日本山村硝子が元従業員による産業スパイによって、中国企業にガラス瓶を軽量化する技術が流出。不正競争防止法違反で逮捕。海外からの産業スパイ対策として企業が抑えるべきポイント。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年10月5日、日本山村硝子の元従業員とその妻が、ガラスびんの軽量化に関する固有の製造技術の情報(営業秘密)を社外に持ち出したとして不正競争防止法により逮捕されました。

元従業員が「営業秘密」を不正取得、不正開示するなどして不正競争防止法違反で逮捕される事案は相次いで発生しています。

2023年12月5日には、アルプスアルパインの元従業員が車載電装機器の設計データを不正取得したとして、不正競争防止法違反で逮捕されています。

日本山村硝子よりもアルプスアルパインのほうが新しく発生したケースですが、日本山村硝子のほうが興味深い内容なので、少し前の事案ですが、今回はこちらを取り上げます。

日本山村硝子の技術情報流出

報道内容を整理すると、日本山村硝子の技術情報が流出した経緯と当事者関係図は、次のとおりです。

  • 元従業員Y1は2003年に日本山村硝子に入社。2013年から2017年7月まで海外チームに所属し、中国で技術支援契約に関する営業、通訳などの業務に従事していた。
  • 日本山村硝子は中国ガラス瓶メーカーAと技術支援契約を締結し、元従業員Y1が担当していたが、契約は打ち切り(終了)。
  • 2016年5月、元従業員Y1の妻Y2が代表取締役をするガラス製造技術コンサルティング会社「アズインターナショナル」が、中国ガラス瓶メーカーAとライセンス契約。
  • 2016年6月28日19時05分ころ、元従業員Y1は、中国などから日本山村硝子のシステムにアクセス。軽量瓶の成形技術に関するプログラムを、私用メールアドレスに送信。
  • 2016年8月〜2021年4月、中国ガラス瓶メーカーAからアズインターナショナルに、20回、合計1億8960万円が支払われる。
  • 2022年6月に情報提供や社内調査により発覚し、11月に日本山村硝子は元従業員Y1を懲戒解雇。
  • 2023年10月5日、元従業員Y1と妻Y2が不正競争防止法違反で逮捕
    • 元従業員Y1も妻Y2ともに元中国籍で日本に帰化している

報道では、元従業員Y1とその妻Y2が代表するアズインターナショナルから中国ガラス瓶メーカーAに情報が流出したことについては明らかになっていません。

2016年5月にアズインターナショナルと中国ガラス瓶メーカーAとはライセンス契約を締結しているので、1億8960万円はライセンス料という言い訳があるかもしれません。

しかし、中国ガラス瓶メーカーAから1億8960万円もの対価を得られる価値のある技術情報を、コンサルティング会社であるアズインターナショナルが保有していたのかは疑問です。

むしろ、ライセンス契約を結んだ翌月の6月に元従業員Y1が日本山村硝子のガラス瓶軽量化技術を私用メールに転送していること、8月以降に中国ガラス瓶メーカーAからアズインターナショナルに合計20回1億8960万円もの額が支払われていることからすると、8月前後にアズインターナショナルから中国ガラス瓶メーカーAに何かが提供され、その対価として1億8960万円が支払われたのだと推察できます。

産業スパイ対策として日本企業が抑えておくべきポイント

産総研の産業スパイ事件との共通点

夫婦で海外企業(中国企業)の産業スパイになっている点は、6月に研究員が逮捕された産総研のケースと共通しています。

産総研のケースは、中国籍研究員が軍事転用できる技術を入手し、中国の化学製品メーカーに情報を流出し、中国の化学製品メーカーが中国で特許を取得した、というものでした。

このケースでは、化学製品メーカーの日本代理店は中国籍研究員の妻が代表取締役をしていました。

海外企業からの産業スパイへの対策

日本山村硝子と産総研の2つのケースからは、海外企業の産業スパイである従業員は、単独で産業スパイをするのではなく、家族を協力者にすることがあるということがわかります。

そうだとすれば、日本の企業が産業スパイ対策として考えるべきは、研究職・技術職などを中心に「営業秘密」や技術情報全般に携わる従業員に、家族が他社で役員をしていないか、主要株主ではないかなどを調査、確認することです。

上場会社の場合、財務の健全性やガバナンスの観点から、関連当事者取引を調査し、その開示をします(会社計算規則や財務諸表等規則、開示府令)。

それと同様に、情報セキュリティの観点から、任意に社内調査(従業員にヒアリングor調査票を渡す)のです。

その結果、他社で役員をしている・主要株主であることとの回答があったときには(正しい回答をしてくれなければ、それ以上は望めませんが)、その会社がどのような会社であるかを調べ、情報漏えいに繋がる可能性がある会社であることがわかったときには、その従業員を「営業秘密」や技術情報にアクセスできないように権限や役割を見直す、異動や配置転換することが望ましいです。

高度に専門性の高い技術や軍事転用できる技術などを扱っている企業は、情報セキュリティにそれくらいの労力を割いていいのではないかと思います。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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