日産自動車が下請事業者36社から「割戻金」の名目で下請代金を減額したことについて、公正取引委員会が勧告。他社は自主的な社内調査をして、必要に応じて自発的申出(下請法版リーニエンシー)を。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2024年3月7日、公正取引委員会が日産自動車に対して下請法に基づく勧告を行いました。

日産自動車が、2021年1月から2023年4月までの間、部品等の製造を委託していた下請事業者の責に帰すべき事由がないのに、下請事業者36社に支払うべき製造委託料(下請代金)から、自社の原価低減を目的として、「割戻金」の名目で総額30億2367万6843円を減額していたことが、下請法が禁じる下請代金の減額に該当すると判断されたのです。

公正取引委員会が公表した資料の概要図がわかりやすかったので、引用します。

テレ東のWBSでは実態が生々しく報じられています。

名目、方法、金額の多寡に関わらず下請法違反は成立する

公正取引委員会の概要図の右下にも記載されていますが、「割戻金」以外にも、「原価低減協力」「値引き」「協賛」「歩引き」等の名目や方法、金額の多寡にかかわらず、下請事業者の責に帰すべき事由がないのに下請代金を減額することは、すべて下請法違反です。

下請事業者が減額に合意していたとしても、下請法違反です。

どのような場合に下請法が禁じる下請代金の減額に該当するのかは、家電量販店のノジマが公正取引委員会から勧告を受けたケースを取り上げた記事で解説していますので、そちらを参考にして下さい。

他社が行うべき対策

自主的な社内調査の実施

日産自動車のケースは複数のメディアで報道されています。

この報道を見て、下請代金を減額すると下請法違反になることは知っていたけれど、これほど大きなニュースとして報じられるのだと事の重大性に初めて気がついた会社もあるかもしれません。

また、下請代金の減額が下請法で禁止されていることは知っていたけれど、このような名目や方法での減額が下請法違反になると初めて理解した会社もあるかもしれません。

そうした会社が今すぐに行うべきことは、自主的な社内調査の実施です。

下請事業者とやり取りをしている現場の担当者が下請法の知識はあるけれども、具体的な事案へのあてはめができておらず、気がつかないうちに下請法違反を行っている可能性があるからです。

下請法違反に限らず、コンプライアンス違反の現場では、「コンプライアンス研修をされたので法律の知識は知っていたけれど、自分が行っていることがそれに該当するとは思わなかった」という、あてはめができていないことによる無自覚なケースはよく見られます。

公正取引委員会への自発的申し出(下請法版リーニエンシー)

自主的な社内調査の結果、下請法違反となる下請代金の減額をしている事実を確認できた場合には、ただちに違反となる下請代金の減額を止め、減額していた分を下請事業者に支払い、再発防止策を講じた上で、公正取引委員会に自発的に申し出してください。

公正取引委員会が調査に着手する前に自発的に申し出た場合には、要件を充たしていれば、公正取引委員会は勧告しないことを明らかにしています(下請法版リーニエンシー)。

自発的申出によって公正取引委員会からの勧告を受けないために求められる要件は、以下の5つです。

  1. 公正取引委員会が当該違反行為に係る調査に着手する前に、当該違反行為を自発的に申し出ている。
  2. 当該違反行為を既に取りやめている。
  3. 当該違反行為によって下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じている。
    • 下請代金を減じていた当該事案においては、減じていた額の少なくとも過去1年間分を返還している。
  4. 当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講じることとしている。
  5. 当該違反行為について公正取引委員会が行う調査及び指導に全面的に協力している。

5つの要件の解釈や運用については公正取引委員会がFAQを公表しています。

5つの要件とFAQの内容を見ると、公正取引委員会から勧告される前に、勧告と同じ内容を自発的に行うことを公正取引委員会は求めている、と理解できます。

4の再発防止策として具体的に考えられるのは、

  • 下請法違反の事実を確認し、かつ、今後は下請法違反行為をしないことを取締役会で確認する決議を行う
  • 定期的な社内監査と、役員と現場の担当者に対して下請法に関する定期的な研修を行う
  • 下請事業者に与えた不利益を回復するための措置を講じたこと(減額した分を支払ったこと)を、役員と従業員に周知し、かつ、下請事業者にも通知する

などです。

ポイントとなるのは、

  • 現場の担当者だけではなく、現場に指揮命令をする、あるいは経営方針を定める役員(取締役、執行役員)も対象として、下請法に関する知識を研修を実施すること
  • 現場の担当者だけではなく、役員や、下請事業者とのやり取りを見て下請法違反行為に気がつくことができるであろう他の従業員や下請事業者にも、下請法違反があったことと、それによって講じた不利益回復措置の内容を共有すること

です。

狙いは、全社的、かつ、取引先をも巻きこんで、下請法違反が二度と起こらない体制や環境を整えていくことです。

そのためには、下請事業者にも社内の内部通報窓口の連絡先を伝え、「わが社の担当者から下請法違反となる行為を要求されたときには遠慮なく通報してほしい。通報しても不利益な取扱いには絶対にしない」と運用していくことも望ましいです(既に行っている会社もあります)。

窓口の連絡先だけ伝え、下請事業者から通報があったら通報をしてきた下請事業者との取引を止めるようなことがあれば、それ自体が下請法違反や公益通報者保護法違反となるおそれがあるので、その点も注意してください。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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