従業員がSNSを私的に利用することを会社はどこまで規制・制限できるのか。

こんにちは。弁護士の浅見隆行です。

SNS全盛期の今、従業員がSNSを私的に利用して炎上するケースも相次いでいます。

共同通信社では「SNS利用などでトラブルが相次いだことを受け」、2023年5月1日からSNS利用指針を改定しました。これに対し、社内から「意見が発信しにくくなる」と批判があがっている、と報じられています。

一般的な事業会社ではどこでも「SNSを利用する際に会社の信用を低下させないこと」「社名や従業員の立場を明らかにするときには慎重に投稿すること」をルールにしています(明文化していない会社でも、少なくともSNS利用のコンプライアンスとして従業員に教育している会社がほとんどだと思います)。

一方、マスメディア、特に新聞記者は、社名や肩書きを入れてSNSに個人の意見、特に政治的意見を投稿していることが目立つ印象を受けます。

「好きに投稿したいなら従業員としての立場を明示しないで、社名や肩書きを外して匿名で利用するか、個人事業主になればいいのに」「社名や肩書きを付けて投稿するなら、会社の信用を低下させない内容に留めるべきではないか」と以前から疑問に思っていました。

今回の共同通信社の対応はマスメディアも一般的な事業会社と同様の水準で規制しようとするものなので、何故に批判があがるのか理解ができません。

そこで、今日は、従業員がSNSを私的に利用することについて会社はどこまで規制、制限ができるのか。SNS利用に関する社内ガイドラインやポリシーに違反したことを利用に処分などができるかについて説明します。

従業員がSNSを私的に利用することを会社が規制する必要性

従業員がSNSを私的に利用して炎上するケースは、大まかに以下のパターンがあります。

  1. 著作権その他の知的財産権を侵害する投稿
  2. 個人情報や企業秘密(営業秘密、限定提供データを含む)を含んだ投稿
  3. 取引先や個人を中傷する投稿(人種差別含む)
  4. わいせつな投稿
  5. 政治、宗教に関する意見
  6. バカッターに代表される不適切、不謹慎な投稿

いずれも、内容次第では、取引先や個人から従業員が損害賠償請求や刑事告訴されます。懲戒処分に至るケースも少なくありません。

2018年9月には、日産自動車が発表していない新車が工場内に置かれている写真2枚をTwitterに投稿した取引先の従業員が刑事告訴され、偽計業務妨害で50万円の罰金に処せられたケースがあります。

それだけでなく、会社が使用者責任を追及されることもありえます。使用者責任を追及されずとも、会社の信用が低下することは容易に想像がつきます。

先日も広島マツダで従業員が不適切な投稿をしたことで、謝罪のリリースを公表したばかりです。

会社に損害・損失が発生することを予防するために、内部統制の一環として、従業員がSNSを私的に利用することを会社が制限する必要性は十分にあります。むしろ、内部統制の一貫として、ガイドラインやポリシーを整備しなければならない義務があると理解すべきです。

従業員がSNSを私的に利用することについて他の会社に先駆けてルール(ソーシャルコンピューティングガイドライン)を定めたのは、IBMやコカコーラだと記憶しています。

SNSが話題になり始めた2010年ころ、SNSの利用に関するルールを作成した例として、社内研修などでよく紹介させていただきました(コカコーラの例がネットからは見られなくなってしまったので、引用している記事を紹介します)。

従業員がSNSを私的に利用することを会社が規制することの適法性

就業規則の服務規律との関係

従業員が会社名義のアカウントでSNSを利用するときに会社が制限できるのは当たり前だとして、私的に利用するときにも規制できることは適法なのでしょうか?従業員のプライベートまで制限することが許されるのでしょうか?

結論から言えば、適法です。プライベートを制限することは許されます。

どこの会社にも就業規則に服務規律の定めがあり、「会社の名誉、信用、信頼を低下させる行為」を禁じているはずです。

従業員がSNSを私的に利用することを会社が制限することは、この「名誉、信用、信頼を低下させる行為」か否かの基準を会社が示したものと言えるからです。

そのため、会社が定めたSNSの利用に関するガイドラインやポリシーに違反すれば、就業規則の服務規律違反となるので、社内処分することも可能です。

従業員の表現の自由、プライバシーとの関係

他方で、従業員にも表現の自由、プライバシーがあります。

そのため、SNSを私的に利用することを一切禁止する、従業員がSNSに投稿した内容をすべて監視する、従業員からSNSのアカウントを届出させることまですると行き過ぎた表現の自由の制限、プライバシー侵害として、違法になる可能性があります。

