デンソー製燃料ポンプの不具合で自動車メーカー各社のリコールが国内で合計約430万台に達す。金型を変更したことが原因の一つであることから想像できること。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

デンソー製燃料ポンプの不具合を理由にした自動車メーカー各社によるリコールの届出が、2024年1月26日時点で、国内で約430万台に達しました。

2023年7月30日にはデンソー製燃料ポンプを搭載したホンダの軽自動車N-BOXが高速道路でエンストし死亡事故が発生していたことも、12月13日に明らかになりました。

三菱自動車、タカタという先例

今回のデンソー製燃料ポンプの不具合とそれによる死亡事故に類似する先例としては、三菱自動車リコール隠しに関わる死亡事故とタカタ製エアバッグの異常破裂のケースがあります。

三菱自動車リコール隠しに関わる死亡事故

三菱自動車リコール隠しに関わる死亡事故は、2つあります。

1つは、2002年1月に発生した、三菱自動車の走行中のトレーラーのハブが破損したことによりタイヤが脱落し、母子に直撃し死傷させた事故です(当時、三菱ふそうは三菱自動車の社内カンパニーだった。2003年に分社化。)。

もう1つは、三菱自動車がトラックのクラッチ系部品の欠陥があることを認識しながら放置し、その後も運輸省(当時)に不具合を隠蔽していたところ、2002年10月に山口県で走行中のトラックが制御不能になり運転手が死亡した事故です。

母子死傷事故では、

  • 過去に事故が続発していたことなどなどを理由に、業務上過失致死傷罪により三菱自動車市場品質部長と市場品質部グループ長が禁錮1年、執行猶予6月に処せられ(最決2012年2月8日)、
  • 死傷事故後に国交省に事故原因や同種の事故の有無について虚偽報告をした道路運送車両法違反により、三菱自動車から分社化した三菱ふそう元会長、三菱自動車元常務取締役、元執行役員の3名が各罰金20万円に処せられました(東京高裁2008年7月15日最決2010年3月11日 ※最決が判例データベースに収録されていないため日付けは新聞記事より)。

トラック制御不能死亡事故では、

  • 業務上過失致死罪により、三菱自動車元社長と元副社長が禁錮3年、執行猶予5年、元執行役員が禁錮2年6月、執行猶予4年、三菱ふそう元会長が禁錮2年、執行猶予3年に処せられました(横浜地判2008年1月16日)。

タカタ製エアバッグ異常破裂

部材の不具合により自動車メーカー各社にリコールが拡大したケースとしては、2004年に発生したタカタ製エアバッグの異常破裂により国内外で死傷者が発生し、自動車メーカー各社がタカタ製エアバッグを搭載した自動車のリコールを行ったケースがあります。

タカタは、当時世界トップのエアバッグメーカーだったにもかかわらず、このケースを機に、2017年に民事再生手続き開始を申立て、2018年4月にすべての事業をJoyson Safety Systems Japanに譲渡することになりました。

デンソー製燃料ポンプでの死亡事故はどうなるか?

デンソーの2024年1月26日付けリリースによると、デンソー製燃料ポンプに関するリコールが国内で初めて行われたのは、2020年3月4日付けトヨタによるリコールです。その後、2020年5月28日にホンダによるリコールが行われ、その後他社に拡大していきました。

死亡事故が発生したN-BOXの燃料ポンプについてホンダが最初のリコールを行ったのは2022年6月2日です。

万が一にも、N-BOXの死亡事故が起きた2023年7月30日以前にデンソーが燃料ポンプの不具合を認識しながら放置していたなら、三菱自動車リコール隠しに関わる死亡事故(特にトラック制御不能死亡事故)と同様の顛末になる可能性がありました。

しかし、時系列でみれば、ホンダによるリコール後に死亡事故が発生したことになります(事故車両がリコール対象車両に該当するのかは、わかりません)。

三菱自動車の死亡事故のケースとは状況が異なりそうです。

他方、デンソーが不具合を認識していなかったとしても、デンソー製燃料ポンプが自動車各社に搭載されていることを考慮すると、今後自動車各社によるリコールが拡大していったときには、タカタ製エアバッグと同様にデンソーの財務面に大きなダメージを与えるリスクを孕みます。

とはいえ、デンソーは既に約2,900億円を特損として計上しても現時点で余裕のある財務状況を維持できていること、実際にはグループを挙げて支援するでしょうから、タカタのような顛末にはならないとは思います。

あと、詳しくはわからないので素朴な疑問ですが、2022年1月17日に愛三工業に譲渡することを開示したフューエルポンプ事業には、今回の燃料ポンプは含まれるのでしょうか???直訳したら燃料ポンプなので、気になります。

デンソー製燃料ポンプの不具合の原因は金型の変更

デンソーは、燃料ポンプの不具合の原因について、

今回のリコールの対象となっております燃料ポンプの不具合は、2020年3月以降に実施された一連のリコールと同様、燃料ポンプを構成する部品の1つであるインペラにおいて、樹脂密度の低いものが燃料によって変形し、作動不良に繋がることがあり、最悪の場合、走行中エンストに至るおそれがあるというものです。

当社製燃料ポンプに関する対応について(続報)

と説明しています。

朝日新聞は、

デンソーなどによると、燃料を吸い上げるための「インペラ」(樹脂製羽根車)という部品を作る金型を変更したところ、樹脂の密度が低いものが生産されてしまったという。

(中略)

 国交省によると、一連の不具合は、樹脂密度が低いインペラが、燃料に浸されることで膨張。インペラがポンプケースと接触して回転しなくなった結果、燃料を吸い上げられなくなり、エンジンに燃料が届かずにエンストに至る可能性があるという。

2024年1月27日朝日新聞デジタル

と報じています。

より専門的には、日経クロステックの解説がわかりやすいです(日経新聞有料会員限定記事)。

金型の変更と品質の維持

デンソーが燃料ポンプを構成する部品であるインペラを製造するための金型を、いつ、どのような理由で変更したのか、その背景は、まだ明らかになっていません。

  • インペラの形状変更に伴って金型を変更したのか
  • 変更した金型の設計や金型の製造工程に問題があるのか
  • 金型を製造する際にコストカットをしたために金型の強度や品質が劣ったのか
  • 金型には問題がなくインペラの原材料である樹脂に問題があったのか
  • インペラの製造工程に問題があったのか
  • 製造後の品質検査に問題があったのか
  • これまでも樹脂密度の低いインペラがあったけれども従来は変形しなかったものが変形するようになってしまったのか

など・・・いろんな理由を想像することができます。

想像の域を出ませんが、上記で想像した理由のうち、コストカットにより金型の強度や品質が劣ってしまったことが原因だったとしたら、コストカットにより利益を出すことを重視するあまりに品質を犠牲にしたことになります。

もしそうだとすると、軽自動車で収益を出すために短期開発に傾倒し、その結果、認証不正に繋がったダイハツ工業と構造は同じように見えてしまいます。

あくまでも想像であれこれ考えているだけなので、最終的に調査報告書などが公表されるのを待ちたいと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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