食中毒マフィン、大麻グミと食品の安全性に関わる事案が相次ぐ。食品を製造・提供する者の社会的責任について。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

2023年11月に入って、いわゆる「食中毒マフィン」と呼ばれるケースと、「大麻グミ」と呼ばれるケースが相次いで発生しました。

いずれのケースも体調不良者が発生している点で共通しています。

そこで、食品を製造・提供する者の社会的責任について考えます。

食の安全に関わる2つの事案

食中毒マフィン

2023年11月11日・12日に東京ビッグサイトの出店ブースで、Honey×Honey xoxo(ハニーハニーキス)が製造・販売したマフィンから体調不良者などが発生したことについて、11月14日厚労省(保健所)に届出があり、11月16日以後、食品衛生法違反のおそれがあるとして約3000個が回収の対象となりました。

厚労省は、このケースの「健康への危険性の程度」を「CLASS Ⅰ」に分類しました。

食品衛生法に基づく自主回収(リコール)報告制度では、営業者が届け出た事案は原則として「CLASS Ⅱ(喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が低い場合)」に分類され、重篤な健康被害等の可能性又は死亡の原因となり得る可能性が高いと判断したとき(主に食品衛生法6条に違反するとき)に「CLASS Ⅰ」に分類します。

その意味では、単なる食中毒ではなく、健康危害の可能性が高い事案と言えます。

大麻グミ

11月には、2023年に入ってから、大麻由来の化合物「HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)」を含んでいるグミを食べた人に体調不良者が相次いで発生していることが明らかになりました。

11月17日、厚労省麻薬取締部が東京や大阪にある販売店に立入検査をし、薬機法に基づいて、成分の検査結果が出るまでの間、販売停止命令を出しました。(薬機法72条2項3項の命令なのか?69条の3の緊急命令なのか?)

11月20日には、近畿厚生局麻薬取締部が大阪市内の製造販売会社「WWE」に立入検査を実施し、薬機法に基づく販売停止命令などを出しています。

※11月22日追記

厚労省は、11月22日に、HHCHを指定薬物とするように省令を改正しました。改正省令が施行される12月2日以後は、医療等の用途以外の目的での製造、輸入、販売、所持、使用等が禁止されます。

厚労省の迅速な動きを見ると、健康への危険性の高い成分が使用されていた事案といえます。

法的責任と社会的責任

マフィンとグミの違いはあるとはいえ、人の口に入れるものですから、人の健康に危害が生じれば、そのときには製造・販売業者としての法的責任と社会的責任が問われます。

法的責任

健康危害が生じれば、食品衛生法や薬機法の問題に留まらず、最終的には製造物責任や民法上の不法行為の問題になり得ます。

また、法人(会社)だけではなく、代表者個人の対第三者責任という法的責任にも発展する可能性があります。

社会的責任とダスキン事件判決

法的責任と同じく、両社にとって重要な視点は、食品を製造・提供する者としての社会的責任です。

国内では認可されていない食品添加物(TBHQ)の混入が判明した後も大肉まんの製造・販売を継続したことが問題になったダスキン事件判決(大阪高判2006年6月9日)では、裁判所は、食品会社の社会的責任について以下のように判示しています。

食品の安全性の確保は,食品会社に課せられた最も重要で基本的な社会的な責任である。したがって,食品会社は,安全性に問題のある食品が製造,販売されないように予め万全の体制を整えると共に,万一安全性に疑問のある食品を販売したことが判明した場合には,直ちにこれを回収するなどの措置を講じて,消費者の健康に障害が生じないようにあらゆる手だてを尽くす責任があることはいうまでもない。また,食品の安全性についての判断は,科学的な知見に基づいて的確になされることはもとより,食品衛生法及びその他の法令通達等の基準に従ってなされるべきであることも当然のことである。そして,第2の4の前提事実の項で認定判断したとおり,TBHQは未認可食品添加物であり,これが混入した「大肉まん」の製造,販売は食品衛生法に違反し,人の健康を損なうおそれのある違法行為に該当する。したがって,これの混入が判明した時点で,ダスキンは直ちにその販売を中止し在庫を廃棄すると共に,その事実を消費者に公表するなどして販売済みの商品の回収に努めるべき社会的な責任があったことも明らかである。これを怠るならば,厳しい社会的な非難を受けると共に消費者の信用を失い,経営上の困難を招来する結果となるおそれが強い。

大阪高判2006年6月9日

社会的責任について言及しているのは、太文字に加工した部分です。

ダスキン事件は、国内では認可されていない食品添加物の混入が問題になったケースです。

しかし、裁判所が判示した社会的責任についての考え方は、食品に使用されている原材料が適法なものである場合にも当てはまります。

人の口に入れる物を製造・販売している者である以上、体調不良者が相次いで発生するなど人の健康に危害が生じていることが確認できたなら、またそのおそれがあることが確認できたなら、その時点で、購入者の安全を意識した対応を講じるべき社会的責任を負うのです。

マフィンの場合

ハニーハニーキスがSNSに投稿した謝罪文(以下、スクリーンショット。なお、投稿したSNSのアカウントは11月21日に削除されました)の文面からは、人の口に入れる物を製造・販売し、健康上の安全に配慮しなければならない責任ある立場であるとの自覚が到底感じられません。