会社が規制できるのは、服務規律との関係だけに留めることが必要です。

共同通信社の場合

今回の共同通信社の場合は、以下の内容が定められています。

  1. (社外活動の)不許可事由に「社の立場が特定の利害関係者や政治的主張に偏っていると疑わせる行為」を追加します。社外言論活動の内容を確認するため、必要な場合は、社外言論活動の記述等の内容について、社が提出を求めることができるとする条文を新設します。
  2. 社への届け出、使用許可が必要なケースに、投稿内容から共同職員と推定できる個人アカウントを加え、許可が必要ないアカウントを運用する場合でも社の研修を受講するように求める努力規定を置きます。
  3. 「禁止事項」に社外言論活動規定と同様の内容を盛り込むほか、勤務時間中は業務に関係のないソーシャルメディアの利用、発信を禁じる規定を新設します

1は、共同通信社の信用を低下させる行為の例を追加したものと考えられるので、服務規律の範囲内と言えます。なお、後半部分は、次の日経クイック情報事件とも関連するもので、会社による調査への協力を求めたものです。

マスメディアですから公平・中立性が求められる立場です。特定の利害関係者に肩入れしていること、政治的な意見が偏っていることを表に出すことをなるべく避けたいとの共同通信社の姿勢を見て取ることができます。一般的な事業会社なら当たり前のことを定めたに過ぎません。

2も、共同通信社の従業員であることがわかるのであれば、もはや「私的な利用」ではないと判断するものです。これも会社の信用を低下させないようにするためで、服務規律の範囲内です。

SNSを利用して政治的な意見などを発信したいのであれば、共同通信社の社名や肩書きを頼らずに純粋にプライベートで利用することを求めるもので、一般的な事業会社なら当たり前でしょう。

3は、勤務時間中に業務に関係のないSNSの利用を禁じるものなので、職務専念義務に関するものです。記者の場合にはデスクワークではなく待機時間や移動時間が多いのでSNSを利用しやすい環境にあることは否定できませんが、一般的な事業会社と同等レベルの職務専念義務を求めるものと理解することができます。

どれも記者の表現の自由やプライバシー侵害とは言えないのではないでしょうか。

日経クイック情報事件

SNSではありませんが、会社が従業員の私用メールを調査し社内処分にしたことが従業員のプライバシーを侵害しないかが問題になった裁判例として、日経クイック情報事件があります(東京地裁2002年2月26日)。

結論は、違法ではない(合法)と判断されました。

事案の概要は以下のとおりです。

  • 日経クイック情報のある従業員宛に親会社の日本経済新聞社の部長名を騙って誹謗中傷するメールが複数回送られてきたので、社内調査をしたところ、発信者の疑いがある従業員を特定できたので事情聴取したものの、本人は否認した。
  • そこで、会社がメールサーバーを調査した結果、誹謗中傷メールは見つからなかったけれど、私用メールが多数見つかったため、就業規則の「会社資産の不正利用」を理由に、けん責処分(懲戒処分)にした。
  • これに対し、私用メールの調査は名誉権、人格権、プライバシー権侵害であるなどとして500万円を損害賠償を請求しました。
  • 裁判所は、調査の必要性がある、私用メールは職務専念義務・企業秩序に違反する、会社所有のメールサーバーであり調査は許容される、調査妨害のおそれがあるので事前に告知しなかったとしても不当ではない、私用メールが多量であることなどを理由に、請求を棄却しました。

日経クイック情報事件の判例を参考にすると、従業員が私的に利用しているSNSの内容を監視することができるのは、情報を漏えいした、炎上した、業務時間内の利用が多いなど監視する必要性がある場合に限られる、と考えた方がよいでしょう。

共同通信社が「社外言論活動の内容を確認するため、必要な場合は、社外言論活動の記述等の内容について、社が提出を求めることができるとする条文を新設します。」としたのは、ここに該当します。

まとめ

会社は、従業員がSNSを私的に利用することで損害、損失を被らないようにガイドラインやポリシーなどを整備しなければならない内部統制上の義務があります。

就業規則の服務規律で「会社の名誉、信頼、信用を低下させる行為」を禁じているので、SNSの利用を制限するガイドラインやポリシーは、この内容を具体化したものです。

そのため、ガイドラインやポリシーに違反したときには社内処分することができます。

その一方で、従業員の表現の自由やプライバシー侵害にも配慮する必要があるので、ガイドラインやポリシーで規制できるのは、会社の信用に関わるものや職務専念義務、秩序保持の観点から求められるものに限られます。

アサミ経営法律事務所 代表弁護士。 1975年東京生まれ。早稲田実業、早稲田大学卒業後、2000年弁護士登録。 企業危機管理、危機管理広報、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、情報セキュリティを中心に企業法務に取り組む。 著書に「危機管理広報の基本と実践」「判例法理・取締役の監視義務」「判例法理・株主総会決議取消訴訟」。 現在、月刊広報会議に「リスク広報最前線」、日経ヒューマンキャピタルオンラインに「第三者調査報告書から読み解くコンプライアンス この会社はどこで誤ったのか」、日経ビジネスに「この会社はどこで誤ったのか」を連載中。
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