こんにちは。弁護士の浅見隆行です。
2024年2月21日、公正取引委員会が、大王製紙の100%子会社であるダイオーロジスティクスに対し、下請法違反(役務の利用強制)に基づく勧告を行いました。
公正取引委員会によると「役務の利用強制」による勧告は国内初、と報じられています(2024/02/21付け愛媛新聞)。
ダイオーロジスティクスによる「役務の利用強制」
公正取引委員会が公表した資料によると、ダイオーロジスティクスが行った「役務の利用強制」の概要は以下のとおりです(概要図は公表資料がわかりやすかったので引用します)。
- 大王製紙の100%子会社であるダイオーロジスティクスは、大王製紙から請け負った運送業務を、下請事業者2社に運送業務を再委託していた。
- ダイオーロジスティクスは、2020年11月以降、大王製紙以外の事業者からの貨物の運送を請け負う外販取引の売上げ・利益を拡大することを目的に、外販取引の売上目標などを定め活動していた。
- ダイオーロジスティクスは、2021年1月以降、下請事業者2社に対して、支店長と担当者が各々の目標金額を提示し、担当者が複数回の面談により目標の達成状況を確認し、かつ、下請事業者が大王製紙以外の事業者から受注した貨物の運送について、ダイオーロジスティクスが提供する貨物の運送を利用するよう要請していた。
- 下請事業者2社は、2021年1月から2022年8月までの間、大王製紙以外の事業者から受注した貨物の運送を、ダイオーロジスティクスに再委託した。下請事業者2社が利用した金額は、総額で6995万7800円。
- ダイオーロジスティクスは、2023年3月31日、下請事業者2社に対して利益相当額を返済した。
「役務の利用強制」と認められる方法と、注意すべきポイント
「購入又は利用を余儀なくさせている」が基準
上記3のとおり、ダイオーロジスティクスは、2021年1月以降、下請事業者2社に対して、支店長と担当者が各々の目標金額を提示し、担当者が複数回の面談により目標の達成状況を確認し、かつ、下請事業者が大王製紙以外の事業者から受注した貨物の運送について、ダイオーロジスティクスが提供する貨物の運送を利用するよう要請していたことが、「役務の利用強制」と判断されました。
一見すると、目標を伝えただけ、面談しただけ、下請事業者に要請しただけのようにも思えます。
しかし、公正取引委員会の下請法運用基準第4.6(1)では、「下請取引関係を利用して、事実上、購
入又は利用を余儀なくさせていると認められる場合」は「購入強制」や「役務の利用強制」に該当するとされています。
今後の取引停止などを明示しなくても、親事業者が下請事業者に「事実上、購入又は利用を余儀なくさせている」ならそれだけで「下請取引関係を利用して」であり「強制」です。
では、目標を伝えた、面談、目標の達成状況の確認、下請事業者への要請は「購入又は利用を余儀なくさせている」と言えるでしょうか?
これに対する判断の目安が、下請法運用基準が示す以下の例です。
下請法運用基準が示す「購入強制」「役務の利用強制」の例
下請法運用基準では、以下の方法を「購入強制」や「役務の利用強制」の例に挙げています。
ア 購買・外注担当者等下請取引に影響を及ぼすこととなる者が下請事業者に購入又は利用を要請すること。
下請法運用基準第4.6(2)
イ 下請事業者ごとに目標額又は目標量を定めて購入又は利用を要請すること。
ウ 下請事業者に対して,購入又は利用しなければ不利益な取扱いをする旨示唆して購入又は利用を要請すること。
エ 下請事業者が購入若しくは利用する意思がないと表明したにもかかわらず,又はその表明がなくとも明らかに購入若しくは利用する意思がないと認められるにもかかわらず,重ねて購入又は利用を要請すること。
オ 下請事業者から購入する旨の申出がないのに,一方的に物を下請事業者に送付すること。
アとイは、今回のダイオーロジスティクスのケースそのものです。
アは、「下請取引に影響を及ぼすこととなる者」が「要請」していれば、「購入又は利用を余儀なくさせている」と判断しています。
「下請取引に影響を及ぼす者」ではなく「及ぼすこととなる者」なので、決裁権者である必要はなく「担当者」であっても含まれます。
イの目標額・目標量は本来は社内目標に留めるべき事柄です。
それを下請事業者に提示することは、目標の達成への協力を言外に求めているのと同じなので、「購入又は利用を余儀なくさせている」ことになります。
今回のケースでは、支店長が目標金額を提示しただけでなく、担当者が複数回面談し目標の達成状況の確認までしているので、「購入又は利用を余儀なくさせている」程度が強いと言ってもいいでしょう。
ウは、不利益取扱いを示唆しているので「購入又は利用を余儀なくさせている」そのものです。
エは、親事業者の担当者が熱心であればあるほどやってしまいがちです。
営業担当者は、取引の相手となる者を説得して売上に繋げたい意識で、何度も(重ねて)要請することは、身体に染みついていると思います。
ところが、説得したい相手が下請事業者である場合には、その熱心な営業活動をセーブしないと違法になってしまうおそれがあります。
下請法運用基準では、更なる具体例も示されています。
- 親事業者は,下請事業者に対し,自ら指定するリース会社から工作機械のリース契約を締結するよう要請したところ,下請事業者は既に同等の性能の工作機械を保有していることから,リース契約の要請を断ったにもかかわらず,再三要請し,リース会社とのリース契約を締結させた。(下請法運用基準第4.6(2)6-3(2))
- 親事業者は,自社に出資している保険会社が扱っている船舶保険への加入を船舶貸渡契約を結んでいる貸渡業者に対して要請し,貸渡業者は既に別の保険会社の船舶保険に加入しているため,断りたい事情にあるにもかかわらず,度々要請し,貸渡業者に親事業者の薦める保険に加入させた。(下請法運用基準第4.6(2)6-8)
いずれも取引の相手となる者が「断った」「断りたい」のに、繰り返し「要請」して契約締結に至ったケースです。
また、この2つの例からは、自社商品の購入や自社サービスの利用を強制する以外に、自社が指定する第三者の商品の購入やサービスの利用を強制することも「購入又は利用を余儀なくさせている」に含まれることを理解できます。
オは、「送りつけ商法」なので、「購入又は利用を余儀なくさせている」ことは明白です。
下請法が適用される場面では、親事業者が下請事業者よりも力関係が強いことは否定できません。その関係を利用して様々な「お願い」「要請」をしてしまうことはありがちですが、下請法運用基準に照らすと、そうした「お願い」「要請」は慎重にしなければならないことを理解してください。