考えられます。

以上は、あくまでも「仮説」です。

現実的にどう向き合っていくべきか

ここからは「現実」の話しです。

中国電力は、有利誤認表示を理由に措置命令や課徴金納付命令を受けた以上は、今までの体制が十分ではなかった、あるいは機能していなかったと捉えて、今までの体制を見直し再構築することは不可避です。

これは取締役の善管注意義務でもあり、再発防止に向けたガバナンス体制の構築義務でもあります。

景表法は表示管理体制の整備を義務づけ、消費者庁はガイドラインを定め、表示管理体制整備の具体的なポイントを示しています。

少なくとも、このガイドラインに書かれている内容に沿って、社内の表示管理体制を見直し、再構築を目指していく必要があります。

ガイドラインの中で特に目に付くのは、「表示等の内容を決定する又は管理する役員及び従業員のほか、決定された表示内容に基づき一般消費者に対する表示(商品説明、セールストーク等)を行うことが想定される者」に対して、景表法の「考え方」の周知・啓発をすることが定めている点です。

「周知・啓発」なので、従業員一人ひとりが理解できるよう教育をしていくということです。

その教育の対象者は、パンフレットやウエブサイトの内容を決定・管理するマーケティング担当や広報担当などの役員・従業員だけではなく、その内容をもとに一般消費者に商品説明やセールスなど勧誘を行う営業職も含みます

パンフレットやウエブサイトといった広告媒体に適切な表示をするだけでなく、営業職が一般消費者を勧誘する時に、一般消費者を誤認させてしまう説明をしないレベルにまで教育して、はじめてガイドラインにそった教育を実施したことになります。

また、周知・啓発して教育するのは、景表法の「知識」ではなく「考え方」です。

「この表示や勧誘はダメ、この表示や勧誘はOK」などと機械的に覚えさせるのではなく、なぜこの表示や勧誘が許されて、この表示や勧誘は許されないのか、その理由についても教えてて理解させることが必要です。

従業員教育でeラーニングや動画を使っている場合なら、法律の条文や問いに対する答えだけを教えている教材ではダメで、制度の趣旨や規制が設けられた背景まで解説している教材であることが望ましい、ということです。

中国電力に限らず、他の会社でも、このことは当てはまります。

eラーニングや動画の教材を選ぶ際には値段だけを決め手にするのでなく、その内容・質まで考慮したものを選ぶことが必要だと思います。

表示管理体制を整備する際の包括的なポイントや販売価格を表示する際のポイントは以前に記事にしましたので、そちらを参考にして下さい。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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