京都新聞HDが大株主である元相談役に34年間で約19億円を利益供与していた疑い。監査等委員会設置会社に移行したことで再発は防止できるのか?

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

京都新聞HDが2023年6月29日の定時株主総会にて監査等委員会設置会社に移行することを決議しました。

大株主である元相談役に34年間で約19億円もの報酬等を支払っていたことが、会社法が禁止する株主に対する利益供与に該当すると、2022年4月に第三者委員会による調査報告書で認められたことがきっかけです。

そこで、今日は、監査等委員会設置会社への移行によって再発が防止できるのか、監査等委員会設置会社だと監査役会設置会社と何が違うのかについて、です。

京都新聞HDが大株主である元相談役に34年間で約19億円もの報酬等の支払い

京都新聞HDが監査等委員会設置会社に移行したきっかけは、大株主である元相談役に34年間で約19億円もの報酬等を支払っていたことが、会社法が禁止する株主に対する利益供与に該当すると、2022年4月、第三者委員会による調査報告書で認められたこと、です。

調査報告書と京都新聞によると、34年間の報酬等支払いに終止符を打った経緯は以下のとおりです。

  1. 2020年3月頃、グループ全体でコスト削減を議論していた際、大株主である相談役(当時)に多額の報酬を支払っていることがコンプライアンス上問題ではないか、利益供与に該当するのではないかと指摘する声が挙がる。
  2. 2020年6月に就任した代表取締役社長(それまでは常務取締役。2021年6月社長交代、2022年6月取締役退任)が、グループの関係者から再度指摘を受けた。
  3. 代表取締役社長(当時)が顧問弁護士からの意見聴取、監査役への報告、大株主である相談役(当時)との面談を経た後、2021年3月17日、取締役会で相談役からの解嘱と報酬の支払い停止を決議
  4. 京都新聞HDは、2022年6月29日、大株主である元相談役らに対し、19億円のうち消滅時効が到来していない約5億1100万円について返還を求める訴えを提起
  5. 2022年6月に京都新聞の記者らが加入する労働組合が利益供与罪で刑事告発。しかし、2023年3月20日、京都地検は嫌疑不十分により不起訴

調査報告書の要旨は、京都新聞が報じています。実名が入っている分、公開されている調査報告書よりもわかりやすいです。

大手メディアが、自社の不祥事を詳細に報じることは珍しいのではないでしょうか。

それだけ、大株主である元相談役と手を切ることについて当時の社長が腹を括り、全社が一致団結しているようにも見えます。

再発防止策としての監査等委員会設置会社への移行

監査等委員会設置会社なら再発は防止できるのか

京都新聞HDは、再発防止策として、社外取締役2人と社内取締役1人から構成される監査等委員会を設置する監査等委員会設置会社に移行するようです。

監査役会設置会社ではなく監査等委員会設置会社なら再発は防止できるのでしょうか?

答えとしては、結局は、社内取締役次第です。監査役会設置会社であろうと、監査等委員会設置会社であろうと同じです。

監査等委員会設置会社は、監査等委員会の過半数を占める社外取締役が取締役会決議での意思決定に1票を持って参加することで、その影響力により社内取締役を監視監督することが期待できます。監査役会設置会社に比べれば、社内取締役に対する牽制が効きそうな印象を受けます。

しかし、結局のところ、監査等委員である取締役も取締役会決議の1票を持つだけです。

従来の京都新聞HDのように社内取締役の多数が大株主である相談役(当時)に多額の報酬を支払うとの適切ではない経営判断をすることに賛成すれば、仮に監査等委員である取締役、特に社外取締役が反対票を入れても、可決されてしまいます。

社内取締役の適切ではない経営判断を止めるとすれば、最終的には、監査等委員である取締役、特に社外取締役が反対票を投じると同時に、社内取締役の中から何人かが適切ではない経営判断にNOを突きつける必要があります。

