ビッグモーターの問題が発覚した後の損保ジャパンの取引再開に向けた経営判断と取締役・監査役の責任。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

ビッグモーターによる保険金の不正請求問題に関し、現在の話題の中心は、ビッグモーターから損保ジャパンに移ったようです。

損保ジャパンがビッグモーターとの取引を再開した経緯

損保ジャパンからビッグモーターに37人が出向していただけでなく、

  • 問題発覚後も損保ジャパンがビッグモーターを優良工場とみなし、簡易調査と呼ばれる措置を続け、不正を助長した疑いがあること
  • 2022年7月6日の役員会議で、ビッグモーターの自主調査の結果を受けた後の対応を協議した際に、調査結果を疑問視する役員もいたが、白川代表取締役社長兼社長執行役員は追加調査を行えばビッグモーターとの関係悪化が懸念されるとして、追加調査を行わずに、中止していた事故車両のあっせんを再開してはどうかと発言していたこと(その後、ビッグモーターとの取引を再開した)
  • 7月6日の役員会議の数日前に、白川社長は、不正を否定したビッグモーターの自主調査結果は同社に都合よく改ざんされたものだと部下から報告を受けていたこと

などが報じられています。

報道内容の真偽はわかりません。取引が再開された経緯は本日2023年8月31日付で金融庁に報告されるとのことなので、今後、詳細が明らかになると思います。

※2023/10/12追記

10月10日に社外調査委員会から中間報告書が発表され、取引再開に至った経緯などが明らかになっています。

※2024/01/26追記

2024年1月16日、SOMPOホールディングスは外部調査委員会の調査報告書を公表しました。

2024年1月25日、金融庁は損保ジャパンとSOMPOホールディングスに業務改善命令を発しました。

経営判断としての合理性

ビッグモーターによる保険金の不正請求において、ビッグモーターは加害者、損保ジャパンは被害者です。

それにもかかわらず、全容が解明されないまま、加害者であるビッグモーターとの取引を再開した経営判断の合理性は甚だ疑問です。

コンプライアンス違反をした企業との取引を一切止めるべきとは思いません。

コンプライアンス違反をした事実を当該企業が認め、原因を究明し、再発防止策まで真摯に取り組んでいるのであれば、その後の取引を再開してもよいと思います。

しかし、そうした姿勢がまったく見えない企業との取引を再開することは、今後も損保ジャパンの被害額を増やす可能性が残っている中で取引を再開することを意味します。被害の拡大、ひいては損保ジャパンの企業価値を損ねる経営判断です。

損保ジャパンがビッグモーターに支払う保険金の原資が、顧客が支払った保険金であるという意識をまったくもって欠いたままの経営判断であるように思います。

ましてや、ビッグモーターの自主調査の結果が改ざんされたものだと報告を受けていた社長が、役員会議で取引再開を促すのは、経営判断の過程と内容の両面において、合理的な経営判断とは言えないのではないでしょうか。

他の取締役と監査役は何をしていたのか

報道によると、白川社長が取引再開を促したときに、調査結果を疑問視する役員もいたとのことです。

でも、最終的には役員会議の後、取引を再開しているのですから、役員会議で取引再開が賛成過半数により承認可決されたということなのでしょう。

そうだとすると、取引再開という不合理な経営判断を承認した他の取締役の責任や、その経営判断を止めることができなかった他の取締役や監査役の監視監督義務違反も問題になります。

役員会議で反対意見を述べ、反対票を投じたなら、監視監督義務違反にはなりにくいとは思います。監査役も意見を表明し、議事録に記載されていたのなら、監督義務違反にはなりにくいかもししれません。

ただ、監査役の場合には、単独で差止請求権を行使できる立場にあります。

不合理な経営判断であるとして差止請求権を行使することを考えたのかどうか。

もし仮に金融庁から業務停止命令でも命じられたときには、著しい損害が発生したということになります。

そのため、監査役は、違法ではない/著しい損害を生ずるおそれがあるとまでは言えないから行使しないと判断したのか、それとも何も考えずに差止請求権を行使しなかったのか、監査役としての意思決定の過程や内容如何によっては、監査役の責任も問題になりうるはずです。

まだ詳細がわからないので、何とも言い切れませんが、白川社長の責任はもちろんのこと、他の取締役や監査役の責任がどうなるかについても、金融庁から表明される見解や、損保ジャパンの調査報告書などを通じて明らかになるのを待ちたいと思います。

※2023/9/9追記

9月8日、白川社長は辞任することを明らかにしました(辞任時期未定)。

※2024/01/26追記

2024年1月26日、SOMPOホールディングスはグループCEO取締役代表執行役社長の退任を発表しました。

また、損保ジャパンの白川代表取締役社長社長執行役員が1月31日付けで退任することを発表しました。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
error: 右クリックは利用できません