東都大学野球連盟理事長が不倫疑惑で辞任。組織のトップに求められる「コンダクト・リスク」の意識と、トップを選ぶ際に組織が留意すべきポイントは。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年4月1日、週刊ポストにて、東都大学野球連盟の樋越理事長(当時)と、指導していた野球部の保護者との不倫疑惑が報じられました。

報道を受け、東都大学野球連盟は、同日、公式サイトに樫山理事長代行の名義で謝罪文を掲載し、また、4月6日の理事会で、理事長の辞任を承認し、樫山理事長代行を新しい理事長に選任しました。

組織のトップに求められる「コンダクト・リスク」の意識

組織のトップの不倫疑惑はコンプライアンス違反

東都大学野球連盟の理事長(当時)が報じられたのは、「指導していた野球部の保護者との不倫疑惑」です。

これは、指導していた野球部員、その父親からの期待や信頼を裏切る行為です(父親との関係では不法行為になりうる)。

また、東都大学野球連盟に属する各大学野球部を統率する団体のトップとして、各所属大学や大学野球ファンから求められる倫理観に背く行為です。

たとえ法令に違反していなかったとしても、期待や信頼を裏切る行為や倫理観に背く行為は、いずれもコンプライアンス違反です。

まして、昨年明るみになったタムロンの社長(当時)の経費流用問題や、ENEOS HDの会長(当時)、社長(当時)およびグループ会社の社長(当時)のハラスメント問題などを機に、現在、世の中の人たちは、組織のトップと異性との距離感や接し方を厳しく見ています。

その状況での連盟トップの理事長が不倫を疑われる行動をすることは、世の中の問題意識をキャッチアップできていない意味で、重大なコンプライアンス違反です。

なぜ組織のトップがコンプライアンス違反をしてしまうのか

組織のトップにまで成り上がれる人たちが、なぜ、こうしたコンプライアンス違反をしてしまうかというと、その理由としては、

  1. 組織のトップになったことによる奢り、昂り(女性と遊んでナンボという気持ち)
  2. 組織のトップに対する牽制が効いていない
  3. 不倫や女性問題をコンプライアンス違反だと認識していない(価値観の古さ)
  4. 期待・信頼を裏切る行為や倫理観に背く行為を「リスク」と認識していない

などが考えられます。

長期政権になりトップが人事権などを一手に握るようになると「誰もものを申せない」組織になり、2の「牽制が効かない」ことが起こりやすくなります。

2021年に明るみになった日本大学田中理事長(当時)による背任事件(最終的に背任は不起訴所得税法違反のみが有罪、日大から損害賠償請求訴訟中に死亡)、2022年に問題になったTOKAI ホールディングスの例や、2023年に問題になったビッグモーターの例は、その典型例です。

とはいえ、今回不倫疑惑が問題になった理事長(当時)は2023年3月に就任したばかりなので、2の「牽制が効いていない」という可能性は低いかもしれません。

「コンダクトリスク」という意識が必要

他方、1と3はセットなのかもしれません。私も男性なので女性と遊びたい気持ちはよくわかります。

しかし、セクシャルハラスメントと同じように、女性との距離感や女性との不適切な関係も組織のトップはやってはいけないことと価値観や認識をアップデートする必要があります。

そのうえで、組織のトップが女性との距離感を間違え、また不適切関係を持ってしまえば、それは、世の中の人たちやファンからの信頼や期待の裏切りであり、組織のトップ自身にも組織にとってもリスクである、との認識を持つ必要があります。

こうした信頼や期待を裏切ることが組織やトップにとってのリスクであるとすることを「コンダクト・リスク」と表現します。

何かと最近は「経営トップにはリスク感覚が必要だ」「リスクマネジメントが重要だ」などと言われますが、そのリスクには、法令リスクや経営リスクだけではなく、コンダクト・リスクも含まれると、リスクの内容を広く捉える必要があります。

「コンダクト・リスク」の意識がないと、法令違反ではないからといって、不倫や女性との不適切な関係を起こしてしまうのでしょう。

トップを選ぶ際の「コンダクト・リスク」の意識

この「コンダクト・リスク」の意識は、組織のトップを選ぶ側にも必要です。

組織のトップを選ぶ際に、「組織の期待や信頼、世の中の人たちの期待や信頼を裏切らない人か」を評価の要素にするということです。

例えば、ENEOS HDの問題が起きたときに、取締役の選考プロセスとして、仕事ができるかどうかだけではなく、酒を飲んだときに性の問題を起こしやすい人かどうか、候補者の素の部分をも評価の要素とすべきという趣旨のことをブログ記事に書き、また日経新聞にもコメントさせていただきました。

これと同じように、(酒を飲んでいないときでも)女性問題を起こしやすいかどうか、(仮に女性好きであったとしても)立場や地位を理由に自分を律することができる人であるかどうか、女性に対して脇が甘くないかなどは、今後は、組織のトップを選考する際には評価要素にしていかなければならない時代なのだと思います。

今や、ハッキリした根拠の有無や事実が有耶無耶なまま、過去の女性問題などを取り上げる雑誌記事やネットニュース、それを見たSNSの反応などによって、スポーツ選手や芸能人の活動に支障が生じる時代です。

企業、組織にとっては対岸の火事ではありません。

火の無い所に煙は立たぬではありませんが、企業や組織の人事を考える際には、そうしたリスクがあることを認識しなければならない、と感覚をアップデートしてください。

私も日頃の行動を気をつけようと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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