こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
GW間近ということもあり締切に追われた仕事が相次いでいるため、ブログを書く余裕がありませんでした(今もない)。
そんな中、2024年4月22日、GoogleLLCが申請した確約計画を公正取引委員会が認定するとのニュースが報じられましたので、少しだけ書きます。
独占禁止法の確約手続・確約計画とは何か
公正取引委員会が独禁法違反を理由に課徴金や排除措置命令の法的措置を課すためには、事実の調査や審査手続など時間や労力がかかり、また取消訴訟のリスクも残ります。
それらを回避するために2018年12月から施行されているのが確約手続です。
ザックリとした流れでいうと、次のとおりです。
- 公正取引委員会は、確約手続に付すことが適当であると判断するとき、すなわち、公正かつ自由な競争の促進を図る上で必要がある(独禁法違反被疑行為が既になくなっている場合において公正かつ自由な競争の促進を図る上で特に必要があるときを含む)と認めるときに、排除措置計画・排除措置確保計画の認定申請ができると通知します(確約手続通知)。
- 公正取引委員会は、事業者が提出した確約計画(排除措置計画と排除措置確保計画)が、確約手続通知で通知した内容に対応する措置内容として十分か(措置内容の十分性)、確約措置が実施期限内に確実に実施されるか(確保措置の確実性)を判断し、確約計画を認定/却下します。
- 確約計画が認定されると課徴金納付命令や排除措置命令は回避されます。
GoogleLLCが申請した確約計画を公正取引委員会が認定したという今回の報道は、2についてのものです。
確約手続の詳細や確約計画の前例については、以前にTOHOシネマズの確約手続に基づく確約計画の申請を取り上げた際に詳しく解説したので、そちらを読んでください。
GoogleLLCとヤフーとの間で何が起きたのか
GoogleLLCとヤフーとの間で起きた事案の概要は、公正取引委員会が公表した資料に詳細が記載されています。
資料内の当事者関係図がわかりやすかったので、以下に引用します。
時系列で整理すると、次のとおりです。
- 2009年7月、ヤフーに検索エンジン・検索連動型広告の技術を提供していた米ヤフーが技術開発等を停止することになった。そのため、ヤフーはGoogleLLCから技術を提供してもらうことにした。
- GoogleLLCとヤフーは契約に先立ち、公正取引委員会に独禁法違反にならないかを事前相談したところ(検索サービス市場での「独占」等に該当しないかという相談だと推測できます)、公正取引委員会は「Google LLC及びヤフーが当該技術の提供の実施後も、インターネット検索サービス及び検索連動型広告の運営をそれぞれ独自に行い、広告主、広告主の入札価格等の情報を完全に分離して保持することで、引き続き競争関係を維持する等の両者からの説明を踏まえ、当該技術の提供は独占禁止法上問題となるものではない」と回答した。
- 2010年7月22日、GoogleLLCの子会社GAPACとヤフーとが契約(GSA)を締結し、技術提供を開始した。
- GoogleLLCは、2014年11月1日、契約(GSA)の内容を、GAPAC及び自社の子会社であるグーグル合同会社を通じて変更した。それにより、遅くとも2015年9月2日から2022年10月31日までの間、ヤフーに対し、モバイル・シンジケーション取引に必要な検索エンジン及び検索連動型広告に係る技術の提供を制限することで、ヤフーがモバイル・シンジケーション取引を行うことを困難にしていた。
- モバイル・シンジケーション取引とは、「検索連動型広告の配信を行う事業者が、ウェブサイト運営者等から広告枠の提供を受け、検索連動型広告を配信するとともに、当該広告枠に配信した検索連動型広告により生じた収益の一部を当該事業者に分配する取引」です。アフィリエイト広告をイメージしてもらえばわかりやすいと思います。
GoogleLLCとヤフーとは検索サービスの市場、検索連動型広告の市場では、ライバルになる競業です。
公正取引委員会は競争関係が維持されれば独占禁止法に違反しないと回答していたにもかかわらず、GoogleLLCが2014年11月1日に契約を変更した結果、ヤフーに提供する技術を制限したことで、ヤフーは検索連動型広告を行うことが難しくなり、両社の競争関係が崩れた(維持されなくなった)、といえます。
そこで、公正取引委員会は、独占禁止法3条(私的独占)又は19条(不公正な取引方法第2項(その他の取引拒絶)又は第14項(競争者に対する取引妨害))として独占禁止法上問題となりうると判断し、確約手続に至ったのです。
GoogleLLCが申請し、公正取引委員会が認定した確約計画の概要は、公正取引委員会の公表資料に記載されています。
整理した内容は、以下のとおりです。こちらも公正取引委員会の公表資料からの引用です。
なぜGoogleLLCは独禁法違反被疑行為をしてしまったのか、その対策は
独占禁止法違反被疑行為をしてしまった理由として考えられるもの
GoogleLLCほどの会社であれば、独占禁止法違反行為をしてはいけないこと、何が独占禁止法違反行為かは理解しているはずです。
そうであるにもかかわらず、独禁法違反と疑われる行為をしてしまったのは、なぜでしょうか。
その理由の一つとして考えられるのは、2010年7月にGoogleLLCとヤフーとが契約(GSA)を締結する前に公正取引委員会に相談し、公正取引委員会から得た「Google LLC及びヤフーが当該技術の提供の実施後も、インターネット検索サービス及び検索連動型広告の運営をそれぞれ独自に行い、広告主、広告主の入札価格等の情報を完全に分離して保持することで、引き続き競争関係を維持する等の両者からの説明を踏まえ、当該技術の提供は独占禁止法上問題となるものではない」との回答の内容が、2014年11月1日に契約(GSA)の内容を変更する時点では、社内で引き継がれていなかったのではないか、ということです。
なぜ社内で引き継がれないのか
一般的に、会社の事業活動をしていれば、時間の経過や環境の変化とともに社内の経営判断が変わることはよくあることです。
「以前はダメと判断したけれど、今回はやってみよう」とか、その逆もあり得ます。
ところが、GoogleLLCとヤフーとの契約に関して言えば、時間は経過したけれども公正取引委員会の見解が変わったわけではなく、また法律が改正されたわけでもありません。
当時の公正取引委員会からの回答を尊重し、その後も契約の内容を変更してはならない案件でした。
当時の公正取引委員会からの回答が尊重されなかった理由としては、
- 当時の担当者が既に社内にはいない(異動している)
- 公正取引委員会に事前相談したことも、その回答があったことも記録として残されていない
- 公正取引委員会からの回答は記録に残っているが、ヤフーとの契約(GSA)と紐付けられていない(一緒にファイリングされていない)
- 契約変更時の担当者や責任者に独禁法に違反するのではないかとの問題意識がなかった/希薄だった/そもそも独禁法の知識がなかった
などが考えられます。
実際にはどれが本当の理由であるかは部外者にはわかりませんが、大きく外れてはいないのではないでしょうか。
時間が経過しても以前の法的判断を尊重できるために整備すべき体制
GoogleLLCに限らず、人材の流動化が進む昨今、1のように、事業の開始時点の担当者が事業の内容を変更する時点では社内にいないことはよくあります。
新しい人材にも独占禁止法が何かを意識づけるための4も不可欠ではありますが、会社は、人材の流動化を前提に、2や3を意識し、行政や外部の専門家への相談の記録を残し、かつ、その内容を案件と一緒にファイリングするなど組織的に管理していくことが必要な時代になったと思います。