個人店なので、出店期間が終わった瞬間には、頑張った満足感に溢れていたのでしょう。

そのため、お礼を言いたい気持ちはわかります。そこにハートマークを使いたい気持ちもわかります。

ところが、この謝罪文が投稿がなされた時点では、マフィンを食した人から体調不良者が発生していることや、販売されたマフィンの見た目にも糸を引くなどの問題があることが話題になっていました。

そうだとすれば、その時点で謝罪文を投稿するには文面や表現方法を配慮を欠いていたと言わざるを得ません。

ダスキン事件の判示になぞらえて言えば、食品会社に課せられた最も重要で基本的な社会的責任である食の安全の確保ができていなかったことへの自省の意識が希薄であるとも言えます。

その結果、対外的な謝罪としては誠実さを感じない結果となり、SNSでの炎上は止まらず、ネットニュースでも大きく取り上げられました。

もっとも、ハニーハニーキスは11月14日には保健所に届け出て、すぐに回収を行おうとしました。その態度には、まだ救いの余地があります。

これは、食品衛生法が改正され2021年6月1日から法律上義務づけられている、自主回収(リコール)報告制度に基づく対応です。

この報告をした後、当初は郵送での商品を回収しようとしていました。

この自主回収報告制度を形式的に適用すれば、ハニーハニーキスが、なんとかして販売済みの製品を回収しようとした動きは理解できます。

しかし、この動きに対しても、「菌の付いた商品を送らせるのか」などと不安の声が挙がり、更なる批判が集まりました。

その後、消費期限を徒過したこともあり、ハニーハニーキスは郵送による回収を止め、お客様に廃棄を求める対応に変えています。批判の影響もあったのだろうと思われます。

世の中の人たちの対応を見ながら、また知識を学びながら臨機応変に誠実に対応しようとしている姿勢は評価できます。

一連の炎上の影響もあってか、ハニーハニーキスは、11月21日に、X(Twitter)とInstagramのアカウントを予告なく削除しました。

厚労省のサイトには、XやInstagramのアカウントが製品回収の告知に関わる情報発信元として掲載されていたこともあり、アカウントの削除が明らかになったときにはSNSでは悲観する声も見られました。

他方で、削除した11月21日に、ハニーハニーキスは専用サイトを開設し、修正した謝罪文や連絡先を掲載しています。

こちらは、浮かれた印象を与える文章ではなく、反省している印象を与える表現内容になっています。

そうはいっても、SNSアカウントから自社サイトに情報発信源を変えること、そのためにSNSのアカウントを削除すること、回収を止めて廃棄に変更することなどを、いずれも予告なしに行ってしまったことは広報の仕方としては適切さに欠けていたように思います。

個人店舗であるが故に多くを求めるのは厳しいかもしれません。

大麻グミの場合

グミを製造・販売した「WWE」の社長が、11月17日にメディアの取材に答えました。

社長は、取材に対して、

  • 「違法ではなく、今後も継続して販売する」
  • 「弊社商品ページには、未成年と初心者の方および慣れてない方への使用、他人への譲渡・二次配布は控えるような注意書きをしております。お酒や市販薬と同じで、用法用量を守って正しくお使いくださいとしか、我々は言えないです」
  • 「我々が販売している物は、違法な成分ではないので、脱法ではない」

などと答えています。

たしかに、現時点では、大麻由来の化合物「HHCH(ヘキサヒドロカンナビヘキソール)」は規制対象外の成分なので、それをグミに使用しても違法ではありません。

しかし、体調不良者が相次いで発生していることについて、用法用量を守るようにとだけ言うのは、グミを口にした人に責任を転嫁しているように受け取られてしまいます。

食品を製造・販売している会社の社会的責任を意識すれば、少なくとも体調不良者の体調を慮る言葉や、いたわりながらの言葉の選択をした方が良かったのではないでしょうか。

また、たとえ成分が規制対象外であったとしても、体調不良者が相次いで発生している事実を認識した後には、ダスキン事件判決が指摘した販売中止、回収、公表などの対応を自主的に行うべきだったでしょう。それが社会的責任です。

焼肉酒家えびすの事件

WWEの言い分に関する報道を見ながら、2011年にユッケを食べた181人が集団食中毒となり5人が死亡した焼肉酒家えびす(株式会社フーズ・フォーラス)の事件を思い浮かべました。

死者が出ているにもかかわらず、社長が当初謝罪すらしなかったところ炎上。一転して、翌日には土下座して謝罪したものの、パフォーマンスと批判されたケースです。

最終的に、フーズ・フォーラスは2018年に遺族に対して約1億7000万円の損害賠償を命じる判決を言い渡されました。また、2012年2月から特別清算の手続をしていたものの、2023年3月28日には破産開始決定を受けました。

人の口に入れる物を製造・販売している会社としての社会的責任をまっとうしないことで、法的責任に繋がり、かつ、会社そのものが潰れてなくなってしまった代表例です。

WWEの社長が取材に回答した内容を見ていて、焼肉酒家えびすと同じ顛末を辿るのではないかとさえ危惧しました。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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