社内取締役を切り崩すために社内取締役を説得する必要があるのは、監査等委員である取締役が行おうと、従来どおり監査役が行おうと同じです。

社内取締役が社内の派閥抗争や力関係に重きを置いている限り、監査等委員である取締役が説得しても、その影響力は従来の監査役による説得と大して差はありません。

社外取締役と社内取締役が反対票を投じても適切ではない経営判断がなされそうなときには、最終的には差止請求を行使するほかなく、それは、監査役と同じです。

どこかの段階で社内取締役が過去と決別する、大株主と対決・対峙すると腹を括らなければ、何も変わりません。

腹を括るというのは、大株主の機嫌を損ねて自分が役員から解任されるかもしれないリスクを受けいれることです。

その意味で、京都新聞HDは、2020年3月以降、グループから問題視する声が出てきたこと、それを受けて、当時の監査役が社長に催促したこと、当時の社長が大株主と面談したことなどが、腹を括った動きです。

腹を括るための大義名分の作り方

腹を括ることが必要とはいえ、社内取締役の多くは出世の延長、ゴール間近で取締役に就任したわけなので、その地位を簡単には手放したくはないでしょう。腹を括るのは、言うは易く行うは難し、です。

では、どうやって腹を括ったら良いでしょうか。

その答えは、過去と決別する、会社への影響力が大きい関係者と対決・対峙する大義名分を作ることです。

今は、不正・不祥事が起きた場合には、第三者委員会など社外の者に調査報告書などを作成してもらい、それに基づいて不正・不祥事対応をすることが一般化してきました。

アグレッシブな会社は昔から顧問弁護士ではない社外の弁護士に意見書を作成してもらい、その意見書に照らして不正・不祥事対応をやっていました。私が弁護士になった22年前からそのような会社のために意見書を作成したことは何度もありますし、今でも第三者委員会などを立ち上げるまでもない規模の不正や不祥事のときに、意見書の作成や、第三者としての調査や判断を依頼されることはよくあります。

こうした第三者委員会による調査報告書、顧問弁護士ではない社外の弁護士による意見書が指摘していることを錦の御旗の代わりに、過去と決別する、会社への影響力が大きい関係者と対決・対峙するのが、もっともハードルが低い腹の括り方なような気がします。

最近の社長解職のクーデター成功事例も同様のパターンが目立ちます。

指名報酬諮問委員会の設置

京都新聞HDは、再発防止策として、指名報酬諮問委員会も設置するようです。

今回のケースは、34年間にわたって大株主が相談役の地位にあり、相談役としての職務を果たさず、大株主としての立場からのコメントしか特に発しなかったにもかかわらず、相談役としての報酬を支払っていました。

京都新聞HDでは相談役は取締役ではないようなので、指名報酬諮問委員会の対象外です。そのため、指名報酬諮問委員会を設置したからといって、何ら職務を果たさない相談役に委嘱するなど今回と同様のケースを直接予防することはできません。

しかし、指名報酬諮問委員会があることで、取締役会が何ら職務を果たさない者を相談役に委嘱し続けたときや高額な報酬など無用な支出を続けたときには、その取締役を重任候補者にしない、という形で、今回と同様のケースを間接的に予防することはできそうです。

とはいえ、指名報酬諮問委員会は、取締役在任中に取締役会が何を決議したかなど具体的な決議内容・意思決定の妥当性や業務執行の妥当性までも観察しておかなければ、取締役が重任に値するかを判断することはできません

指名報酬諮問委員会が実質的に監査等委員である取締役と同様の作業を強いられることになります。そのため、指名報酬諮問委員会のメンバーは、必然的に、監査等委員である取締役が兼ねることが求められます。

報道だけでは、京都新聞HDの指名報酬諮問委員会のメンバーが明らかではありませんが、おそらく監査等委員である取締役もメンバーになっているはずです。

また、監査等委員である取締役はお飾りではなく、きちんと妥当性までも観察する役割を果たす者でなければなりません

このような指名報酬諮問委員会がキチンと機能すれば、過去との決別しない取締役や会社に影響力が大きい関係者との決別・対峙しない取締役は、指名報酬諮問委員会から重任候補者に選ばれないことになります。その意味で、指名報酬諮問委員会の設置は、社内取締役が腹を括るための後押し材料にはなりそうです。

まとめ

再発を予防できるかどうかは、監査等委員会設置会社であるか、指名報酬諮問委員会が設置されているかではなく、最終的には、社内取締役が腹を括れるかに係っています。

監査等委員会設置会社や指名報酬諮問委員会は社内取締役が腹を括るための後押し材料でしかありません。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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